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第136話Losts

「っーー!!い゛っあぁ!!」 痛み、驚き、そして有り得ないほどの喪失感。 無理矢理ねじ込まれたそれは中の肉壁を切り裂くかのように奥を突き進む。 見開いた目からは涙も流れてこない。ただ開いた口から悲痛な呻き声ばかりが漏れていった。 「チッ…やっぱり滑りが悪いな」 「あ゛…あ…なん、で!!いやだぁぁ!!」 「うるせえ!大人しくしてろって言ってんだろ!!」 立て続けに何度も殴られ、無理に動こうとすれば痣が痛んで体が悲鳴をあげた。 おそらく切れてしまったであろうそこに無遠慮な律動が加えられて、一層痛みは増していく。 「ぁ…あ、いた…いたい…たすけ」 「誰に助けを求めても無駄だ。お前のことなんか誰も助けに来ない。もう母親だって死んだんだからなぁ!」 「やだ…あ、いやだ!あぁぁあ!」 叫べばその度に体は痣を作っていく。 快感なんて程遠く、男はただ自分だけ快楽を得ようと動き続けた。 心の中でどんなにハルを呼んでも意味を成さない。呼べば呼ぶほどハルは遠ざかっていく。 本当に汚されてしまった自分はどうなるだろうか。 こうなってしまった俺の事までまだ綺麗だと言ってくれるハルはどう頑張っても思い浮かべることが出来なかった。 「最初から大人しくしとけ。もうアザだらけじゃねえか」 「ぁ…あ…ああっ…あ」 「そろそろだな…特別に、中に出してやるよ!」 やめてと言いたいのにもう何の気力も残っていない。 頭の中で考えるのはハルのことばかりで、どうしたらハルに変わらず愛してもらえるのかという思索を巡らせていた。 一気に早まった律動が奥を一突きすると止まり、生暖かいものが中へ流れ込んだ。 「…なかなか良かった。じゃあ次も頼んだからな」 「つ…ぎ…?」 「ここはさっきの店の二階だから覚えておけ。陰間茶屋って知ってるか、江戸時代頃から若衆が売春してたようなところだ。その名残が今でも残ってるんだと」 そんな説明など一切頭に入ってこなかった。 〝次〟という言葉を頭の中で反芻するが、自分の知っているその意味以外のなにものでも無いと分かり絶望する。 今日で関係を断ち切るつもりだった。 次があることなんて信じたくもないし、またこんなことをされると分かっていて行けるはずがない。 けど ハルを守るため、その為には行かなくてはならない。自分の体を犠牲にして、もし一生ハルとまともに触れ合えなくなったとしても。 ハルだけでも助かって欲しいと思う反面、ハルに捨てられてしまったら俺には何も残らないから、生きる意味すら失ってしまうのだと思うと怖かった。 「小笠原遥人に手を出さないで欲しいなら、毎週土曜日の朝ここへ来るんだ。俺もあまり時間はないから遅れたりしたら承知しねえからな」 「な…で…なん、で…」 「俺はもう行くから後始末は自分でしておけ。俺の連絡先が紙に書いてあるから今日中に登録しろ。そう簡単に逃げられると思うなよ」 それだけ言うと男はスーツを着直して部屋をあとにした。 一人残された部屋の中で、ようやく流れてきた涙がとめどなく溢れ出る。 「う…あぁ…ごめん、ハル…ハル」 この時間だけで自分はいったいどれだけのものを失ったのだろうか。 ハルが少しずつ成長して変わっていくのが自分のことのように嬉しかった。 ただハルが隣にいて、抱きしめてくれる夜が好きだった。 恋人になって、お互い見つめ合うのも照れくさくなってしまうのが幸せだった。 ハルと出会ってから積み上げられてきたものは、横から入り込んできた影に無残にも崩されて汚されてしまった。 薄暗い部屋の中で、自分の中のものを掻き出すことが死んでしまいたくなるほどに辛くて、しゃくりあげながら意味もなくハルの名前だけを呼び続けた。 お母さん、あなたのこと愛してるのよ 俺は心からお前を、勇也を愛しているんだ 全部、嘘だったんだ。 本当に欲しかったのはそんな言葉じゃない。 嘘の愛なんていらない。 それを毎回簡単に信じてしまう自分が嫌で嫌で仕方がなかった。 今回だってそのせいでこうなってしまった。 疑心暗鬼になってハルの愛まで疑いそうになってしまう。 けど違う、ハルは簡単に愛してるだなんて薄い言葉は口にしない。 〝信じてる〟それだけで充分だった。 今日のことをハルはどう思うだろう。 体が鉛のように重たかったが、早く帰らなくてはハルを心配させてしまう。 電車に揺られて家に帰った頃には11時になっていた。 カードキーを差し込み中に入ると、慌ただしく駆け寄ってくるような音が聞こえる。 「勇也!どこに行ってたの?どうして俺に何も言わないで」 「悪い…昔の知り合いに頼まれて、色々手伝ってたんだ。今日はたまたま代休で月曜だけど、これから毎週土曜の朝はそこに行かなくちゃなんねえから」 泣きそうなのを堪えながら、適当に考えた言い訳でこの場をやり過ごす。 ハルに嘘をつくことが心苦しくて顔を見られない。 「なにそれ…勇也が行かなきゃいけないの?」 「ああ、恩があるから」 「なら最初からそう言えよ、メモだけ残して出ていくことないだろ」 ハルの口調が強くなる。 怒っているのだろうか、当たり前だ。 「…ごめん、ハル」 何がごめんなのか、自分でもわからなかった。 「俺もついカッとなってごめん…でも、俺は本当に勇也のことが心配なんだよ」 「ごめん」 「もう怒らないから謝らないで。ちゃんと帰ってきてくれればそれでいいから。あんまり心配させないでね」 ハルは俺の体を抱き締めようと腕を開く。 だめだ 汚い 俺は汚い ハルに気づかれたくない そんな思いからハルを拒否してしまった。 ハルは驚いたような、苦しそうな顔をした。 「勇也…?なん、で…」 ハルの頬を両手で包んで、自分にも言い聞かせるように言った。 「大丈夫、俺は大丈夫だから。お前は安心していい」 ハルは俺が守る だから安心して 俺を愛して、その愛でいっそ殺して

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