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第176話Caress②

「勇也、テストどうだった?」 「は?何が」 「何がって今日のテスト」 そんなこと何も覚えてない。 できなかった訳では無いけれど、今日これが終わったらハルと…そう思うとテストどころではなくて、気づいたらもう帰路についていた。 「まあまあ…」 「そう。俺が教えたの役に立ってたらいいな」 役には立ったけれど、集中できなかったのもお前のせいだ。ハルのことで頭が埋め尽くされてしまうような俺がそんなことを責めるのはおかしい。 大体ハルは悪くないし、自分が発情期みたくアホになっているだけだ。 家に入ってからもずっとそのタイミングを頭の中で考えていて、時間は勝手に過ぎてしまう。 風呂に一人で入って体を洗うとき、ふとこの前ハルに洗われたときの事を思い出す。 ハルの言いつけ通り泡で優しく体を洗い、隅々まで念入りに洗った。 今はもう、自分の体は自分だけのものじゃない。だから大切に、大切に。 「遅かったね。のぼせた?」 「いや、洗うのに時間かかっただけだから…」 「見せて」 何をと聞き返す間もなく腕を引かれ、まじまじと体の隅々を見つめられる。さっきまで風呂に入っていたから体が赤くなっていたけれど、顔にまで熱が集まってくるのはきっとそのせいじゃない。 「うん、大丈夫そう。傷無くなったね」 ベッドに座ったハルに手招きされて、ぎこちなくその隣に腰を下ろす。 もう始まるんだと思うと変に緊張してしまって、手に汗をかいていた。 「もっと見せて」 後頭部に手を回されて、まずは首にキスを落とされる。首の後ろで指が撫でるように動いて、押し付けられた唇が離れたかと思えば次は鎖骨を舐められた。 「んっ…」 「怖かったら、すぐに言って」 もう片方の手が服の裾から入り込んで肌を撫でる。 また反射的に目を瞑り、肩が震える。拒みたくない。それなのに瞼の裏に浮かんでしまうのはあの男の影。 「無理しなくていいよ、ごめんね」 「してない…無理、してな」 謝ってほしいわけじゃない。目を閉じたまま、離れていこうとするハルの手をもう一度自分の腹部へと誘う。 「もう少しだけなら大丈夫、だから」 「…わかった。じゃあちゃんと目開けて」 恐る恐る目を開いてハルの姿を捉える。触っているのはあの男じゃない。ハル以外の何者でもないんだ。 掴んでいた手を離すと、それが少しずつ上にあがっていく。後頭部に添えられていたハルの手は腰へ移動していて、ゆっくりと体がベッドに倒された。 唇同士が触れて、温かい舌が唇をなぞり口内に侵入する。俺の舌を捕らえて甘噛みし、息継ぎの間に声が漏れた。熱を持ったその声色はすぐに溶けてハルに飲み込まれていく。 体を少し浮かされたかと思うと、ベッドの中央まで運ばれて枕に頭が乗る。けれどまた口を塞がれて身じろいだからすぐに枕からずり落ちて、背側のTシャツが捲れていった。 付けっぱなしの照明が眩しい。時々ハルが覆いかぶさって陰ができる。いつの間にか前側も胸元まで露わになり、ハルの手が優しく這っていく。 少しずつ暴かれて、ハルに全てを見せることになる。痛々しい痣の薄く残った肌、少し痩せて浮いた肋骨、どれも見られたくないものばかり。 ふと、ハルがそれを撫でながら耳元へ顔を寄せた。 「綺麗だよ」 分からなかった。この前もそうだけれど、こんな体を、汚されてしまった体を綺麗だと言ってくれるのは何故なのだろう。 「あんまり…見んな」 「ダメだよ。ちゃんと全部見せて」 「やっぱり、汚ねえから」 そう言うとハルの動きが止まる。怒らせてしまったのかと思い首を起こして顔色を窺おうとすると、口の中に指が突っ込まれた。 「そんな事言わないで」 悲しそうな顔だった。前に綺麗だと言ってくれた時も同じような顔をしていた気がする。 指が舌を絡めとって刺激を与えてくる。すぐに引き抜かれた指を、ハルは自身で咥えてそこについた唾液を舐めとった。その行為にこちらが思わず赤面してしまう。 「やっ、あっ…」 腹筋を舌がなぞっていき耐えられず声を上げる。声が出てしまうのが恥ずかしくて口を押さえるけれど、すぐに手首を捕まれそれを制された。 「声…っやだ、あぁっ…」 「もっと聞かせて。声も体も全部好きだから、俺のものにするから」 嫌だ。そんな、まだお前のものになってないみたいな言い方。 「ど…したら、お前のものになれる?」 「え……違う、さっきのはそういうことじゃ…」 「何してもいい、いいから…早く…全部やるから」 泣きたかったわけじゃない、悲しくなんてないのに。ハルを困らせたくない。それなのにまたこうやってどうすればいいか分からなくなる。 「ごめん、泣かせるつもりなんてなかったのに…今日はもう、止めにしようか」 「いやだ…止めなくていい」 「焦ることないから。嫌な思いしてまでこんなこと」 それ以上喋らせないために、ハルの襟元を無理矢理に引っ張り唇を重ねて塞いだ。

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