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第106話Date

ハルはどんどん先へ向かっていく。一体どこへいくつもりなのだろう。 「歩いていくのか…?」 「上杉さんに今から連絡しても到着に時間かかるだろうし、二人きりで行きたいからね。電車使おう」 なるほど、駅に向かっているのか。ハルの家の方向とは逆だった。 歩いて数分で駅に着く。 「あ…俺、定期とか無いし金もねぇんだけど…」 「そっか、ICカード作る?」 「いつも使わねえんだから切符でいいだろ…」 「切符かぁ…買ってみるね」 ハルは楽しそうに切符を購入する。どうやらそれを見るのも初めてなようで、適当なボタンを押さないように何度か口を出した。 「はい、どうぞ」 「あり…がと…お前、切符買ったことねえの?」 「電車なんて滅多に使わないからね。女の子に連れられることはあったけど車で送ってもらってたし」 流石ボンボンだなと思いながら歩くハルについて行く。どれに乗るか分かっているのだろうか。 「どこ行くんだ?」 「三駅くらい先のところのショッピングモール。確か大きめの手芸用品店もあったし、食材もその辺りで買えるから」 「お前ちゃんとどれ乗るか分かってるのか?」 「さっき調べたからもう全部覚えてるよ。上りだしこの時間だから少し混んでるかもね」 ということは、その調べたページを一目見て記憶したということか。相変わらずこいつはぶっ飛んでいる。 そのまま階段を降りてホームで待つ。ハルが言う通りホームにも人が多い。周りがやけにこちらを見ているのは、恐らくハルのルックスが目を惹くものだからだろう。 「電車きたよ、人に潰されないようにね」 「潰れねえよアホ」 そのまま流れるように中に入っていく。夏休みだからか出かけに行く人間でいっぱいだった。何とか入って乗り込み、ハルは子供のようにドアの窓から外を眺めている。 特にどこか掴めるところが無かったので、腕を組んで着くのを待つ。三駅と言っても快速で三駅なので、実質は五、六駅の時間がかかる。 ぼーっとしていると、ふと下半身に何かが触れているのに気づく。誰かの荷物が当たっているのかと思い少し体の向きをずらすが、それでもやはり何かが当たっている。 まさかなと思うが、よくよく考えてみたらそれは人間の手だった。俺の体はハルの方を向いていて、ハルは窓を見ているから俺の後ろにいる誰かだ。俺が男だと分かっていて痴漢しているのだろうか。 耳元でハァハァという気持ち悪い吐息が聞こえてきたので、しびれを切らしてそいつの手を掴む。 「おい…」 『はぁっ…顔も可愛いねぇ』 ガタンと電車が揺れて手を離してしまう。すると、後ろにいた男の下半身が俺に密着した。既に硬くなっているそれが擦り付けられる。背筋がぞわっとして寒くなる。周りに気づかれるのは嫌だから、小さな声で後ろに話しかけた。 「いい加減にしろ…俺は男だぞ」 『はは…分かってるよ…僕は気の強そうな男の子が好きなんだ…』 「…っやめろよ…気持ち悪い」 『きみだって周りの人に気づかれたくないよね…?男が痴漢なんてされるはずないから言っても無駄だよ…ふふふ』 さっきの揺れで、ハルとの間が少し空いてしまった。それにハルは俺の方にまだ気づいていない。これくらいなら自分でなんとかできるはずなのだが、この満員電車では身動きが取れないし、手を離してしまったから抵抗ができない。 男の手が尻に触れて揉みしだかれる。恐怖心から声が出ない。駄目だ、ハル以外に触れられるのは嫌だ。ただ俯いて耐えることしかできない。 「っ…!」 『い゛っ…いだっ痛い!!』 後ろの男が急に叫び始め、乗客がこちらに注目する。男の手は離れ、俺は片手でハルの胸に抱き寄せられる。 「おっさん、男に痴漢なんてどうかしてるんじゃないの?やめなよ、そういうの。男だったらいいなんてこと無いからね?」 『ご、ごめ…ごめんなさい!!』 周りはザワザワと騒ぎ始める。丁度その時駅に着いて、その男は一目散に駆けて行った。 ハルは小さく舌打ちすると、俺をドアのある角の方へ追いやって、ハルの腕の中に閉じ込めた。 ハルの服を掴んで、その匂いで心を落ち着ける。ハルはブツブツと何かを言っていた。 「ごめんね…全然気がつけなくて」 「ゃ…俺、も…ごめん」 「無理しないで、怖かったでしょ?」 「…ん…でも、少しだけ…だったから」 「少しでも俺は嫌だよ。どうする?今日は帰る?」 ハルはとても心配しているようで、不安そうな顔をして俺を見た。 俺は首を横に振る。 「お前と…一緒に買い出し、行くから…」 「っ…わかった。帰りは車出してもらおうね」 俺の体は、ハルにすっぽりと隠されて周りの乗客からは見えていなかった。もしかしたら、皆痴漢されたのはハルの方だと思っているかもしれない。 まだあと数駅分時間はかかる。ハルに体重を委ねていると、再び下半身に違和感を感じた。しかし、俺の後ろにあるのは壁だ。ということは… 「…おい、てめぇ何やってんだよ」 「ごめん…なんかそういう気分に…」 「ふざけんな…電車の中だぞ」 「分かってるけど…他人に触られたの許せなくて」 ハルの手が優しく太腿をなぞる。それだけで肩が震えてしまう。ハルに触られるのは、他の人間に触られるのとは訳が違う。 「ぁ…耳、だめ、だって…」 「電車の中でそんな声出しちゃダメでしょ?」 耳に息を吹きかけられ、淵に沿って舌で舐められる。ハルの服をぎゅっと掴んで、声を抑えた。 「ん…んっ……」 「痛っ…!」 ハルの手の甲を思い切り抓った。ようやく観念したようで、諦めてドアに手をつく。少し見上げるとハルの顔がある。何度見ても整っている顔立ち…正直、今まで何度か見惚れてしまったことがある。そういえば言い合いになったきっかけは俺があんなことを言ってしまったからだったなと思い出す。 こいつの言うとおり俺はこの顔が好きなのかもしれない。勿論顔だけでなく、探せば他にも好きなところがあるはず… 「ん?…もしかして、まだ怒ってる?」 「あ、いや…まぁ、怒ってはいるけど」 「…ああ、俺の顔がかっこいいな〜って?」 「なんでわかったんだ?」 「え?!」 「あ、いや、違う」 うっかり本音を言ってしまい、その後もしつこく絡まれる。目的の駅に着いて、うるさいハルを無視して先に駅の出口まで歩いていった。 「待ってよ勇也〜」 「…早く来いよ」 「手つなご」 「嫌だ…周りに人いっぱいいるだろ」 繋ぐこと自体が嫌な訳では無い。男同士で手を繋いで歩くなんて、〝普通〟じゃないことくらい、俺だってわかっていた。 「あ、こっちこっち。ここ渡ってすぐだよ」 駅から10分ほど歩くと、そのショッピングモールが見えてきた。どうやら駅からバスも出ていたらしい。ハルは、手を繋がない代わりに俺の歩幅に合わせて隣を歩いた。 …………… 「それで、デザイン図にはサイズとか書いてあるの?」 「あー…うん、お前の以外は」 「そうだよね、俺図られた記憶ないもん」 「メジャー借りてくるか…」 カウンターでメジャーを借りて、こっそりハルの服のサイズを確かめる。 「こういうのって一から全部作るの?」 「いや、そんなことしてたら四人じゃ終わらない。簡単な衣装はシンプルで安めな服を買っておいて装飾をつけるだけでいいだろ」 「なるほど〜ドレスとかは?」 「あードレスとお前の服はパターンから作らないと無理だな…こんな服売ってねえし」 ドレスは流石に作ったことはないが、女子達がパターンを書いてくれていたおかげで、この通りに作れば何とかなりそうだ。 「こういうのって作るのにどれくらいかかるの?」 「時間的には…まぁ毎日ちまちまやってれば八月中旬には作り終わるだろ。生地はシフォン生地かシャンタンだな…あまりコスプレ感が出ないようにしたいが値段もかけられない…」 「勇也って何でもできるんだね…」 「…お前ほどじゃねえよ」 ある程度の材料を買い揃え、裁縫道具等も一式揃えた。少し荷物が多くなってしまったが、車で帰れるなら問題はなさそうだ。 「あ、おっさん達着いたみたい。ついでだから荷物先に運んでおいてもらおっか。俺まだ買いたいものあるし」 そう言うのでしばらくそこで待っていると、例の二人組がやって来た。 『よう、久しぶり…この前は大変だったみたいだな』 『俺達も聞いてびっくりしたぜ』 「その節は心配かけてごめんね。もう大丈夫だから…はい、これ持って行って」 『相変わらず人使いがあらいな…』 「つべこべ言わずに持っていく。はい、車で待ってて」 『へいへい…』 やはり、だいの大人がハルの召使いのように扱われているこの光景は不思議だ。二人が行ったのを見ると、ハルは嬉しそうにこちらを見る。 「じゃあ、買いたいものあるから一緒に選んで」 「はぁ?俺が…?センスとかねえけど…」 「センスないのは知ってる」 「だったら俺に頼るなよ…」 「でも勇也に選んでほしいから」 「何を」 「ん?ピアスだけど」 ピアス…?なんでまたそんなものを。 「お前風紀委員だろ」 「いいじゃん夏休みくらい。それに勇也のピアスの数アンバランスだからさ、ね?お揃いにしよ」 そう言って俺のひとつしかピアスの空いていない右耳を触る。それに反応してしまったので恥ずかしくなってハルの手を払った。 _____________________ 実生活が忙しいため、更新頻度が下がります。この話も修正はまだしていないのですが、随時準備が整ったら更新していきます。 (どうしても続きが気になる方はBLoveさんのサイトでこの本作品を探してみてください)

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