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第250話Your temperature②

サイトを開くと当然それは男女に向けた記事だった。仕方ないがとりあえずこれで実践してみるしかないだろう。 「ボディタッチ…香水?、キス…単刀直入に言う…」 段階を踏んでいるにしても少しハードルが高いような気がする。もっと簡単なものはないのか。そう思って探してみたが、どれも同じような内容ばかりだ。ということは、これを実践すればすぐに誘い出せるのだろうか。 なんだかハルの誕生日の時のことを思い出す。あの時は次の日が平日だったし最後まですることは無かったが…そもそも誘ったのではなくただパジャマを着ただけだ。 しかし今からおっぱじめる訳にはいかない。夕食を済ませて、風呂に入る。ハルが寝てしまう前に行動を起こさなければと、ハルが風呂に入っているうちに悶々と考えていた。 「香水…ベッド用香水なんてねえしな…」 そこでふと、ハルが旅行の時に買っていた香水を思い出す。確か机の上にあったはずだ。 ハルの机の上の香水を手に取ってみるが、よくよく考えてみればこれはハルが付けていたものだし、効果はあまりないのではないだろうか。 そう思って香水を元の位置に戻そうとすると、うっかりプッシュしてしまいベッドに香水をひと吹きしてしまった。 「まあ、これくらいなら大丈夫か…?」 掛け布団の匂いを確かめる。ワンプッシュだからそこまで匂いが強い訳では無い。けれどこの匂いを嗅いでいると、あの旅行の夜のことが思い出されてしまう。 またあの時みたいに大事に…優しく抱かれたい 。女々しいことばかり考えてしまう自分に嫌気がさすが、何故かこの匂いを手放せない。 どうせベッドには入るんだ、そう思ってベッドに横たわり香水のついた布団の匂いをまた嗅ぐ。 あの時みたいに、もう一度…そう思って布団に包まれると、まるでハルに抱かれているような錯覚をする。下腹部の辺りが疼くみたいに熱を感じて、気づけば体も火照り始めていた。 「ハル…」 布団をぎゅっと抱きしめて、ハルの枕に顔を埋める。自分と同じシャンプーを使っているはずなのに、若干の違いを感じる気がするのは何故だろう。これで満足できればいいのだけれど、本物でなければ意味が無い。 「勇也ー?もう寝るの?」 「あ、いや、まだ」 「何やってんの、暑そう。クーラー付けるね」 布団に包まる俺をハルはケラケラと笑う。クーラーがついていなかったからこんなに暑かったのか、なるほど。 ハルがベッドに腰掛ける。今こそさっき調べたことを活用するチャンスではないか。 「ハル…」 「ん?なあに」 まずは軽いボディタッチから。そう書いてあったはずだ。ハルの肩にそっと自分の頭をもたれさせる。 「眠いの?電気消すからちょっと待ってね」 「違…っまだ、眠くない…」 「じゃあ今日は甘えたがりの日?ちゅーしたい?」 ふざけた調子でこう聞いてくるということは、全くアピールに気づかれてない上にからかわれているということか。ムカつく、でも据え膳は頂く。 そっと目を閉じれば啄むような短いキスをされる。あの時から体を重ねない分こういったキスの回数は増えていた。 ちゅ、とそれらしい音を立てながら何度もキスをして、それが深いものにならないうちに唇は離れていく。 「ん、今日は素直だね」 頭を撫でられて目を細めてしまうがそうじゃない。誘ってんだよ、こっちは。もしかしてハルの中でこれは誘ったうちに入らないというのだろうか。それなら次の段階だ。 ハルの服の裾を引っ張って、上目遣いに見つめる…のだが上目遣いってなんだ、どうやってやればいい。 「え、なんか俺悪いことした?」 「あ?なんでだよ」 「なんかめっちゃ睨んでくるから…」 違う、睨んだつもりなんてない。どうしてこうも上手くいかないのか。やはりパジャマを着てくるべきだったか。でもこのTシャツの方が汗をちゃんと吸うし快適だ。どうすればこの男をその気にさせられるのだろう。 普通に考えてみても今自分がしていることはプライドもクソもない。それくらい余裕が無いほど欲求不満だなんて、笑えてしまう。 「もっかい…今の、しろよ」 キスを強請るので精一杯の俺が、どうしてハルを誘い出せるというのだろう。けれどまだチャンスはある。 仕方なさそうに笑ってもう一度唇を重ねられた瞬間、勇気を出して俺の方からハルの唇を舌でなぞって中に割って入った。 ハルは一瞬驚いた反応をしたけれど、すぐに乗り気になり俺の腰を掴んでもっと深く口付ける。このままいけると思ったところでハルは唇を離してしまった。 「随分積極的だね?ダメだよそんなことしたら、また俺に意地悪してるでしょ」 いいんだよ。わざとだよ気づけアホ。キスもダメとなると何をすればいいんだ。さっき見た記事を頭の中で呼び起こす。 自分の触ってほしいところに彼の手を持っていく…だった気がする。 無言でハルの手を取るが、どこに持っていけばいいのか分からない。触ってほしいところなんて、そんな恥ずかしいこと出来るわけない。迷った結果、その手に自分の顔をすり寄せることになった。 「今日はいつもに増して可愛いね、どうかしたの」 「べ、つに…」 通常のハルならここでセクハラの一つや二つあるものなのだが。ここまで来てしまうと別の不安にかられてしまう。 ハルはもしかして俺に対してもうそういう気はないのだろうか。魅力がない?そそられない?だから何を仕掛けても反応なしなのだろうか。 最後の手段は、もう口に出して言うことだった気がする。この手だけは使いたくなかった。単純に恥ずかしいから言いたくないし、断られたらと思うと気が気でない。しかしここまでしたらもう何が何でもやってやる。 「きょ、今日は…」 「ん?」 「…金曜日だな」 なんだそれ。自分でも引いてしまう。だからなんだ、そんなことハルだって知ってる。 「そうだね、明日はゆっくりできる」 普通に返してくれるのか、優しいな。 ハルはもう寝る体勢に入っている。それを何とかしなくては。しかしどうすればいい。「欲求不満だからヤらせろ」だなんて直接的な表現は避けたい。かと言って変に回りくどく言って気づいてもらえなかったら虚しい。 ここまでしてダメならなんと書いてあっただろうか。押してダメならなんとやら…押し倒せだったか? 「ハル」 ハルがこちらを向いた瞬間、ベッドにハルを押し倒す。ここからが問題で、何も考えていなかった。ハルは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。 「勇也…?」 「いや…そ、の…」 今の今まで自分がしていたことが急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。押し倒しておいて今更、と思うかもしれないが、俺は今最高潮に焦っていた。「誘ってるんだから抱けよ」と言えたら楽なのかもしれない、絶対に言わないが。 「どうしたの?」 「あ…やっぱ、なんでも、な…」 もうここまでか。自分に呆れながらも、ハルの上から退こうとする。 その前にハルが俺の首の後ろを掴んでぐっと引き寄せた。ハルの吐息が耳をくすぐって、それだけで腰が砕けそうになる。 「ねえ、俺の勘違いじゃないよね?」 「へ…?な、にが…」 「勇也がいいなら、もちろん俺はするけど」 何がいいんだ。何をするんだ。まさか、こいつはずっと俺が誘っていたのに気づいていたとでも言うのだろうか。 「誘うなら、ちゃんと最後まで誘って俺をその気にさせて?」 「は…?なんで、そんな…」 「ほら、早くしないと俺もう寝るよ」 意地悪く口角を上げて、俺のことを煽るように耳の淵を舐めた。

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