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第160話Reconciliation
二人が帰ったあと遅めの夕食をとり、風呂に入って同じベッドに寝転ぶ。
喋っただけで随分と疲れてしまったようで、瞼は既に重くなっていた。
「勇也、もう眠い?」
「ん…」
「疲れちゃったよね、俺もだけど」
「ん…」
優しく頭を撫でられ、より一層眠気が増してくる。そういえば、ゲームの勝敗についてはどうなったのだろう。
「げーむ…おまえ、かって…いやすって、ゆった…」
「眠いなら今日はいいよ。今の勇也見てるだけでも充分癒されるし」
「はる…」
何かを言おうとしたのだが、何を言おうとしたのか思い出せない。
もしかしたら何も言うつもりはなく、ただ名前を呼んでしまったのかもしれない。
ふわふわした思考の中、瞼が完全に閉じきってすぐに眠りについた。
朝目が覚めたら、自分からハルを抱きしめて眠ってしまっていたことに気づいてすぐに離れる。
どうも眠いと節操がなくなってしまうようだ。
普段の自分もそれくらい素直であってくれればいいのだが、羞恥心があるためそうもいかない。
弁当を作ってハルを起こし、一緒に朝食を食べて昨日と同じ時間に家を出た。
ハルの隣にいると、嫌でも人の視線を集めてしまう。それはハルのルックスのせいでもあるし、自分が不良生徒であるためでもあった。
いい加減、このような見た目はやめた方がいいのだろうか。
「なあ…俺がこの見た目やめたらどう思う?」
「見た目やめるってどういうこと?」
「だから…金髪とか、ピアスとか、服装とか全部」
「勇也だったらなんでも良いけど、全部自分の好きでやってるんだったら変える必要ないよ。それに大衆受けする見た目になっちゃったら色々不安だし」
後半部分はよく分からなかったが、ハルが良いと言ってくれるのなら本当に変える必要はないのかもしれない。
周りからどう思われるかもまだ気にしてしまうが、ハルが自分をどう見てくれるかを一番大切にしたかった。
「ていうか、なんでそんな事聞くの?」
「いや、別に…なんとなく」
「まあ私服のセンスは皆無だからね、夏服しかないし秋冬の服も今度買いに行かなきゃ」
「うるせえ、別にいらねえし」
いつの間にかハルの選んだ服を着せられることには慣れ始めていたが、毎回ハルによるチェックが入る。
ハルの決めた組み合わせ以外は着ないように言われていた。
言った通り服装なんてどうでもいいし新しい服も欲しいとは思わない。しかし自分が持っていた秋冬の服も捨てられてしまったから、買わざるを得ないことも分かっていた。
「今度一緒に買いに行こうね。ちゃんと試着してほしいし、ついでにスマホ直しちゃおう」
「あれって直せるのか?」
「うん、画面だけ直してもらうこともできるよ。割れたままだと不便でしょ」
「ああ、まあ…」
前までは男二人で出掛けるのは人目を気にしてしまって嫌だったけれど、今は素直にハルと二人で出掛ける約束をしたことが嬉しかった。
ただ、あのスマートフォンに関してはまだ開くのが怖い。きっとあの時の画面のままになっているはずだ。
「…メールの文面だったら心配しなくていいよ、全部消した。一回初期化してまた必要な連絡先だけ登録しておいたから」
「いつの間にそんなこと…」
「一応佳代子さん以外にも上杉さんとか、聡志とか謙太くんのも登録したけど、連絡したいときは俺に言ってね」
スマートフォン自体目にしていなかったから、知らないうちにハルが色々やっていたのかもしれない。
ただ、ハルを通して連絡するのなら別に登録する必要はなかったのではないだろうか。
「俺そんなにスマートフォン使い慣れてないし…使わねえし」
「メッセージ既読してから返信までに絶対2分以上かかるもんね、一言だけなのに」
「お前が早すぎるんだよ」
ハルにメッセージを送信すると必ずと言っていいほどすぐに既読がつき、一分以内に返事が来る。
俺自身電子機器に慣れていないのもそうだが、コミュニケーションをとるのも苦手なため文章がすぐに思いつかない。
「ていうか、持ち歩いてないでしょ。いつ連絡が必要になるかんからないし、携帯電話は携帯しないと意味無いんだからちゃんと持っててよ」
「…悪い」
「ああもうそんな顔しないの、直したらちゃんと持ってね。それまでは俺ができる限り勇也の近くにいるし」
「だったら別に、ずっと直らなくていい」
今の自分の言葉がしっかりとずっと近くにいてほしいという意味を含んでいたことに言ってから気づく。訂正しようにも、すぐそれに気づいたであろうハルは口元を押さえて肩を震わせていた。
「今のは違…笑うなよ」
「笑ってないよ、悶えてるだけ」
「意味わかんねえ」
また教室の前まで二人で並んで行ったのだが、昨日も見た女子生徒達の視線が刺さる。
もしも俺が真田のような奴だったらハルに話しかけられるのかもしれないが、隣に不良生徒がいるとなると話は違う。
ハルはいいと言ってくれているが、俺のせいでハルの品位を落とすようなことにならないだろうか。
悶々としながら教室に入ると、やはり真田と上杉のせいで空気はあまり宜しくない。
昨日うちを出ていってからも仲良く喧嘩して帰ったのだろう。
そんな空気を漂わせたまま授業が進んでいき、あっという間に昼休みになった。
何も言わずに真田と目配せだけして屋上へ向かう。当たり前のように行ってしまうが、ここの学校の教師は立ち入り禁止の屋上の管理をしていないのだろうか。
「双木、今日はありがとう…その、全部うまく話せるかわかんないんだけど」
「ああ、でも話すなら手短にな。委員会はたぶん30分もすれば終わるだろうし」
「それならなんとか…うん、頑張ってみる」
真田はどこか緊張気味で、それを解すように屋上の空気を一気に吸い込んだ。
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