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第149話Rehabilitation

その日のうちに病院を出て、結局車の中でずっと俺達を待っていた虎次郎に送られて家に帰った。 ハルによれば虎次郎は決して暇では無いらしいのだが、どうしてここまでしてくれたのだろう。 「さっき連絡が入ったんだけどさ、浴槽の掃除まで上杉さんのとこの誰かがやってくれたみたい」 「申し訳なくなってきた…」 「死体処理にならなかっただけマシだよ」 「…悪かったって」 揶揄うように笑って、ハルは急に俺の体を持ち上げた。 逃げようと藻掻くが、力が全く入らない。 「何するんだよ、下ろせ!」 「やっぱり軽くなったよね。ご飯食べてないでしょ」 そう言いながらハルは浴室へ向かっていく。 先程言っていた通り、浴室は綺麗に掃除されていた。 「今からお風呂入れてあげるから、脱いで」 「自分で入るからいい」 もともと風呂自体人と一緒に入るものではないし、なによりまだ消えていない痣や傷をハルに見られてしまうのが嫌だった。 「傷、ちゃんと俺に見せて」 「…嫌だ」 「勇也は汚くなんかないよ」 首元の傷痕を撫でられ、体がビクッと震える。 自分で脱ごうとする前に、ハルの手が服を脱がしていった。 「やめろって…!自分で脱ぐ」 「ごめんごめん、はいどうぞ」 また上手く口車に乗せられてしまった。 仕方なく自分で服を脱ぎ、ちらりと鏡を見る。 やはりまだ痛々しい痣が残っていて、きつく奥歯を噛み締めた。 「まだ痛い?」 「…少し」 体が痛むのはいつか消えるしいくらだって我慢できる。 けれど傷んでしまった心はどうやっても元のようには戻らなかった。 また少し息苦しくなって、ハルの服を無意識に掴む。 「ごめん、思い出した?」 「大、丈夫…だから、行かな…で」 「どこにも行かないよ。大丈夫」 優しく抱きかかえられて、浴室内の椅子の上に降ろされた。 「お前…服は」 「俺は後で入るから大丈夫」 「濡れるだろ」 「脱いだら色々危ないから」 何がと聞き返す前に、体に残った痣に手が触れる。 触り方が優しかったからか、痛くはないがくすぐったい。 ひとつひとつ確かめるように手が体を滑っていく。 やめろとも言えなくてハルの服の裾を掴んだ手にぎゅっと力を込めた。 「んっ…」 「痛い?」 首を横に振る。ハルの手が自分の体に触れているのが嬉しかった。 ただ、くすぐったいだけではない。 それがどうしようもなく気持ちよく感じてしまう。 「頭洗うね」 「いいって別に…」 「俺がやりたいの。やらせて」 半ば無理矢理頭を洗われ、服が濡れるのも気にしないで体まで洗おうとしてきた。 「もう…いいから」 「勇也は綺麗だよ」 「は?」 「だから無理矢理強く擦って体洗うの、やめた方がいい」 確かにあの男に会いに行くようになってから、毎日汚れを落とすために乱暴に体を洗っていた。 擦れて赤くなった皮膚を、ハルが優しく泡で包んでいく。 「勇也は汚れてなんかないよ…綺麗だから。だからもう」 もしかしたらハルの方も、この体の傷を見るのが辛いのかもしれない。 「そんな顔、するな…」 どうしていいか分からない。ハルに悲しそうな顔をして欲しくなくて、シャワーの水をハルの顔にかけた。 いきなりのことでハルも驚いていて、その顔から水が滴っている。 「これからはお前のもの全部大切にするから…だからもう変な顔すんな」 「変な顔って…そんな酷い顔してた?」 クスリとハルが笑う。 その暖かい微笑みが好きだ。いつだってハルには笑っていてほしい。 「シャワーかけすぎたな、悪かった」 「水も滴るいい男ってかんじ?」 「自分で言うな、アホ」 笑いながら服を脱いで、ハルも自身の体を洗い始める。 水に濡れたハルの綺麗な横顔が目に焼き付いた。 風呂を出てからされるがままに頭を乾かされ、リビングのソファに座ってアイスキャンディーを食べる。 「お前、いつの前に箱アイスなんて買ってきたんだよ」 「結構前だよ、俺も忘れてた」 そろそろ外も涼しくなっていいはずなのだが、まだ少し蒸し暑い。 アイスで冷やされる口内とは別に、体には熱気が残っている気がした。 「今日は一緒に寝ても大丈夫?怖いかな」

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