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第139話Bad Birthday②

ひび割れた画面に表示されていたのは、あの男に撮られた行為中の写真の数々。 お互いが沈黙を守るこの間にも、通知音は止まることなく流れ続ける。 もうどうすることもできなかった。全てが終わりだと思った。 目の前に濁りのない透き通った水がぽたぽたと落ちて小さな水たまりを作っていく。 それは自分から流れていた涙ではなくて、俯いたハルの目から零れているものだと分かった。 「は、る…」 「うるさい」 「ごめ…」 「嘘だって言って」 ハルが泣いているのを目の前で見たのは初めてだった。 しかしその涙にそぐわず、顔は感情を表にだしていない。 あの冷たい目が、俺を見下ろしていた。 「誰かにやらされたんでしょ、ちゃんと言ってよ」 何も言えない。だって言ったらハルがどうなってしまうか分からないから。 大丈夫、ハルは俺が守る。 「言えよ…どうして何も言わないんだよ!」 ハルがそうやって叫ぶけれど、俺はやっぱり何も言えなかった。 ただ涙を流しながら俯く。ハルの冷たい目を見ていられなかった。 「言えないの?勇也が望んでやったことなの?」 違う 「信じてたのは、俺だけだったの?」 違う 「そうやって俺を騙して楽しかった?」 違う 「最初から誰にも愛されてなかったんだ」 愛してる けど、言えない ゆらりと体を揺らしてハルは俺に背を向ける。 目の前の幸せはずっと脆くて、最後にそれを壊してしまったのは自分自身だった。 どこか嘲るように鼻で笑って、もう手を伸ばせない背中から涙を堪えた声が聞こえてくる。 「俺は勇也に散々酷いことをしてきたから、これが復讐なんだとしたら完璧だったよ。勇也と過ごした時間、本当に幸せだった。今までありがとう…ごめんね」 行かないで 声にならなかった。行ってしまう。 俺の幸せは、背を向けて姿を消した。 これでハルを守れたはずなのに、心の中には後悔の二文字だけが依然として残っている。 階段を昇降する足音も、最後に玄関の扉が閉まる音も、追いかけて止めることができなかった。 これで良かったんだ これで良かったのか? ハルの安全は守れても、二人の幸せまでは守れなかった。 二人で過ごした時間は幸せだった。 けれどそれももう終わりだ。自分の手で終わらせてしまった。終わらせたくなんてなかった。 ハルが俺を助けてくれて、ハルを好きになって、もう一人じゃないと思えるようになったのに。 呆気なかった。 分かっていたはずなのに、いつかこうなると。 どちらが先に壊れるかというだけの問題だった。勝手にどうにかなると自分に言い聞かせていただけで、実際何も守れていなかったのかもしれない。 けれど俺は、また来週もあそこへ行く。 ハルが俺の側からいなくなっても、俺はハルを守りたいから。 「ハル…」 もうこの名前を呼ぶこともない。 呼んではいけない。 うるさい そう言ったハルの声が頭から離れなかった。 真意はどうであれ嘘をついて騙していたのは本当なのだから、そんな俺の声なんて聞きたくないに決まってる。 ハルはずっと俺のことを信じてくれていたのに、裏切ったのは俺の方だ。 「ごめん…ごめん、ハル…」 今更何を言ったってもう遅い。 そんなこと分かってるのに、謝っても謝っても足りない。 「好きだ…」 ただハルが好きで、どうしようもなくて それだけだったのに。 ハルに出会わなければこんなことにならずに済んだのかもしれない。辛くなったり、嫉妬したり、苦しくなることもなかった。 けれどハルに出会えなければ、誰かに愛されることも、誰かを愛すことも知らないままでいたかもしれない。 出会いは最悪だった。 今だって思い出したくはない。 それでもハルと一緒に変わって、並んで歩んでいきたいと思うようになっていた。 来年も、ハルと笑っていたかった。 海に行って、夏祭りに行って、手を繋いで歩きたい。 それももう、叶わない夢になってしまったけれど。 すべての疲労から、瞼が重くなってくる。 ああ、このまま眠って一生目覚めなければいいのに。 そうしたらもう全部消えて、なかったことに出来るのに。 さっきまでの辛そうなハルの顔や、ここ最近の悲しそうな顔が何度もフラッシュバックする。 あんな顔をさせるために自分を犠牲にしてきたわけではなかった。 どうかハルが俺を忘れて、幸せになってくれたら。 俺はその裏でハルを守り続けたい。 そんな勝手なことを思ってしまう。 実際そうなってしまったら自分は死ぬほど辛いに決まっているのに。 意識が遠のいて、無理矢理睡魔に犯されていく。 脳裏にハルの顔が何度も浮かんだ。 せめて夢の中だけでも、ハルといたい

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