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第203話Parfum④
「待て…!待てって…この!」
「なんでよ、勇也が誘ったくせに」
頭をぐっと押さえつけながら、息を荒くして迫ってくるこの獣から逃げようとした。いつもなら俺が逃げられないほどの力を入れたりはしないのに、今日は別らしい。
「盛るの早すぎなんだよお前!」
「勇也…お願い、もう我慢出来ないから」
ずっとハルに我慢させてしまっていたという事実もあるし、断るのもなんだかいただけないのだが、自分の体力的に考えても明日地獄を見るだけのような気がする。
「あっ…バカ、ゴムくらいつけろって」
「さっきので使い切った」
「嘘つけ!さっきいくつか持ってただろうが!」
ハルの腕から抜け出すために身を翻してハルに背中を向けると、その上から押さえつけられてうっかり四つん這いになってしまった。
ここぞとばかりに下半身へと手が伸ばされ、まだ硬さを保っていたそこに触れられる。
「勇也、まだこっちイけてないじゃん」
「やめっ…あ、触ん…な」
ローションのついた手で音を立てながらそこを扱かれる。無駄に優しく、ねっとりと纏わりつくような手つきが理性を刺激した。
「本当に触って欲しくない?」
「あっ…あ、ん…んんっ…」
ハルの手を押さえてその動きを止めようとするけれど、気持ち良くて自分の手に力が入らない。急かすようにハルのものが擦り付けられて、我慢ならず仰向けに向き直った。
「もう、好きにしろ…ばか」
「…またバカって言った」
嬉しそうに口角を上げて、ゆっくり体を前に倒してくる。その前に踵でハルの背中を蹴った。
「痛っ…なに?」
「ゴムつけろ」
「…はーい」
渋々とでも言ったように財布からコンドームを取り出して、余裕無さげにそれを装着する。その様子がなんだか可笑しくて、つい小さく笑ってしまった。
それに気づいたハルは唇を尖らせて、むっとした表情になる。
「なんで笑ってるの」
「いや…お前が必死そうなの、おもしれえなって」
「笑うことないじゃん…溜まってた分、全部受け止めてね?」
「全部って…そんな、んっ」
言葉の続きはハルの唇に奪われた。優しくて、暖かくて、心地がいい。
そのまま中にハルが入ってきて、身体だけじゃなく心まですべて満たされていく。
「気持ちいいよ、勇也の中」
「う…るさ、あっ…変なこと、言うな」
「勇也は?気持ちいい?」
こんな蕩けたみたいな顔で、だらしない声を上げているのに気持ち良くないわけが無い。ただハルは、それを言葉で欲しがっている。
「んっ…ん、あっ」
「頷くだけじゃ分からない」
「き…も、ちい」
「ほら目閉じないで、ちゃんと見て」
少し乾いた涙の跡に痒みが残る。眉根を下げたまま僅かにしか開かずピントの合わない目で、ハルを見つめた。
「あっ…あ、あぁっ」
「口まで開いてるけど」
「う、るさい…っん、あっや…」
いつの間にか隣の部屋も静けさを取り戻して旅館内はしんとしている。もう皆寝静まっているのだろうか、それとも起きていて声が聞こえてしまっているだろうか。
そんなことも、もうどうでもいい。どうにでもなれ。今自分はまさに流されててしまって好きにさせているけれど、実際もう何も気にしたくなかった。何を恐れることもなく、ただ愛し合うという行為に身を預けたい。
「も、いきた…はる、はるっ…」
「分かったから、そんな焦らないで」
上半身を抱きしめられ、また奥までハルのものが突き上げてくる。自然とハルの背中へ腕を回してしがみつき、その肩に噛み付いた。
「ん、んんっ…ぁ、いっ…いく」
自分の体がまた弓なりに反って中が痙攣するのが分かる。ハルの律動はそれよりも少し遅れてからようやく止まり、引き抜かれた後もしばらく抱きしめ合ったままだった。
「…もしかして、勇也もう眠い?」
そう言われて首を横に振るけれど、瞼は重く、今にも目を閉じて眠ってしまいそうだ。帰りに逃げ回ったせいもあるのだろうけれど、朝から旅行に来たのと久々に身体を重ねたのとで疲れはかなり溜まっていた。
「もう寝る?」
「好きなだけ、していいって」
「勇也寝ちゃったら意味無いじゃん。今日はできただけで嬉しかったから、もう寝ようか」
「ん…や、だぁ…」
背中に回していた腕にももう力が入らない。優しく頭を撫でられてキスをされると、瞼は自然と閉じてしまう。体がふわりと浮くような感覚がして、暖かい胸に抱かれたまま、意識は微睡みの中に落ちていった。
電話のコール音。目元を擦って、前も見ないままその音がする方へ手を伸ばす。手は空を切って中々それを掴めない。音が止んだと思ったら、上から伸びてきた手が受話器を取ったようであった。
「おはようございます…はい、はい…あーすみません、今起きました。はい…大丈夫です、ありがとうございます」
「フロントから…?今、何時だ」
「9時。もうバス出発しちゃった。だから電車で行こうか。朝食は出してくれるみたいだから急いで行こう」
ハルとした次の日に寝坊してしまうのは、もはやテンプレートのようになっていた。バスが行ってしまったのは仕方ない、まだ眠いからどちらにせよ外に出たくなかった。
「勇也、起きて」
「んー…」
「立てない?なら抱っこしてあげようか」
「ん…」
寝惚け眼のまま両腕をハルに伸ばすと、一拍置いてから体が浮く。昨日も寝る前こんな心地がしたななんて思いながら、部屋のドアの前で急に我に返ってその腕の上で踠き床に尻餅をついた。
「勇也、やっぱり寝惚けてたんだね。大丈夫?」
「くそ…ふざけんな」
立とうとするとよろけてハルに体を支えられる。久しぶりにしたものだから、腰の痛みに体が耐えられないようだった。
「ゆっくり歩こ」
「…腰いてえ」
「ごめんね。無理させて」
「別に無理してねえし」
また体が浮いたかと思うと、そのまま部屋の外に連れていかれてしまった。
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