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第251話Your temperature②
ハルを押し倒して馬乗りになったものの、何故かハルの方が優勢になっている。誘っているとバレた状態で誘えと言われてそれを実行するのはハードルが高いどころの騒ぎじゃない。
「どうしたの?早くしなよ」
「お前、調子のんな…」
「ごめんごめん、じゃあおやすみ」
「ちょっと待てや!!」
ハルの胸ぐらを掴むと、それを分かっていたみたいにクスリと笑う。全て見透かされているようでムカつく、いつもハルばかり一枚上手だ。
「なに?」
「…し、たい」
この三文字の言葉に俺は勇気というものを使い果たした。熱を増していく顔を隠すように、ハルの胸に顔を埋める。
ハルの事だからまた「何を?」と聞いてくるかもしれない。そうなってしまってはもう答えられないが、また無理矢理言わされるのだろうか。
その思いとは裏腹に、ハルはそのまま俺の体を抱きしめた。
「ごめんね、可愛くてつい意地悪しちゃった」
「…バカにしやがって」
「勇也からのお誘いなんて滅多にないから嬉しかったんだ」
「いつから気づいてたんだよ」
流石に二回目のキスをした時点で気づかれていたのだろうか。それともまさか肩に頭をもたれたときからか。そう思うとそれ以降の行動全てが恥ずかしいものになってしまう。
「部屋入ったら香水の匂いしたから、もしかしたらそうかなって。あと今日勇也の風呂長かったし」
そこからバレていたなんてあまりにも予想外だった。それを知っていて何も気づかないフリなんてしやがって、ふざけるな。
「気づいてたなら、なんで…!」
「俺に押し倒してほしかった?」
「そういうことじゃねえ」
「へえ、じゃあどういうこと?」
また耳元でハルの色めいた低い声が聞こえたかと思うと、片方の手がぎゅっと尻を強く掴む。
「ひゃんっ…」
「ひゃんって、なにその可愛い声」
「うる、せぇ…お前が反応しねえから、俺には魅力とか、そういうのねえのかと…思った」
「何言ってんの、魅力しかないよ」
好きな人が自分でその気になって興奮してくれたら、素直に嬉しい。
ハルの手はそのままTシャツの中へ滑り込んで背中を優しく撫でる。ハルの手が直接自分の肌へ触れているその感触がたまらない。
「はぁっ…あ…んっ」
「ちょっと背中撫でただけでこんなになっちゃうの?」
「う、るさ…あっ」
ハルの手が前へ回って、その親指が胸の先端を掠めて声が出る。久し振りに触れられたというだけで、おかしいくらいに体は感じてしまっていた。ハルの顔の脇に両手をつき、そのベッドシーツを強く握る。
「勇也、腕それ以上曲げないように我慢ね」
ハルは自身の上体を少しだけ起こして捲りあげたTシャツの中に顔を突っ込む。わざとらしく水音を立てながら舌先でそこを刺激されると、嫌でもそこは反応して芯を持ち固くなっていく。固くなったそこをまたハルは口の中に含んで転がした。
「んっ…んん…」
「もっと声出してもいいんだよ」
「やっ…あ…あっ!」
甘噛みされたのに耐えきれず肘が曲がる。余計ハルとの距離が縮まり貪るようにそこを吸っては舐め、痺れる感覚に思わずハルの髪の毛を引っ張ってしまった。
「ねえ、もしかして勇也こっちだけでイケるんじゃないの」
「そ…な…むりっ…」
女じゃあるまいし、下も触ってないのにイケるわけない。それなのにどうしたことか、刺激されるたびに下腹部が熱を持つような感じがする。
気持ちいいと認めてしまえば今すぐにでも気をやってしまいそうだ。
「あっあ…あ、いや、あぁ…っ」
片方はハルの指に、もう片方はハルの舌と唇で嬲られる。逃げ出そうにも上半身はいつの間にかハルに片腕で抱きしめられていてビクとも動かない。
今まではこんなにここばかり責められ続けることが無かったから、この先何かの一線を超えてしまいそうで恐怖すら覚える。
「あっ…待っ、なんか、くる…」
「ん、いいよそのまま…」
「だ、め…それ、以上…あっ、ふざ、けんな…クソッあぁっ!」
トドメみたいに最後は噛まれて、その瞬間頭の中が真っ白になって体が浮いたように感じた。中で達した時と同じく射精は伴っておらず、体はまだ余韻にビクビクと震える。
「イッた…?」
「はぁっ…あ…イッて、な…こんなの、違う」
「そう、じゃあもう一回試してみる?」
「嫌に決まってんだろバカ!」
ハルから離れようとして暴れると、それで体勢を崩して今度は俺が下になる。覆いかぶさったハルに手首を掴まれて、また耳を吐息がくすぐった。
「本当に嫌だった?」
「い、や…だった」
「気持ちよくない?」
眉を下げて俺の顔をじっと見つめる。やはり自分はハルの顔が余程好きなのか、その顔と向かい合わせになるとどうも視線を逸らしてしまう。
「うるさい…」
「うるさくしてないじゃん」
顔からキラキラと光るような効果音が聞こえるのだ。それがうるさい。また自分の心臓も、鳴り止まずうるさかった。
「よ…良かった、から…早くしろよ」
「早くって何を?」
「早く…だ、抱けばいいだろ」
もう半分やけくそだった。最初からこれを言えばよかった。抱かれたい、早く、早く。もうどうだっていい、この前みたいなのは御免だけれど、早くハルの熱に侵されてしまいたい。
「もっとゆっくり楽しもうよ、今日は金曜日なんだから。ね?」
「お前いちいちしつこ…んっんう」
言葉の続きを口で塞がれ、さっきよりもずっと激しく舌が絡みつく。今日までこんな激しいキスをしてこなかったのは、きっとお互い我慢が出来なくなるから。
舌の先で上顎を擽られるのに俺は弱い。そうされると勝手に声が上ずってしまう。ハルは全部わかってる、俺のいいところ全部。
「俺、ちゃんと反省して我慢してたんだ」
「我慢なんて、しなくても別に…」
「そんなこと言ったら、朝比奈くんの家から帰ってきたその日のうちに押し倒してたけど」
「…反省してなかったのかよ」
いや、なんとなく予想はついていた。そんなことをされていたら流石の俺も許さなかっただろう。まだあの時のことを許した訳では無いが。
「だから、勇也からアプローチがあるまでちゃんと待とうって…思った。正直何しても誘ってるようにしか見えなくてきつかったけど」
「誘ったのなんて今日が初めてだっつーの…アホ」
そう言った俺にハルは優しく口付けて、髪の毛を手ぐしでときながら愛しそうに見つめた。
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