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第155話Long time no see

朝起きて、まずハルの額に手を当てて熱があるかどうかを確かめる。 熱は下がったようで、もう苦しそうな呼吸もしていない。 恐らく今日は学校に行くことができるだろう。とりあえずまだハルが起きる時間ではないので、一人下に降りて弁当を作る準備を始めることにした。 正直、学校に行くのは少し怖い。文化祭が終わってから何日かは行ったが、人が多いのも、クラスの皆が打ち解けようとしてくるのも全て怖かった。 そして先週は一週間まるまる休んでしまったから余計に行きづらい。 そんなことを考えながら卵焼きを焼いていたものだから、少し焦げてしまった。 「…作り直しか」 ため息をついて焦げてしまった卵焼きを皿に移そうとすると、後ろからぬっと手が伸びてきてその卵焼きを勝手に取っていった。 「おい、それ焦げてんぞ…つーか音たてないで後ろに立つのやめろ」 「うん、美味しい。俺ちゃんと声掛けたんだけどね、何か考え事?」 「別に…お前、具合は?」 「良くなったよ。熱計ったけど平熱よりちょっと高いくらいだったから大丈夫」 ハルの調子が元に戻っていたようで安心する。考え事に関しては、周りの人が怖いなどと言ってもこればかりはどうすることも出来ない。 もちろんハルが近くにいれば安心はするけれど、クラスも違うから常にというわけにもいかないだろう。 「勇也も大丈夫?無理してない?」 「大丈夫…早くお前も制服着替えてこい」 「わかった、辛かったらちゃんと言ってね」 何故俺の方が病み上がりであるハルに心配されなければならないのか。よほど顔に出てしまっているのかもしれない、気をつけなければ。 朝食をとって、諸々の準備を終えてから玄関で靴を履く。 「なにやってんだ、早くしろ」 「なんか今日髪が上手いこといかなくて…あれ、勇也今日は前髪下ろしていくの?」 「ああ…忘れてた。まあいい、このままで」 「いいの?誰かが勇也の可愛さに気づいちゃったら困るんだけど」 「別に髪下ろしただけだろ」 なんでも可愛いと言えばいいと思っているのか、こいつは。女子高生かよ。 「まあ髪あげてても俺は好きだけどね」 「うるせえ…」 少し火照った顔を見せないように先に扉まで歩き、ハルが靴を履くのを待つ。 「もう出れるよ。行こっか」 「ちゃんと戸締りしろよ」 二人並んで学校へ向かう。ほんの10分程だが、学校に近づけば近づくほど生徒の数は増える。 離れそうになった距離を、ハルが手を引いて縮めた。 「おい、外でこういうのは…」 「まだ恥ずかしい?」 小さく頷くと、ハルは少し笑って肩に手を回す。そういう問題ではないのだけれど、まだこれなら外から見ても普通だろうか。 「じゃあ、お昼休みになったら屋上いくね」 教室の前でハルがそう言い残し、それぞれのクラスへ入っていく。 屋上は立ち入り禁止なのだが、元々俺は何度も行っていたし教師に怒られたこともない。 時々真田や上杉がやって来ることもあった。 教室の中に入ると、既に来ていた生徒は俺の姿を目にして少しざわめき始める。 最初に俺に声をかけたのは、久しぶりに見る真田だった。 「双木!お前どうしたんだよずっと休んで」 「お前…そんなにうるさかったっけ」 「なんだよ人が心配してるのに!!」 「悪かったって、ちょっと色々あったんだよ」 適当に誤魔化そうとするが真田はどうしたどうしたと一人で騒いでうるさい。 この騒がしさも慣れたと思っていたが、久しぶりに相手にすると大分疲れる。 「だから色々ってなんなんだよ、気になるじゃんか」 「聡志、人には言えない事情の一つや二つあるものだろう。そのへんにしておけ」 途中でいつの間に来ていたのか上杉が会話に割り込む。しかしいつもの調子ではなく、なんだか少し冷たいように感じた。 一方真田は上杉のほうを睨むが、その真田もいつもよりずっと嫌悪を顕にしている。 「お前には関係ないだろ…俺は今双木と話してんの。なんでお前が知ったような顔してんだよ」 「事情を知ってるからだ。お前は余計なことに首を突っ込むな、双木だって…」 「うるせえなまた説教かよ。いい加減やめろって、クラスで話しかけんな」 いつも以上に険悪な二人のムードに内心困惑する。かといって自分がどうこうできる訳でもないので、口論する二人の間を通り抜けて自席へ座った。 その後も真田はずっと隣の席から話しかけてきたが、休んでいた事情については一切触れず、この前の文化祭や今週末の体育祭についてなどの他愛もない話をした。 昼休みになると、ハルからメッセージが届く。 どうやら昼休みは委員会があるらしく、屋上に来るのが少し遅れるとのことだった。 「双木、弁当一緒に食おう」 「あ…や、俺は」 「遥人?」 「…ああ、けど委員会で遅れるらしい」 そういえば上杉も規律委員だったなと思って教室を見渡すと、やはり上杉の姿も無かった。 「じゃあ遥人来るまで俺も屋上にいていい?」 「なんでだよ、お前他にも仲良いやつ学校にいるだろ」 「…疲れたんだよ、もう」 その真田の表情は一体どんな感情を含んだものなのかが全く読み取れない。 屋上に出て、適当な所に腰を下ろす。真田もその隣に座り、購買で買ってきたパンを袋から取り出した。 「真田、お前と上杉ってどういう関係なんだ」 「…なんでそんな事聞くの?」 「普通に気になるだろ」 「中学のときから同じなだけで、別に幼馴染ってわけでもないし」 真田は床に視線を落として、低いトーンでそう答える。 あまり聞かれたくない話なのかもしれないが、どうも俺の中でこの二人の関係性がはっきりせず気になってしまう。 「昔は仲良かったんじゃないのか」 「まあ…それなりに。でも人間関係なんてすぐ変わるだろ?」 「何があったんだよ」 「んー…双木になら話してもいいかな」 真田が自分のことを信用してくれているとも受け取れるその発言が、なんだか嬉しく感じる。 頭をかいて少し沈黙したあと、真田はいつもとは違う小さな声でぼそぼそと話し始めた。 「前も少し話したけど…俺が中学生のころ」

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