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第252話Your temperature④

悔しい。自分から誘ったはずなのにまたハルに優位に立たれた。うだうだしていた自分が悪いのもよく分かってる。 「勇也、こっちの準備もしたの?」 「うるせえそういうこと聞くな」 〝こっち〟と言いながらズボンを下ろし手を這わせてくる。自分の強気な態度とは裏腹に、体は期待に火照り始めているのも自分で気に食わない。ハルの言う通り受け入れる準備はもうできているけれど、このままハル優位で流されていくのが何故か腹立たしい。こんなところでも負けず嫌いを発揮するとは自分でも思わなかった。 「そんなに早く抱いて欲しい?どうしようかな」 なんだその余裕そうな顔は。その顔が崩れるところを俺だって見てみたい。 自分はムキになっていたところもあると思う。徐ろにハルの肩を押し出して、また俺が上になる体勢へと交換した。 「怒った?ごめんって、もう少し遊んだらすぐに抱くから許し…え、ちょっと、何やってんの勇也」 「その気にさせればいいんだろ…やってやるよ」 「あっ…ちょっと、勇也」 ハルのズボンと下着を無理矢理に下ろして露わになったそれを凝視する。いつ見ても禍々しいというかなんというか、自分のものと同じそれとは思えない。既にそこは少しだけ硬さを持っていて、それが何故か自分の加虐心のようなものをくすぐった。 自らこんなことをする日が来るとは思っていなかったが、ハルになら、そんな風に思ってしまったのだ。 「んっ…ゆ…や、なにして…」 ハルのものに自ら舌を這わせ、根元から舐める。口元を押さえて頬を紅潮させるハルの顔が見えて、それが愛おしくて堪らなかった。 ハルに教えこまれた通りに、ハルのいい所を探りながら口内で刺激する。わざとでなくても水音が響いて、その恥ずかしさを紛らわすように髪をかきあげた。 しばらくそれを続けていると、ハルの表情は切羽詰まったような顔になってくる。 「待って…ゆうや…もう、ダメだって」 いつも俺がそう言ったって聞く耳を持たない癖に。いじめるようなつもりで喉を締めると、上擦ったハルの艶やかな声が聞こえる。謎に勝ち誇ったような気持ちになってきて更に吸い上げる。 その瞬間、さっきまで下にいたはずのハルが体を起こして俺の肢体に抱き着き、ハルのものを離した俺の口からは唾液が垂れた。 「ここまでされたら我慢出来ない、勇也の勝ち」 なんだか分からないけれどハルに勝ったらしい。 そんなことを考えているうちに見事に形勢逆転され、また俺が下に敷かれた。ハルの指が目の前に差し出され、条件反射のようにその指を咥えて自分の唾液で濡らした。 その濡れた指が自身の後孔へあてがわれるのが分かると急に現実に引き戻されたように体が強ばる。 「待て、まだ、あっ…!」 「待たない」 長い指が一本入り込んで中を掻き回す。刺激を与えるというよりは、ただひたすらに抜き差しを繰り返し中を解していった。 「あっ…ぁ…」 「きっつ…久しぶりだから?俺の入るかな」 もう一本の指が侵入してくる。相変わらず出し入れを繰り返しては指を広げるだけで、いつものように前立腺を責めてこない。 「しつ、こ…抜け…よ」 「物足りないの間違いじゃなくて?」 「ちが…あんっ…」 期待していたところをようやくその指が捉えて擦る。けれどわざとすぐに指を抜いて、ぐちゃぐちゃと音をたてながら出し入れのみを続けた。 「あ…っもう…いい、だろ」 「勇也のいいところちゃんと教えて。ここ?」 「ん…ふっ…う、あぁっ」 どこも違うと思っていたところで、何度目かにようやくそこを指が掠める。わかり易く声が上がってしまうのが異様に羞恥心を煽っていった。 「ほら、答えて。ここなの?」 「ちがっ…あっ、あぁっ…あ」 「ここが一番声出るけど、違うの?」 「ち、がう…ちが…ぁ…っも、そこやめ…ろ」 そこをそれ以上擦られたら簡単に気をやってしまうであろうことはなんとなく分かっていた。だから早く指で解すのは終わりにしてほしいのにしつこく中を指で刺激してくる。 「もう…やだ、あっあっん…んんっ」 「嫌じゃなくて、いいんでしょ」 「あっ、いっ…ちゃ、だめ、あっあっ!」 達してしまったと思ったが、その寸でのところで指が抜かれる。一瞬何が起きたのか分からず、少し涙の溜まった瞳でハルの方を見た。 「このまま指でイク?」 「い…から、はやく…お前の…ほし」 ハルのものが宛てがわれて、俺の言葉とは逆にゆっくりと中に入ってくる。その熱がもどかしい。抉るようにゆっくりと、それがこんなに気持ちいいなんて知らなくて、快感に耐えているところを一気に奥まで突かれた。 「あ゛っ…ぁ…あ」 「今イッた?」 「いって、な…あっ」 どうしてこうも天邪鬼になってしまうのかは自分でもわからない。何の強がりなのか、こう言ってしまったせいで余計にハルを奮い立たせているような気がする。 達してしまったばかりのそこを抉りながら律動を早めていく。 「あっあ、あぁっ、まっ…て、待てって、バカ!」 「イッてないならイカせてあげないと」 「やっ…あ、も…いった、から!だ、から…あ、待って、おねが…」 制止するも虚しく、触られてもいないのに押し出されたように精を吐き出してしまった。 「出しちゃった?」 「まてって、いった…ばか」 「もう意地悪しないから、ごめんね」 そう言って俺を抱き上げたハルに目を閉じて顔を向ける。唇が重なってからはハルの首に腕を回して、繋がったままのそこが締めつくように感じた。 「勇也」 「…んだよ」 「好きだよ」 またこれか。別に、言われるのが嫌なわけじゃない。寧ろ言われる度に体がふわりと浮くような心持ちさえする。けれどそれを自分が返していないみたいで複雑な気持ちにもなってしまう。もっと言葉を大切にしたいから、そう簡単に言えない。好きな気持ちは同じでも、好きの価値観がきっと違うんだ。 言わなくてもわかってほしい、言われなくても分かるという俺の気持ちとは別に、ハルの場合言わなければ伝わった気がしないし、言われなければ分からなくて不安になるのだろう。 「お前の好きって、どれくらい重いの」 「どうだろう。勇也の気持ち押し潰すくらいには重いかな」 「そう簡単に潰れるかよ」 最初の頃はハルの方がずっと愛が重いと思っていたけれど、今では逆のような気もする。ハルが思っているよりもずっと俺のハルに対する愛は深い。 「今回はごめんね。皆にバレるの、勇也嫌だったでしょ」 「お前だって傷ついた顔してたくせに、平気なフリすんな」 「確かに、情けないけど結構きついね。まだ慣れなさそう、俺も周りも」 俺達を異質なものとして見る目は変わらない。それは確かに自分の想像していたよりもずっと冷たいものだった。風当たりが強くなるのを見越していたとはいえ、常にそういう視線に晒されるのは精神的に堪える。 「けど俺は、勇也がいれば本当にそれでいいよ。学校に行く理由なんて、それで充分。おまけで上杉くん達も一応入れておいてあげるか」 「お前、本当に俺のこと好きなんだな…」 何気無しに吐いた言葉はかなり恥ずかしいものだった。毎回毎回どうして言ってから気づくのだろう。 「好きじゃないのに汚い手まで使って手に入れようとしないよ。勇也の何倍も俺は勇也のこと好きなんだから」 「は?なんでお前の方が勝ってることになってんだよ」 こういうのが勝ち負けじゃないことは分かってる。けれど何倍も好きなんて言われたら黙っていられない。 「お前より俺の方がす…きに、決まってんだろ」 またしても、ハルの胸を押して自分がハルの上に乗る形になった。

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