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第156話Long time no see②

「あの三人組いただろ。中学入ってからもいいようにパシリにされたり、鬱憤晴らしに暴力ふられたりして、まあいじめられてたんだよ」 この話を前に聞いたときは、自分は直接関わっていないものの少し罪悪感を抱いてしまった。 自分の代わりに他の誰かが…それを全く考えていなかった訳では無いが、そんなに酷いことをされているなどとは思っていなかったからだ。 「でもある日謙太が…ああ、そういえばこの時のあいつは今より厳つくてヤンキーぽかったよ。髪はオールバックで制服着崩して金属バッド持ってた」 「全く想像つかねえな…」 そういえば、文化祭で劇の準備をしていたときに上杉本人がオールバックにするのを躊躇っていた。あれはこのためだったのか。 俺やハル程派手に暴れていたわけでは無さそうだが、不良らしい身なりであったことは確かなようだ。 「だろ?それで、助けてもらったんだよ。だから俺の中であいつはずっとヒーローの謙ちゃんだった。憧れててさ、いつも後ろに引っ付いてたんだ」 「ひとついいか、なんですぐにお前の親父に頼らなかったんだ?」 「…頼りたくなかったんだ、強くなりたかったから。結局助けられて、仲良くなったら父親同士が知り合いだって発覚してさ。あいつの根回しもあっていつの間にかオヤジが処分を下してたっていうか…」 成程、お互いの父親が旧友でヤクザだという確率はなかなかないとは思うが、その繋がりもあって二人は仲良くなったということだろうか。 「オヤジも謙ちゃんも…俺の憧れだったのに」 その先が一番聞きたかったことだったのだが、真田が続きを話すよりも先に屋上の扉が開いた。 「ちょっと、なんで聡志がいるわけ?」 屋上へ出てきたのはハルと、その後ろに立っていた上杉だった。 上杉がいるのを見ると、真田はすぐに視線を逸らす。 「まあ別に勇也を一人にしたくないし聡志だからまだいいけど…俺も謙太くん連れてきちゃったし」 「すまない、無理やり連れてこられて…その、二人の時間を」 「いやなんでお前が恥ずかしがってんだよ…真田もいるし、別にいい」 ハルは真田と俺のあいだに割って入りすぐ隣に座った。 上杉はどこに座るか少し迷って、小笠原の前に腰を下ろす。 「おい、ハル…近い」 上杉と真田に聞こえないくらいの声量でハルにそう言うが、少し不機嫌そうに口を尖らせて更に身体を寄せてくる。 「聡志、もうちょっとあっち行って。謙太くんの隣空いてるよ」 「俺の方が先にいたじゃん!」 「…聡志が俺の隣に来たいのなら来ればいいし、来たくないのなら来るな」 珍しく上杉が冷たくそんなことを言うので、俺とハルは少しぎょっとしてしまう。 真田は身を強ばらせて、上杉の隣には行かずハルから少しだけ離れた。 「誰もお前の隣なんて行きたくねえし」 「だったら来なければいいだけの話で、わざわざそう言う必要はないだろ」 微妙な空気が流れ、とてもではないがここにいられないような気持ちになる。 「聡志と謙太くんさぁ、喧嘩でもしたの?」 俺が聞かないでいたことを、難なくハルが聞いてしまう。 上杉も真田も、何か言いづらそうな顔をしていた。 「別に元々こいつと仲良くなんてねえし…遥人、その卵焼きひとつちょうだい」 「ダメ。勇也が朝から俺のために愛をこめて作ってくれたんだからこれを食べる権利は俺にしかない」 「俺も食ってるし愛はこめてねえよ」 「照れなくていいのに」 「照れてねえ!」 俺とハルが何か二人で喋る度に上杉が赤らんだ顔を手で覆う。 何故本人達よりも上杉のほうが恥ずかしがっているのだろう。 「双木と遥人ってほんと仲いいよな…喧嘩とかしないの?」 「喧嘩っていうか…まあすれ違いはしたよ」 「どうやって仲直りすんの」 「…まあ、好きなのって簡単にやめられたりしないし、気持ちの問題だよ」 ハルがそう言うが真田はよく理解していないようで、とりあえず相槌をうちながらパンを頬張った。 「謙太くんと仲直りしたいなら俺のこと参考にするのは間違いだと思うけど?」 「だから!そんなんじゃないって」 真田はパンを食べて飲み込み、少しむせながらパックの牛乳を口に流し込んだ。 「俺用事思い出したから教室戻る!」 「用事なんて何も無いだろう」 「うるせえ!なんでもいいだろ!」 小学生のように怒りながら真田は屋上から出ていってしまった。 俺とハルの視線は黙々と飯を口に運んでいく上杉に移る。 「謙太くん、なにしたの?」 「何もしていない…多分」 多分ということは無意識になにかしてしまったのだろう。心当たりはあると言ったような顔をしている。 「先週あたりからずっとあの調子なんだ。俺もどうしてあんな態度を取られているのか分からないから困っている」 「聡志に聞けばいいじゃん」 流石ハルだ。真田の性格や気持ちを1ミリも考えていない。 「真田はアホだけど聞かれて言うほど馬鹿じゃないだろ。つーかむしろ怒ると思うけど…」 「え〜そうなの?難しいね人間て」 ハルは興味無さげにウインナーを咀嚼した。一口で食べるからまた口の端にケチャップが付いている。 「少しずつ食べろっていつも言ってるだろ、ケチャップついてる」 「ん…どこ?」 舌で舐め取ろうとするがまるで届いていない。仕方がないから指で拭ってやってそのケチャップを口に含む。 「夫婦なのかお前らは…見てるこっちが恥ずかしくなるのだが」 「ちげえよ!」 「二人の邪魔をしたくないし、聡志に話してみようと思うので俺は失礼する」 上杉は一礼をして、屋上を出ていった。

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