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第163話Be afraid

放課後になり、帰り道でハルと今後の予定を立てることになった。 「直接聞いた方がいいだろうし…佳代子さんはまた日曜に…ハル、聞いてんのか」 「ん?ああ、聞いてるよ」 「やっぱり嫌か、父親に会いに行くの」 「嫌じゃないよ、もう踏ん切りをつけたいし、いい加減父さんとちゃんと話したいからね」 その目は嘘を言っているようには見えなかった。 しかしどこか気の抜けた顔をしていて、俺の話を聞けていないようだ。 「何かあったのか?上杉と話してるときとか…」 「ううん、謙太くんは別に関係ないんだ。謙太くんの話自体はすぐ終わっちゃったから」 「じゃあ、何が…」 聞こうとしたところでちょうど家に着き、話を濁されてしまう。 足早に自室へ戻ろうとするハルの手を掴み、引き止めた。 「なんかお前、変だぞ」 「別に変じゃないよ。謙太くんのことも父さんのことも普通に考えてるし…」 「じゃあ、なんで俺の目見ないんだよ。平気な顔してるつもりかもしれねえけど…昼休みからずっとおかしい」 ハルは振り向いてくれない。何か言えるわけでもなく、制服の裾を強く引っ張った。 「…ごめん、そんな風に見えてたかな」 「何かあるなら俺に言えよ。それとも、俺には言えないのか?」 「そうじゃない…そうじゃないんだ」 ハルはまた部屋へ向かおうと階段に足をかけたが、振り返ってその勢いのまま俺を壁に追いやって抱きしめる。 突発的に抱きしめられることはよくあったけれど、勢いが強すぎて壁に少し体を打ち付けてしまった。 「ハル…」 「ダメだな、俺。また嫉妬ばかりしてる」 「は…?」 「別に聡志といるくらい、なんてことないはずなのに…」 壁についていたハルの手が背中に回り、きつく抱きしめられていく。その手は無遠慮に力を強めていって、息が苦しくなった。 「勇也が誰かと二人でいるの、耐えられない」 「俺は別に…」 「分かってるよ…ごめん、ごめんね。不安で仕方なくて」 何がそんなに不安なのか、ハルは手を震わせて力を込める。そろそろ息が限界になり、ハルの胸を押し返そうとするが少しも動かない。 「わかったから…落ち、つけって」 「勇也のことが好きなだけなんだよ」 唇が重なったかと思うと、舌をねじ込まれ噛み付くようにキスを繰り返される。息をする暇も与えられず、力が抜けて立てなくなった腰を支えられた。 「んっ…う…ハル、待っ」 唇が離れてすぐに首へと滑らされ、軽く痛みがはしる。 それが何度か繰り返されると、今度は思い切り歯を立てて首を噛まれた。 「いっ…はる、やめろ…!」 前にも一度首筋に噛み跡を付けられることがあった。自分もよく噛んでしまうからあまり強くは言えない。 ハルは噛み付いたところを執拗に舐めるから少し唾液が染みて痛かった。 しかし噛み付かれた瞬間、痛みとは別の何かを感じた気がした。 身体が痺れるような刺激。恐らくこれは快感に近いものだろう。 ハルから与えられる痛みは、自分が違うと思っていても気持ちよく感じてしまうようだった。 「はる…も、やめ」 ハルが目を見開いて正気に戻ったような表情を見せる。俺の首元の歯型を見て、優しい力で体を抱きしめ直した。 「勇也…ごめん、また俺…」 「大丈夫だから…ちゃんと話せ」 「…そんなことないって分かってても、俺の目の届かないところで勇也が誰かと一緒にいるのが怖くて」 ハルは俺を一人にすることに大しての不安も持っているようだったから、複雑な気持ちなのだろう。 俺は真田になにかされる訳でもないし、一人ではないから心細くなることも無かったのだが、ハルはそうでないらしい。 「今日謙太くんの話聞いてたんだけど思ったよりすぐ終わったから、そのあとはずっと勇也の話してた」 「俺の話…?」 「一人でいるとやっぱり寂しいかなとか、聡志に何か言われたりしてないかなとか…いかに勇也が可愛くて大切なのかとか」 「最後の意味わかんねえよ」 「聡志が嫌なわけじゃないよ、アホだけど案外根はいい奴だから。けど俺本当に勇也が好きで…常に側にいてあげたくなっちゃうから。側にいるのが俺以外の誰かだなんて嫌だ」 後頭部のあたりを撫でられて、そのままハルの胸へ額が引き寄せられる。消えないように、離れないようにまた少し強く抱きしめられた。 「我儘だって分かってるよ。けど…」 「…別に、お前がいないときでもお前のことしか考えてねえし…あ、いや違う!お前のことしかっていうのは、違くて」 うっかりぽろっと言ってしまって訂正するがもう遅い。顔が熱くなっていく。今のは正直本心でもあったが、流石に四六時中お前のことを考えてるだなんて言われたら気持ち悪いと思うだろう。 「…好き」 「はぁ?…おい、いきなり顔近づけんなって。心臓に悪い」 ハルの顔は至近距離で見てもやはり整っている。 その顔が自分の方を見ていると思うと、目を逸らしたくなる。けれどそんなのハルが許すはずがない。視線だけで釘付けにされてしまった。 「ゲーム負けた分、俺のこと癒してくれるんでしょ」 「さっきの話はどうしたんだよ」 「勇也は俺のこと大好きだからって思って聡志とかはまあ我慢するけど、女の子と二人で喋ったりしたら嫌だよ。本当は家から出したくないくらいだけど、それは勇也が可哀想だから」 ハルの目は少し冷たくなった。しかしすぐにまた温かさを取り戻して微笑むと、俺の目の前に顔を近づけたまま目を閉じる。 目を閉じても良くわかる二重まぶたと濃い睫毛、それに気をとられていると、ハルが話し始めてその息がかかった。 「勇也からキスして。この前できなかったから」 この前は途中で上杉が来て中断されてしまった。かと言って俺にする義務はないのだが、ゲームの条件を出したのは自分だし、今のハルは恐らく何を言っても聞く気はないだろうから従うしかない。 「タイミングわかんねえんだけど」 「いいよ、勇也の好きにやって」 勢いでいこうと唇を近づけるが、寸前で止まってしまって余計にしづらくなる。 ハルの頬を両手で掴んで固定し再度挑戦した。一瞬だけ唇に触れるつもりが、一度触れてしまうと離れられなくなってしまう。 そろそろ離れないとと思ったところでハルの手が頭の後ろに伸びてきて押さえつけられる。 また力が抜けたところを抱えられて廊下の床にゆっくり倒された。

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