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第134話Detach②
ハッとして目を覚ますと、薄暗い部屋の天井が見えた。広めのベッドに一人で寝ていたようだ。
さっきの店内とは違う。一体ここはどこだろうか。
あいつは、どこにいる
探そうとしたけれど、体が怠くて起き上がれない。何とか体を動かすと、自分の腕が頭上でベッドに拘束されていることに気づく。
全身に鳥肌が立って体が強ばるのがわかる。
するとどこからともなく声が聞こえてきた。
「目が覚めたか、どうしたんだいきなり倒れて。大丈夫か?……なんてな」
「ぁ…っ…なん、で…」
声が震えて思うように話せない。
もっと注意していれば
最初から怪しんでいれば
俺が信じなければ
「こんな簡単に信じるなんてな。よっぽど愛情に飢えてんのかぁ?」
うっすらとしか見えないが、男の顔はまた赤らんでいる。
気味の悪い笑い声を発しながらゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「く、来るな…」
「お前もつくづくツいてないなぁ、本当可哀想なやつ」
「さっきの話…全部」
「嘘だよ、何から何まで」
真面目に働いて、普通に暮らしていることも
俺を心配して探偵に依頼したことも
愛してると言ってくれたことも
全て嘘だったというのか。
「実はな、とあるヤクザ…あー極道って言えって言われてたな。その極道の家の爺さんに拾われてよぉ」
嫌な予感がするのは、それに思い当たる節があるからだ。
恐らく虎次郎でも、真田のところでもない。
「今はそこで自由にさせてもらってんだ。俺には悪人の素質があるんだってよ。本当は小笠原について調べるつもりだったんだがその調査も今は打ち切りでな」
やはり、武田と呼ばれている人物が関係しているのか。
そう考えれば全て合点がく。
「それで調べてたらお前が一緒に住んでるらしいじゃねえか。本当、運命的だなぁ?」
また鼓動が早くなる。
気づくのがすべて遅かった。
取り返しのつかない事態に踏み込んでしまった。
「お前のせいで、俺の性癖も捻じ曲がっちまったんだよ。おかげでずぅっと溜まってんだ」
「何…言って」
「どうせお前が中学生になったらやっちまおうと思ってたんだ…何ら変わりねぇよなぁ?」
ジャケットを脱いで、ネクタイを乱暴に緩めながら息を荒くして近づいてくる。
これは夢だ 悪夢だ 夢なら早く醒めてくれ
「やめ…やめろ…!」
「抵抗したらどうなるか分かってるよなぁ、お前じゃなくて、小笠原の坊ちゃんがよ」
でも、ハルなら虎次郎とも繋がりがあるし、病院がバックについている。
こいつが言っているのもハッタリかもしれない。
「危害を加えるって…どうするつもりだよ」
「あのなぁ、小笠原の息子だから大丈夫とでも思ってんのかもしれねえけどよ。お前のオトモダチは次男だろ。それに…」
寒気がするほどの笑みを浮かべて、顔を近づける。大嫌いな酒の匂いがした。
「裏社会じゃあ子供一人消すくらい造作もねぇことなんだよ。病院だってヤクザとの繋がりが公になるようなことしたくないだろうしな」
これはきっと冗談でも脅しでもない。本気だ。
俺が抵抗しなければ、ハルが助かる。
だったら、選択肢は一つしかないじゃないか。
「大人しくなったな。そんなにオトモダチが大事か」
近づいてくるそいつをきつく睨みつけるが、体の震えが止まらない。
俺の胸ぐらを掴んで、恨めしそうな顔をしながら耳元で怒鳴る。
「俺の人生を壊したのはお前の母親だ。あいつさえ…あいつさえいなけりゃ!」
母親は父親よりも2つ若く、18の時に俺を身篭った。
親戚や周りの人間から非難されても、もう俺を産む選択肢しか無かったらしい。
最初こそ二人で俺を大事にしてくれていたのかもしれない。そういった三人の幸せな記憶も少なからずあった。
けれど、その幸せも長くは続かない。
母親は男を作っては遊び呆けて、父親は俺に何度も暴力を振るうようになった。
一体どこで間違えてしまったのだろうか。
俺が生まれてしまったことがいけなかったのかもしれない。
「なんだその生意気な目は…」
この後、俺は打たれるんだ。
経験上直感的にそう思った。
抵抗することはきっと出来る、けれどそれではハルを危険に晒すことになってしまう。
蘇ってきた恐怖から歯がガチガチと音を鳴らして震える。
その男の拳は容赦なく腹部に振り下ろされた。
「うっ…ぁ…」
「体を前みたくアザだらけにしたくなかったら大人しく俺の言うことを聞け」
この男には逆らえない。
体がそうやって覚えている。
俺の上に跨ったかと思うと、着ていたTシャツを捲りあげられて上半身が露わになる。
怖い
今までどんなに強い奴とやり合ってきてもここまでの恐怖は感じたことが無かったのに。
自分の父親であったこの男にだけはどうしても恐怖を感じざるを得なかった。
俺が頼れるのはハルだけだった。すべて救ってくれるのはハルだけだった。けれど今はそのハルを俺が守らなければならない。助けてほしいなんて絶対に言えない。
「余計な筋肉はついてるが細くて白いのは変わってねえな。けど大分色っぽくなってきたじゃねえか。女でも抱いたか、それとも男に抱かれてるのか?」
「うるさい…黙れ」
「分かってねえなぁ!」
今度は脇腹に拳がのめり込む。
暴力にはいくらでも耐えられる。
けれど体をいいように触られるのは嫌だ。
俺に触っていいのはハルだけで、この体はハルのためにあるのに。
「いいのか、お前がそういう態度をとる度にアザが増えるだけじゃなくてオトモダチも危険な目にあうんだぞ」
「…あいつ、には…何も…」
「じゃあ大人しくするんだな」
痛めつけるためでなく、明らかにそういう目的をもった触り方。
胸に手を滑らせてその先端を強く摘まれる軽い痛みとともに、ハルに慣らされた体は僅かながら快感を覚えてしまう。
気持ち悪い、吐き気がする
それなのに体は意志とは関係なしに反応して声が漏れてしまう。唇を血が出そうなほど噛み締めてそれに耐えるしかなかった。
「あっ…あ…い、やだ…」
「そう言いながらも感じてんだろ?淫乱。俺の他に開発でもされてんのか」
「ちが…あっ…ん」
優しくそこを捏ねる指が気持ち悪い。
耐えないといけないのに、淫乱なんかじゃないのに。
そういうカラダに作り替えられてしまった。
ハル以外にこんなことをされるのは屈辱以外の何物でもない。
荒い呼吸が耳にかかる。震えは一向におさまらず、重なった体を押し退けることも出来なかった。
その酒臭い口が、自分の唇に近づいていた。
「嫌だ…あっ…それ、は…嫌だ」
「なんだ、まだキスもしたことねえのか」
狂ってる。自分の息子に対して獣のように欲情するその姿。唇の端をあげたまま、もう一度顔が近づく。
「本当に…っ嫌だ…やめ…て」
「じゃあ…その口で俺のを舐めろ」
「そん…な…」
「無理とは言わせねえからな」
既に固くなったその男のものが目の前に出される。吐きそうで目を背けてしまいたかった。
仰向けに寝たままの俺の頭を少し起こして、グロテスクなそれが唇に触れた。
「ほら、自分から舐めるんだよ」
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