158 / 336
第158話Long time no see④
昼休みが終わり教室へ戻ると、クラスには異様な雰囲気が漂っていた。
その原因は恐らく真田と上杉だろう。お互い何かを言い合っているわけではないが、そのピリピリした空気が外から見てもよくわかった。
結局帰りのSHRになってもその空気は変わらず、上杉はすぐに教室を出ていってしまった。
自分も帰り支度を始めようと席を立つと、隣の真田から声をかけられる。
「なあ、ちょっと二人に相談したいことあるから、放課後家寄ってもいい?」
「ああ…あいつに聞かなきゃ分からないけど、まあ多分大丈夫だろ」
「ありがとう双木!補講受けてから行くから、先に遥人と帰ってていいよ!」
真田が教室を出ていき、自分もクラスから出るとハルが教室の外で壁に寄りかかって待っていた。
ハルの周りには数人の女子生徒が群がっている。
「あ、友達来たから俺もう帰るね」
『え〜なんでよ、最近遥人ノリ悪くない?』
『文化祭の打ち上げも来ないしさ〜』
『遥人いないと楽しくないんだけど』
ハルは俺と一緒にいるせいで、その他の人間との付き合いが悪くなっているようだ。
少し申し訳無くも思うが、ハルがそっちを優先してしまったらそれはそれで気に食わない。
「帰ろ、勇也」
『遥人なんで双木くんと仲いいの?』
『ね、前まで名前も出さなかったのに』
「なんでもいいでしょ、じゃあね」
ハルを引き留めようとする声を背に、俺の腕を引いてそのまま昇降口へ向かっていった。
「良かったのか?さっきの」
「何が?勇也は俺に女の子と遊んでてほしいの?」
「それは、違う…けど」
「意地悪言ってごめんね。勇也にしか興味ないからいいんだよ、あんなの」
二人並んでいつもの帰り道を歩く。信号で足を止めると、ハルは思い出したように口を開いた。
「あ、そういえば今日謙太くんが家に来たいって。なんか相談があるみたいで、部活終わったら行くって言ってた」
「えっ」
「ああ、嫌だった?嫌なら断るけど」
「いや…それが、真田が補講終わったら相談があるから今日家に来るって」
ハルは少し顔を引き攣らせる。このままだと大変まずいことになってしまう。
「これ…二人とも鉢合わせちゃうね」
「どうする、断るか?」
「いや、面白そうだからこのままにしよう」
楽しそうに笑っているが、本人達にとっては何一つ面白くないだろう。
でも確かに俺達に相談してどうにかなるとは思わないし、本人同士で話し合うのも得策である気はする。
「まあいいか、このままにしておいても埒が明かない気がする」
「でしょ。どっちが先に着くかな?」
「一緒に来たらきたで面倒くさそうだけどな」
「夕飯までに帰ってくれればなんでもいいや」
ハルは頑なに俺の料理を他人に食べさせようとしない。
それを言うなら、俺だってハルに他人が作ったものをあまり食べて欲しくない。そんなことは口が裂けても言うことが出来ないけれど。
自分の作った料理だけでハルの細胞が作られていけばいいのになんて、自分でも気持ち悪いと思う。
家に帰ってから着替えを済ませ、リビングのソファに座りながら二人を待った。
「…掃除機かけていいか」
「さっきもやってたじゃん。なんで勇也がそわそわしてるの?」
「お前だってさっきから必要以上にトイレ行ってるだろ」
「これは水飲みすぎただけで…なんかめっちゃ喉乾くし」
本人達は何も知らないから、なんだかドッキリの企画でもしているみたいで俺とハルは変に緊張していた。
することが無いため、夕飯を準備しておいていつでも食べられるようにしておく。
部活動や補講が終わるのは恐らく午後6時頃だろうから、来るまでにあと1時間ほど時間がある。
「おせえな二人とも」
「こんなもんでしょ…待ってる間なにかする?」
「なにかってなんだよ」
「ゲームとか…ほら、一応新作は一通り揃えてあるし」
今初めて知ったのだが、リビングのテレビ台の下には様々なゲーム機がしまってあった。
小さい頃人気だったものからつい最近発売されたものまで、様々な種類のゲームがあるようだ。
「お前…これ使ってんの?」
「暇な時はね。勇也が来てからは一回もやってないかも。一応買ってはあったんだけど」
「もったいないな」
「…やる?」
コントローラーを渡され、なんとなく雰囲気でゲームをすることになった。
中学の頃つるんでいた奴らとやったことはあるものの、テレビゲームなんてやるのは久しぶりだ。
「これやろ、これ。多分初めてでも出来ると思う」
「やり方ちゃんと教えろよ」
ゲームだからといって負けるのは嫌だった。何でもかんでもハルに負けるのは癪に障る。
パッケージから取り出されたのはカーレースのゲーム。携帯ゲーム機で発売されていたものを昔やったことがあるので、なんとなくの概要や操作はわかった。
「おい!手加減しろよ!」
「手加減して勝たせたら怒るくせに!」
「くそ…あと少しなのに」
「俺もう腕痛いんだけどまだやるの〜?」
何度やってもハルに勝てない。初めてだからなんて言い訳にならない、ハルもあまりやったことのないゲームらしいから、それで負けるのは悔しかった。
「あともう一回…」
「聡志と謙太くんもうすぐ来ちゃうよ?」
「…もう一回。負けた方は勝った方の言うこと聞く」
「やる」
またレースが始まり、お互い全力でコントローラーを操作する。
「ちょっと、それ投げないで!」
「うるせえ勝たせろ!」
チャイムの音が聞こえたような気がするが、あまりにも白熱したレースだったためその場で気づくことは出来なかった。
ともだちにシェアしよう!