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第150話Rehabilitation②
怖いことは無い。寧ろハルが隣にいないと不安で眠れないほどだった。
かと言って正直にそれを言うのも気が引けるので、答えに迷って黙ってしまう。
「…無理することないよ、同じベッドに入るのが嫌だったらしょうがないし」
「あ、いや…」
「ん?」
なんと言えば伝わるのだろう。
できるだけ遠回しに一緒に寝てほしいと頼みたいところだ。
「別にお前が一人で寝られないからどうしてもっていうんだったら、一緒に寝てやらないこともねえけど」
「ふーん?じゃあ俺は別に大丈夫だし、一人で寝ようかな」
「あ…いや、その、一緒に寝たい…」
結局一番ストレートに言ってしまった。
ハルはニヤニヤと笑っているからまた嵌められてしまったのかもしれない。
「じゃあ一緒に寝ようか。疲れたからか体が怠くて…ご飯食べたらすぐ寝ちゃおう」
「ん…疲れてるなら休め。飯作るから」
「勇也はまだ安静にしてなきゃだめだよ。今日は俺が作るから勇也は待ってて」
そう言ってキッチンにハルが立っているのだが、見ていて不安でしょうがない。
かなり頻繁に「あっ」とか「まあいっか」と聞こえてくるのだが、本当に大丈夫だろうか。
「勇也、飴色って何色?」
「飴色は飴色だろ。茶色っぽいっていうか…」
「これでいいのかな?なんか黒くなってきた」
「焦げてんだよバカ!」
ハラハラして何度かキッチンに行ったがその度に押し返される。
作ってくれるのはありたいのだが、まるで小さな息子が初めて自分で料理を作るかのような不安感があった。
「できたよ、多分」
やけに自信に満ち溢れた顔をしている。
一体何を作ったのだろうか?
テーブルの上に置かれたのはオムライス。
見た感じではきちんとオムライスに見えるし、なかなかの出来栄えのようだ。
「…思ったより上手くいってるな」
「でしょ?褒めて」
身を屈めて頭を差し出してくるので、仕方ないなと思いつつ頭を撫でてやる。
「頑張ったな、ありがとう」
ハルに促されて食卓につき、スプーンで一口分をとる。卵はかなり熱が入っているが、焦げてはいないので問題は無さそうだ。
恐る恐るそれを口に運んでみる。それをハルは黙って見守っていた。
「どう?いける?」
「ん…合格」
少し上からの物言いになってしまったが、ハルの作ったオムライスは普通に美味しかった。
ハルが自分のために作ってくれたのだという事実が何より嬉しい。
混ざりきっていないケチャップライスも、切りきれずに繋がっているソーセージも、少し焦げている玉ねぎでさえ愛おしく感じてしまう。
「良かった。前より上手になったよね?」
「ああ、成長したな」
嬉しそうに笑ってハルも自分の作ったオムライスを口にする。
「やっぱり、勇也が作ったやつが一番好きだな」
「お前もっといい店とかで食ってんだろ」
「ちゃんとケチャップのチキンライスのやつが好きなの。ビーフシチューとかと一緒になってるのは飽きちゃった」
贅沢な話だ。けれど自分の料理を好きだと言ってもらえるのは悪くない。
あんなに食欲が無かったはずなのに、ハルが作った料理だと思うとすんなり食べることが出来た。
完食とまではいかないが、あまり食べていなかった頃に比べれば充分だ。
「俺、勇也が元気になるまではできるだけ家事も頑張るから」
「いいって…俺の仕事だし」
「もう契約は破棄しよう」
少し驚いてハルの方をじっと見てしまう。
この家に居られなくなるのかという不安が頭をよぎった。
「無理矢理住まわせられてるんじゃなくて、勇也の意思でここにいてほしい。だから家事も分担するし、俺も勇也のこと支えたい」
「けど…充分すぎる生活させてもらってんのに、それだと割に合わねえっていうか」
「元々この家だって買ったのは父さんだからね。だから俺も働くようになったら引っ越すつもりだし。それに俺達、恋人同士でしょ?」
恋人同士。その言葉にまた少し顔が火照ってしまう。
改めて実感する。自分がハルのものになったということを。
今度こそは、この幸せを手放したりはしない。
二人で守り続けたい。
少しリビングでくつろいだ後、やはりハルは疲れているようだったので部屋に戻った。
久しぶりにこのセミダブルのベッドに二人並んで寝転がる。
「電気消すね」
「ん、おやすみ」
「抱きしめていい?そうしないと眠れない気がして」
「…しょうがねえな」
こんなことを言いつつも、本当は嬉しかった。
向かい合った体をハルが優しく抱き締める。
背中に腕を回して抱き締め返し、ハルの胸に耳を当てた。
早い鼓動の音はハルのものなのか、それとも自分のものなのか。
「お前、今日は何か温かいな」
「そう?でも言われてみれば今日はちょっと暑いかも」
「熱あるんじゃねえの」
「まさか、大丈夫でしょ」
ハルの体温を確かめようにも、自分の顔も熱くなってしまっていてよく分からない。
ハルの匂いと温かさに包まれて目を閉じる。
鼓動の音がうるさくて、今日はすぐ眠れそうになかった。
目の前にハルがいる。
ハルは俺の幸せだった。
今度こそ逃がさない。背中に回した手に力を込めて、できる限りハルにぴったりとくっついた。
「勇也、それちょっと危険」
「何がだよ」
「そんなにくっつかれると…いや、我慢するからいいや。そのままでいて」
少し暑かったのだろうか。
けれどこうしていないと眠れない気がした。
セミダブルのベッドでも少し広いくらいかもしれない。
好きだ ハルが好きだ
そう自分で確信を持ちながら、いつしか微睡みの中へと落ちていった。
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