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第171話Solved③

今の上杉の言動に驚いたハルが小声で耳打ちをしてくる。 「え、待って。そういうことだったの?」 「そういうことってどういうことだよ」 「あの二人ってそういう感じだったの?」 「わかんねえけど…真田の方は気づいてないっぽいぞ」 顔を赤らめる上杉を余所目に、真田は意味が理解できていないのか頭の上にハテナを浮かべている。 「ん…?つまりどういうこと?」 「いや、なんでもない。忘れてくれ」 「…俺だってお前みたいに強くなって、戦えるようになりたい」 「だから言っただろう。暴力では何も解決しない、争いはまた別の争いを生む」 見ていてもどかしい。 上杉の言っていることにも一理あるのだが、真田は恐らく何を言ってもすぐには理解できない。 「それに聡志、お前またタバコなんか吸って」 「元はと言えばお前が吸ってたから…真似しただけだし」 「だからやめたのに、聡志はやめなかったじゃないか」 「お前が変わっていくの嫌だったんだよ!だから…思い出してくれるかなって」 「なんだそれ…」 上杉は額に手を当てて参った様子を見せる。 この二人に関してはどっちもどっちな気がするし、話の収集がつく気がしない。 「…聡志、お前が双木達を巻き込んで騒動を起こしたとき、俺がどんな気持ちだったか分かるか」 「分かんねえよ…そんなの」 「俺のせいなんじゃないかと思った。俺がそうさせてしまったのだと…俺は聡志に人を傷つけるようなことはして欲しくない。あの時参戦することに踏み切ったのは、小笠原に脅されたことが主因ではあるが、責任を取らなければならないと思ったということも関係している」 脅したということを今初めて知ってハルの方を見ると、何のことか分からないと言ったように知らん顔をされた。 「じゃあなんだよ…お前は俺が弱いままでお前の後を引っ付いてるだけが良かったっていうのか!」 「そんなことは言ってないだろう!お前の強い心があれば充分で、腕っ節まで強くなる必要など無いと…」 「なんでだよ!暴力だけで解決できなかったとしても、弱くなければいじめられることだって…!」 「だから!その時はいつだって俺が守ってやる!俺はお前のことを側で支えてやりたいだけだ!」 真田は間の抜けた表情を浮かべる。先程のように分かっていないわけでは無さそうだ。 寧ろ、ようやくその言葉の真意に気づいたのだろう。 「それって…」 「この前逃げたことが気に入らないのならしょうがない、もしお前に手を出されていたら逃げずに応戦してしまったかもしれない。昔の格好いい謙ちゃんがいいと言うのなら善処はするが、喧嘩はできないし…それでも俺はお前と」 そこまで言うと、一方的に喋っていた上杉は我に返ってまた顔を赤くしていく。 真田は何がおかしいのか、急に笑い始めた。 「なんだよ…お前。俺、てっきり嫌われたのかと思ってたのに」 「そ、そんな…寧ろ嫌っていたのは聡志の方じゃ…」 「お前が変わり始めて…けど俺はやっぱりお前みたいになりたくて、高校入ってからイメチェンもしてさ…頑張ったのに。お前とは溝ができていくばっかだったし、こんな俺嫌になったんじゃないかって」 真田も中学の頃は今とは違う風貌だったのだろうか。 確かに今の真田はいじめられていたようには見えない。 「そんなことはない…お前なりに努力して、友達を増やして…けれどもう俺はお前の憧れなんかじゃないから」 「やっぱり、変わらないよ。俺、今でもお前に憧れてる。身なりとか考え方とかが昔と違ったとしても、謙ちゃんはずっと俺のヒーローだよ」 「聡志…」 「それに、さっきの聞いてようやく分かったけど、お前俺のこと大好きだったんだな」 そう言って上杉に向かって笑いかける。 自然と俺とハルは小さな拍手を送ってしまった。 「す、好きなんて、そんな…何を言って」 「俺と一緒にいたいんだろ?いいよ、俺もまた謙ちゃんと一緒がいい。けどやっぱり守られてばかりもいられないから、お前を目指すのは諦めない」 「また…変なところで諦めが悪いな」 「遥人とか双木も今はいるし、お前と早く仲直りしたいって思ってたんだ。お前の親父のところにも、ちゃんと謝りに行こうよ。俺達、これからもずっと親友でいられるよな?」 「親友…あ、ああ、そうだな…親友」 真田と上杉の間にはまだまだ課題が残っていそうだが、一応は解決したのかもしれない。 そろそろ昼休みも終わる頃だとハルにスマートフォンの画面に表示された時間を見せられた。 二人はそのままにここから立ち去ろうとしたのだが、ハルがまた身を乗り出そうとするのでそれを引っ張る。 引っ張った手をさらに引かれて、ハルはそのまま階段の踊り場に身を乗り出して仰向けに倒れた。 その上にまるで俺が押し倒したかのように床に手を付き重なってしまう。 「あ…ごめん勇也」 「き、貴様ら!学校で何をしているんだ!!というか、今までの話を聞いて…」 「お前らさっき帰るって言ったじゃん!」 「違うんだよ、たまたまここにいたら勇也に押し倒されて…」 「ふざけんな!」 結局、今回のことに俺達も協力していたことを上杉に話し、よく分からない空気が出来上がってしまった。 「その…二人にまで迷惑をかけてしまってすまなかったな」 「別に?俺もさんざん迷惑かけたしね。二人が変な感じなの嫌だし、なにより君んとこのお父さんとも早く仲直りしてほしいしね」 「そうだな…ありがとう、皆」 まだ課題が写しきれていないと真田が階段を降りていったところで、ハルが上杉に詰め寄ってなにか話し始めた。 「ねえ、謙太くんってゲイだったの?」 「はぁ?!何を言っているんだ」 「だって聡志のこと好きなんでしょ?」 「いや、だからなんで…そういう意味の好きとは限らないじゃないか」 また面倒なのに絡まれているなと上杉に同情する。 俺自身もあの時の上杉の赤面には驚いたが、真田は全くもってそれに気づいていなさそうだ。 「じゃあなんであんな顔真っ赤にするの?」 「それは…なんというか、あんなことを言うのは恥ずかしいし、お前らのことがあるから」 「俺達の…?」 「お前らは性別関係なく愛し合っているのだろう?前まではあまり馴染みがなかったけれど、そういうことも普通にあるのだと思うと…その」 愛し合っていると第三者から言われるのはなんだか違和感を覚えてしまう。 「あー、自分も聡志のこと好きなんじゃないかって?」 「あまり大声でいうな…まだ決まったわけじゃない」 「別にいいんじゃない?元から謙太くんがゲイだったら俺もちょっと困ってたけど」 「どうしてだ?」 ハルは側で話を聞いていた俺の手を引いて腕の中に収める。流石に人前でそんなことをされるのは嫌だったのですぐにそれを振りほどいた。 「勇也のこと好きになられたら困るもん。折角友達になれたのに、潰したりしたくないしね」 俺と上杉は顔を見合わせてため息をついた。こいつがこういうやつなのは分かってはいるが、笑っているのに冗談に聞こえないのが怖い。 「でも可哀想だねぇ、聡志ってクッソ鈍感そうだし、謙太くんも童貞だし。ずっと親友止まりだもんね?」 「うるさい!別に俺はこの先何かを望んでいる訳では無い…仲直り出来ただけでも充分だ」 「ふーん、まあいいや。頑張ってね?」 ようやく予鈴が鳴る音がする。 二人が元に戻れただけでも良しとしよう。 無理矢理ハルに手を引かれて階段を降りていった。

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