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第192話Miss Flower⑦

ハルがローションを手に取り、その冷たい感触が分かると体が強ばって目を閉じてしまう。大丈夫だと思っていても、目を閉じるとあの男が瞼の裏に浮かんでくる。 「目ちゃんと開いて。俺のこと見てれば大丈夫だから」 指が一本、自分の中に入ってくるのが確かに分かる。力を振り絞って目を開き、ハルの姿を捉えた。 「力みすぎないでね、無理しなくていいから」 「んっ…あ、はる…」 半分しか開かない目でハルを見つめて、口を動かしたが言葉が出てこない。普段なら恥ずかしくて絶対口にしないような言葉だったが、それが伝わらないのが何とももどかしかった。 しかし何故かハルはそれを感じ取ったのか、はたまた偶然なのかは分からないが、優しくキスをしてくれた。キスで溶かされると思考が緩み、恐怖がかき消されていく。 「気持ちいい?」 「あ、そこ、嫌だ…あ」 「ここが好きなの?」 一点を責められ、久しいその感覚に全身が震える。指がもう一本増えたかと思うと、またしつこくそこを責めた。 先程一度も達していなかったから、張り詰めた俺のものはきつさを増していた。早く楽になりたい一心で勝手に腰が動く。 「も、そこ…やだ、前さわっ…て、いきた」 「もう少し頑張って」 「や、あ…っも、むり」 二本の指でずっとそこばかりを擦られて、その刺激に我慢出来ずハルの肩に歯を立てる。 「いいよ、好きなだけ噛んで」 「ん…っんん、んっ!」 腰が浮いて、歯に込める力がさらに強くなった。ハルの肩に傷をつけるのが申し訳なくて口を離そうとするが、快感の波が押し寄せると耐えられず噛み付いてしまう。 「中で気持ちよくなっていいよ」 「んっ…う、あ…あぁっ!」 ハルにしがみついたまま全身に力が入って、すぐに力が抜けた。射精感がある訳では無いから、中だけで達してしまったようだ。身体中が火照って息が弾む。 「気持ちよかった?怖くない?」 「ん…あ、も…いきたい」 「もう一回?」 達したばかりのそこに、再び刺激が加わる。擦られる度に嬌声があがり、触られていないきつくなったものからは先走りが垂れ始め、抑えきれず自分の手をそこへ伸ばした。 「ダメだよ、勝手に触っちゃ」 「な…んで、いきた…あ、やだ、そこっ…」 「凄い締めつけてるのに」 またすぐに腰がビクリと跳ねて二度目の絶頂を迎える。体の力が抜け、虚ろな目でもやのかかった天井を見つめた。 「あ…っ、ぁ…」 「ごめんね、辛かった?」 頷いて瞬きをすると、まつ毛の先から雫が垂れる。それをハルが舌で掬いとって、ようやく中から指が引き抜かれた。 「ちょっといい?」 「は…なに、して」 脚を閉じたまま上に持ち上げられ、なんとも恥ずかしい格好になる。ズボンと下着は膝下まで下ろされて身動きが取れず、上半身だけ服を着ているのも余計に恥ずかしかった。 「へんなこと…すんなって」 ハルまでもがボトムスを脱ぎ始め、ハルのすっかり昂ったものが太腿の間に宛てがわれる。 「やめ…ほんとに、何やってんだお前」 「ちょっとやってみたかったんだ」 そのまま太腿の間にハルのものが通っていって、脚にその感覚が生々しく伝わってくる。 僅かに自分のものと擦れ合うのがもどかしかった。 「あっ…やめ、嫌だ…変態!」 じたばたと暴れるが思うように体が動かず、ハルは律動を早めていく。怖いと思ったら動けなくなるものだけれど、恥ずかしいと思ったらとにかく体は逃げることに徹しようとしていた。 「勇也も気持ちよさそうなのに」 「ふざ、けんな…んっこんな…!」 ハルの表情が切なそうなものに切り替わる。その顔を見ると何故か見惚れてしまって一瞬気が抜けた。それを見計らっていたかのようにハルの手が俺のものへと伸びてきて刺激を加える。 いきなりもう限界だったそこを触られるともう止めようがなくて、寝たままの背中が弓なりに大きく反った。 「あっ…いや、あっああっ!」 それと同時に暖かいものがパタパタと上半身に跡をつけていって、ハルの動きも止まった。 「あ、ごめん。顔かかった?」 「そういう問題じゃ…ねえし」 あまりに恥ずかしくてハルの顔を直視できない。腕で自分の顔を覆って、目だけハルのことを弱く睨みつけた。 「ごめんってば…怖かった?」 「怖くは、ないけど」 「けど?」 「あんな格好…」 さっきのことを思い出してまた顔が熱くなっていく。そんな俺を見てハルはティッシュで飛び散ったものを拭き取りながら、耳にキスをしてきた。 「ごめんね、可愛くてつい」 「可愛いって言えばなんでも許されると思ってるだろ…ふざけんな」 「可愛いと思ったから言ってるんだよ。怖くないならよかった…正直、本気で怖がらせちゃったら俺の方もショック大きいから」 折角こっちは腹を立てていたのに、そんな寂しい顔をされたら胸が締め付けられてしまう。 「お前のその顔やめろ」 「何、その顔って」 「…捨て犬みたいな」 「なにそれ、勇也拾ってくれるの?」 どちらかというと捨て犬は俺で、拾ってくれたのはハルの方のような気もするが。笑みをこぼしながらため息をついて、一度ベッドから立ち上がると腰に力が入らず妙にふらつく。 「どこ行くの、勇也」 「…シャワー浴びる。ついてくんなよ」 俺は疲れていたのか、ふと思い立ち振り返ってハルの顔をじっと見つめる。 「そんな睨まなくても今日はついて行かないよ」 「…ありがとな」 「え?なんで」 「好きだよ、お前のこと」 目を見開いて首を傾げるハルの唇にゆっくり自分の唇を重ねる。 「お前も一人じゃないから、ハルには俺がいるから…だから大丈夫」 ハルが俺にかけてくれた言葉は、きっとハルが今までずっと誰かにかけてほしかった言葉だ。だから俺も、ハルがしてくれたように包み込んでやりたい。 俺達は一人じゃない、だから大丈夫。 「…俺もシャワー浴びさせて、顔洗わなきゃダメだ」 ハルは顔を隠しながら、口だけ笑って見せてそう言った。 「俺が先に決まってんだろ」 「じゃあ一緒に入ろうよ。でもその前に顔洗わせてね」 お互い競り合うように、ふざけ合いながら二人で廊下を歩いた。 ずっと、二人で。

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