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第201話
「あっあ…だめ、そんな、あぁっ!」
腰を前に突き出すように体が反って、それでもまだ足りない刺激を求めて自ら腰を動かしてしまった。再びハルの片手が胸元をまさぐり始め、その先端を押し潰しては捏ねてを繰り返す。それに合わせて下着の上からものを擦る力が強められて、声など抑えられるはずもなかった。
「んっ…ん、あぁ…だめ、だって」
「…敏感」
そう耳元で囁かれると、ゾクゾクする感覚が全身を駆け巡った。下着には既に先走りが少し滲み始めている。布と擦れ合うことでその刺激のもどかしさは一層濃くなって、早く直に触って欲しくてたまらなかった。
「やだっ…あ、ちゃんと…さわっ…」
「ちゃんとって?」
その顔を見ればわざとそう言っているのだとすぐに分かる。今は変な薬を使われた訳ではないし、素面の状態でそれに答えるには自尊心がどうしても邪魔をする。
それなのに、ハルから微かに香るその匂いに包まれると普通ではいられない。正にそれは媚薬のようだった。
「ちょく…せつ、さわっ…て」
消え入るような声で恥を忍びながらもそう訴えたのに、下着の上から擦る手を更に強められた。
「そんな睨みながら言わないでよ。このままでもイけるでしょ?」
「あっ!あ…やだ、いやだ…」
首に吸い付きながら、追い込むように下を扱いて煽情的な目でこちらを見上げてくる。
溢れてしまった先走りの厭らしい音をたてながら下着が擦れていって、その刺激に耐えられずハルの肩を強く掴んだ。
「んんっ…ん、あ、だめ、いっ…」
下着を身につけたまま達してしまうと思ったその時、例にもよって手の動きを止められてしまった。また寸止めを食らって半ば涙目にハルの方を睨みつける。
「なん、で…また」
「今日は、もっとこっちで感じてほしいから」
「こっち」と言いながらハルの指が後孔をなぞる。ついに来たと思うと体が硬直し始めた。
しかしハルは何故か立ち上がって自分の鞄を漁り始める。
「なにやってんだ…」
「これ、必要かなって」
「なんでそれ…」
暗闇にも目が慣れてきたから、ハルが手にしているのがローションだということはすぐに分かった。けれど、ハルは何もしないつもりで来ていたというのに何故それが鞄に入っていたのだろう。
「鞄の中にオモチャとかこれ入れたまんまだった」
「持ってくんなって言っただろ」
「ゴムはいつも財布に何個か入れてるから安心して」
そのままこっちへ来るかと思うと、ハルはローションを手のひらに出して何かしている。
「手で温めておこうと思って」
粘度のあるローションを手で温めるその仕草がやけに官能的で目を逸らしてしまう。後ろに宛がわれた指が中へと侵入してくると、一抹の不安を覚えてハルの浴衣にしがみついた。
「なんか…思ったよりすんなり二本入ったね。もしかして自分で解した?」
そう言われて体が再び熱を取り戻していく。途中で怖くならないように自分で解していたのは事実だ。しかし改めてそう言われると恥ずかしくて仕方ない。
ハルの二本の指が開いて中を広げて、余計に羞恥を募らせることになった。
「ひろ、げんな…ばか!」
「馬鹿って言っちゃダメでしょ」
「やっ…あ、あっ」
長い指が奥の方に当たって口が開きっぱなしになる。せっかく綺麗に着付けられていたハルの浴衣も、俺が強く引っ張ったせいではだけてしまった。
そこを何度も擦られて中で達しそうになったところで、また指の動きは止まってしまう。
「も…や、だ…止めな…で」
「ごめんね、もう少し我慢して。俺、こういうことがあるって期待してなかったわけじゃないんだ。でも勇也にそういうつもりがないのにするのも可哀想だと思ったから」
可哀想だなんて思えるようになったのは成長した証拠だとは思うのだが、それよりも自分がそういうつもりで旅行に来てしまっていたことがやはり恥ずかしい。
鞄からいかがわしいその玩具を取り出したのが見えて、一瞬体の熱が冷まされたような気がした。
「いきなり俺の受け入れるのも大変だろうから、まずはこれで慣らそう」
「いや…だ、なんで、そんなの」
「そんな怖がらないで、大丈夫だから」
玩具を使われること自体が怖いのもそうだけれど、その無機質な物体によって快楽を得ることがもの寂しいような気がして嫌だった。
それを手にしたハルの袂を引っ張って、口を小さく開きながらなんとか喋ろうとする。
「…じゃ……いやだ」
「なに?」
「お前の…じゃなきゃ、いやだ…はるがいい」
精一杯に声を絞り出してそう言った刹那に自分の体はいきなり引き起こされてハルの胸に強く抱き寄せられた。ハルに抱きしめられることなんて何度もあることなのに、浴衣がはだけて汗ばんだ肌が露わになり、ハルのものが既に昂っていることが良くわかると鼓動が早くなってしまう。
目を閉じるとあの男が浮かんでしまうけれど、その恐怖が薄れるくらいには胸の中がハルでいっぱいだった。好きな人が自分に対して欲情しているという事実が喜ばしくさえ思えた。
「俺、全然余裕無くてごめん。本当に勇也のこと好きだ…どうしようね」
「久しぶり…だから、や、優しく…」
「うん…ちゃんと大事に抱くから。だからちゃんと気持ちよくなって、俺のこともっと好きになって欲しい」
これ以上好きになってしまったらどうすればいいのだろう。そうは思うものの、ハルと話せば話すほど、触れれば触れるほど、好きだという想いは一層色を濃くしている。
「もう、大丈夫?」
「ん…」
そうは言ったがいざするとなると目をぎゅっと瞑ってしまう。忘れようと思うほど記憶が蘇って体の震えが止まらなくなる。
嫌だ、やめたくない。怖くなんてないはずなのに。瞼がくっついてしまったみたいに開かなくて、それが嫌で自分が情けなくなって涙が滲み出てきた。
開け、開けよ。なんで開かないんだよ。息までもが苦しくなってきて、このままではハルのことまで傷つけてしまう。自分から誘ったも同然なのにこんなことになるなんて、ハルは呆れてしまっただろうか。
涙の溜まった瞼に、優しく柔らかい唇が触れる。それはまるで魔法みたいで、固く閉ざされた瞼と体の緊張をほぐしていった。
「怖かったら無理しなくて大丈夫だから。でも、もしこのまま続けてもいいなら…ちゃんと俺のこと見てて」
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