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第249話Your temperature

今日の体育は男子はサッカー、女子はソフトボールらしい。そもそも今回からサッカーをやること自体俺は知らなかったが。 『じゃあ二人組になってストレッチ開始』 俺とハルは必然的に二人で組むことになる。あのことがあったから、俺達が二人で組むと視線を集めてしまうのは分かっている。けれどここで俺が他の奴と組むなんて言ったらハルは怒るだろうし、誰も俺となんか組みたくはないだろう。 あいつはホモだから狙われるだとかなんだとか、そんな冗談が飛び交うのは容易に想像ができる。 「勇也、手」 差し出された手を握るのも、少し躊躇してしまう。そもそも二人組のストレッチを俺達でするには体格差がありすぎてなかなか俺にとってはきつい。 背中を伸ばすためにお互いの背を合わせ、ハルが俺を持ち上げるようにしゃがむと足が浮く。体は柔らかい方ではあるけれど背中が痛い。 背中にハルの熱が、汗が、体温が伝わってくる。最近は暑いからあまりくっついて寝ることもないし、この前のことがあるからハルからは手出しされていない。 だからって別に手を出してほしいとか、そういうことをしたい訳じゃない…と、そう思いたい。本当はもっと触れて欲しいなんて、俺から言うのはちゃんちゃらおかしい。 確かにハルから酷い仕打ちを受けてそういう接触を避けていたのは俺の方だ。けれどあの時からもう既に二ヶ月以上経っている。ハルは我慢しているだろうけれどきっと反省の意を込めてあちらから誘ってくることは無い。 ということはなんだ?俺から誘えというのか。そんなこと無理に決まっている。ただでさえ今はこの騒動のせいで少し気まずいのに。 「勇也、俺は多分持ち上がらないから無理しなくても…」 「うるせえ!」 背中を合わせたまま今度は俺がハルを背負う番だったのだが、考え事をしていたせいでそのままハルを背負い投げてしまった。 「痛い…話聞いてた…?」 「あ、わりぃ…なんも聞いてなかった」 「も〜今の俺じゃなかったら怪我してたよ」 目立ちたくなかったのに今ので俺達に余計注目が集まった。ふと、さっきまでいた写真部のことが気になって目線を校舎へ移す。しかし部室があったのはグラウンド側では無かったし、流石に今は撮られていないか。 そう思ったのだが、運動部の部室棟の窓からカメラのレンズが覗くを捉えてしまった。案外意識してみればカメラには気づくことが出来るようだ。 「あいつ…また写真撮ってる」 「ほんっとうに懲りてないね…」 そんなこんなでサッカーの授業が始まった。サッカー自体あまりやったことが無かったけれど、とりあえず走ってボールを蹴ればいいのだろう。 ハルは自在にボールを操る。もしかして経験者なのだろうか。 「なあ、お前ってサッカーやってたの?」 「いや、アメリカいたころバスケはやってたけど、それ以外は何も。普通にセンスがいいんだよ」 ここまで堂々と自分を褒められるのも凄い。しかしそれが嘘ではないのが更に凄いところだ。ハルは凄いんだ。顔が良いし、家柄もいいし、運動神経もいい、頭もいい。文武両道、才色兼備だ。問題があるのは性格の方なのだが、それだって今頑張って矯正中だ。 こんな凄いやつが俺みたいなやつのことを好きなんだ。俺だけに必死になってくれる。独占欲が強いのはハルばかりじゃない。俺だって本当は誰にもハルを渡したくない、あの腕に抱かれる権利は俺だけのものであってほしい。 『双木〜チーム分けられたぞ』 クラスメイトの声にハッとして我に返る。授業中になんてこと考えてるんだ、俺は。 俺とハルは別々のチームになった。運動神経の良い奴は別れさせるのが普通らしい。ハル相手に勝てる気はしなかったけれど、やるからには勝ちたい。 「おいお前、俺相手だからって手ぇ抜いてんじゃねえよ」 「負けたら怒るくせに」 「手抜きのお前に勝っても嬉しくねえ」 競り合っているうちにゲームはいつの間にか白熱していて、先に授業を終えた女子が観客としてついていた。 『やっぱり遥人かっこいい〜』 『双木くんもいいな〜ギャップやばい』 『でも二人が付き合ってるんだもんね…』 意外と歓声が聞こえてくる。流石ハルだ。俺も客観的にサッカーをしているハルをよく見てみたい。けれど今はこいつをぶっ倒すのが先だ。こんなことろでも負けず嫌いになってしまう。単純に少しこのゲームが楽しかった。 結局同点のままこの授業は終わってしまったが、気づいた頃には授業に参加していた全クラスから注目されまくっていた。 『遥人も双木もすげーな、本当に初心者?』 恐らくサッカー部だったであろうクラスメイトに声をかけられる。俺もハルもお互いを少し見てからサッカー部に向き直って頷く。 『お前ら二人とも帰宅部だろ?サッカー部入んねえ?』 『おい、何言ってんだよ…だってこいつら』 『あ、そっか…』 「別に変な気使わなくていいし、サッカー部もちょっと遠慮しておこうかな」 もう本性はバレているにも関わらず、爽やかな笑顔でそう対応する。俺はハルの近くでただハルの言葉に頷くだけだった。 「やっぱりヒソヒソされると気になっちゃうね」 何でもないようにハルはそう言うけれど、実際のところ傷付いているのだろう。 ハルは教室に戻る際、部室棟の方に中指を立てていた。こういうところは抜かりない。 「明日はちゃんと滝川に話つけてくるね」 「ああ…そうだな」 「勇也?なんか今日ぼーっとしてる?何か考えてるでしょ、あんまり思い詰めないで俺にもちゃんと言ってね」 覗き込まれた顔が熱い。お前の事考えてるんだよ、バカ。そんなこと言えるはずもないけれど。 下校時もいつもと同じ様に並んで二人歩く。交差点に差し掛かったところで手を差し出すと、ハルが何か気づいたみたいに「あ」と声を上げた。 「なんだよ」 「別にもうコソコソする必要ないし、学校から手繋いで帰っても良くない?」 「だから、それだとまた変に注目されるだろ…今日の体育の時だって」 「そっか…ごめん」 俺のバカ。こうやって言うからハルは遠慮がちになってしまうんだ。さっき言ったことは本心だけれど、二ヶ月何も無しで欲求不満にならないほど俺は無欲じゃない。 触れたい。出来ればハルの方から触れてほしい。けれどそれを遠ざけているのは自分だ。やはりここは俺から誘い出すべきなのだろうか。 自室でスマートフォンを何気なく取り出して検索画面を表示する。 『恋人 誘い方』 こんなものに頼るなんて、本当はプライドが許さないが如何せんやり方など知らないからこうする他なかった。

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