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第159話Long time no see⑤
ゲームの結果、ハルが勝ってしまった。もう一回と言いたいところだが、これ以上やっても無駄なような気がする。
条件を出した途端ハルは目の色が変わって常人にはできないようなコントロールさばきを見せた。
「勝ったよ、言うこと聞いてくれるの?」
「そんなこと言ってねえし」
「男に二言はないってこの前勇也が言ってたのに」
こうして揉めていると、チャイムの音がまた聞こえてくる。やはりさっき聞こえたのは気のせいではなかったようだ。
時計を見るともう6時を回ってだいぶ経っていた。
「どっちだ?」
「わかんない、補講のほうが時間通りに終わるだろうし聡志かな?」
玄関まで行こうと立ち上がると、外の方から二人分の声が聞こえてくる。
「なんでいるんだ」
「はぁ?お前の方こそなんでいるの?」
「俺は二人に用があって約束してたんだ」
「俺だってちゃんと双木に許可取ったし」
真田が待っていたところ、上杉も来てしまったらしい。
俺とハルは顔を見合わせ困惑の表情を浮かべる。
二人とも来てもらうことにしたが、この先一体どうすればいいのだろう。
「俺、出てくるよ。勇也はお茶かなんかいれて待ってて」
「ああ…頼んだ」
言われた通りに四人分のお茶をいれてテーブルに並べる。誰も家に入ってこないので不安になって玄関を覗きに行くと、ようやく三人が家の中へ入ってきた。
「…邪魔するぞ」
「あ、双木!なんでお前言ってくれなかったんだよ!」
気まずそうな上杉と、子どものように怒っている真田。
ハルはどこか疲れていて、二人のスリッパを適当に投げた。
「二人が帰ったら勇也に死ぬほど癒してもらうから…さっき勝ったの、それでいい?」
「ああ…何すりゃいいのかわかんねえけど」
「お前らは本当に、いつでもいちゃついているんだな」
「いちゃついてねえし!」
上杉の顔はまた若干赤みを帯びている。一体いつになったら慣れてくれるのだろうか。そのせいで俺まで恥ずかしくなってしまうから早く直してほしい。
「お茶入れたから、てきとうに座れ」
座るように促すと、二人は何故か対称の位置に座る。呆れながらも、俺は真田の隣に座ることにした。
「俺勇也の隣がいい。聡志どいて」
「え、なんでだよ。いいだろ別に!」
「邪魔〜」
ハルに無理矢理椅子から退かされた真田は、仕方なく上杉の隣の席についた。
未だに二人の間には険悪な雰囲気がある。
「…お前らのせいでクラスの雰囲気めちゃくちゃ悪かったぞ」
「え、マジ…?別に俺はなにもしてないけどね、俺悪くないし」
「勝手に怒っているのは聡志の方だろう?いい加減にしろ」
攻撃的な上杉の物言いに、真田は少し怯んでまた大声で叫んだ。
「何かしたって自覚があるなら謝ればいいだろ!俺は何もされてないし、怒ってもねえのにお前が勘違いしてるだけじゃん!」
「どう見たって怒っているじゃないか、その原因が自分では分からないからお前に直接聞こうと思ったのに」
「いきなり教室で『俺の悪いところは全て治す、なぜ怒っているのか教えてくれ!俺はお前とやり直したいんだ』なんて言うボケかますとは誰も思わなかったよ!!」
「ボケじゃない、あれは真剣に…」
主に真田のマシンガントークが始まってしまい、俺が入る隙はなくなってしまった。
ハルの方を見ると、面倒くさそうにスマートフォンの画面をいじっている。
「聡志さぁ、謙太くんは天然のアホなんだからちゃんと説明しないとわかってくれないよ?聡志だってアホなんだし」
「アホっていうな!」
「謙太くんもちょっと色々考えて。面倒くさい女子ってもっと面倒だからね、聡志くらいで頭捻ってちゃだめだよ」
なるほど、この二人相手に説得をするのなら真面目に一般論を並べるだけではダメなようだ。
ハルくらい適当に、遠慮なしに言った方が効くのかもしれない。
「まあ俺も人の気持ちなんて考えないけどさ、最近は頑張ってるし。自分の気持ちばっか押し通しても、誰も得しないよ」
「お前…まともになってきたな」
「勇也、ちょっとそれ酷くない?」
上杉と真田も、俺の言葉に納得したように頷く。
「遥人に言われると、なんか変な感じする」
「小笠原にも人の心があったんだな」
「俺の扱いどうなってんの?」
ここでまた話が途切れてしまう。話が始まったかと思えば二人は言い合いするばかりで、ハルは完全に飽きてスマートフォンでゲームをしながら俺の肩に寄りかかっていた。
「ね〜もうご飯食べたいんだけど早く話終わらせてくれない?」
「すまんな…こんな時間まで」
「結局なんで聡志は怒ってんの?」
「だから…怒ってるわけじゃ…」
ずっとこの繰り返しだ。二人がこの調子ではどうすることも出来ない。
「やっぱり個別に話聞いた方が良かったのかな。明日も多分委員会あるし、そんときに俺が謙太くんの話聞いてあげるよ」
「小笠原が…?」
「何、不満?」
委員会ということは昼休みだろう。それなら俺もその間に真田と話が出来るはずだ。ついでに今日聞ききれなかった話ももう一度聞きたい。
「じゃあ真田の話は俺がそのあいだに聞く」
「ありがとう双木…」
真田がそう言うと、ハルが身を乗り出して喋り出す。
「あ、俺は勇也とお昼食べたいから委員会終わったらすぐ勇也のところ行くからね」
「小笠原は俺の話を聞く気は無いのか…?」
「委員会中に話してよ、どうせ大した会議じゃないし」
何とも面倒なことに巻き込まれてしまったが、上杉に関してはよくハルが世話になっているようだし、真田も俺にハルの話をよく聞かせてくれるから恩がない訳でも無い。
ただ単に、二人の仲がずっと険悪なのはこちらとしてもあまりいい思いはしないから、早く仲直りしてほしいと思った。
結局ハルが駄々をこねて二人を無理矢理帰らせ、帰路でも二人は言い合いながら歩いていった。
今週末は体育祭らしいのだが、それまでにあの二人はなんとかなるだろうか。
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