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第253話Your temperature⑤

「勇也さん?これはまた…その、大胆な」 「うるせえ、お前はなにもすんなよ」 あまりやったことがないから上手くできるかなんて分からないけれど、ハルの上で繋がったそこを抜くようにゆっくりと腰を上げる。ハルの表情をよく見ながら、抜きかかったところでもう一度奥まで腰を落とした。 「んっ…どう、だよ」 「どうって、そんな…眺めが最高…」 「ぁ…っばか、へん、たい」 また腰を上げて、意識したわけじゃないけれど勝手に中が収縮してハルのものを締め付ける。余裕のなさそうなハルの顔を見ながら、少しずつ動きを早めていく。 ハルにただ抱かれるのとは違う愉悦を味わえる。なんだか、癖になってしまいそうだ。 「あっ…ゆうや、それ、やば…」 「情け、ない声…だしてんなよ…んっ」 上で自ら腰を振るなんて本来なら恥ずかしいこと極まりないのだが、今はこの優越感に浸っていられるだけで充分だった。 今日は特にハルが可愛く見える、このままハルをイかせてしまいたい。 そう思ったのもつかの間、ハルが上体を起こして前に倒れてくるものだから、一緒に倒れないよう反射的に抱きついてしまった。 そのままいつの間にか俺の背中はベッドにくっついている。体制を持ち直したハルに片足を掴んで上げられ、身動きが取れなくなった。 「ば、か…なにして!」 「勇也って体柔らかいよね、こうすると奥まで入る」 「あっ…!そ、こ…いや、だ」 ハルが奥まで入ってくる。その度に中は締め付ける動きばかりして、体が喜んでいるみたいで酷く格好がつかない。張っていた虚勢が溶かされていく。 「いやいや言ってる割には…すごい締め付けてるけど」 「うるさ…だ、まれ…あっ」 律動が早まり、シーツをきつく掴んだ手を解かれてハルの指が絡まる。上げられた脚に痛みなんてものは無かったけれど、しつこく奥を突かれては開きっぱなしになった口から声が漏れるのが恥ずかしくて仕方なかった。 自分で吹きかけてしまった香水の甘く刺激的な香りが、より一層自分の中の何かを掻き立てていく。 「素直になりなよ…ね?気持ちいい?」 「あぁ…っあ、あ…いい、きもち、い…」 「あーもう…好き」 うるさい。俺の方がずっと好きだ。そんな簡単に気持ちを伝えられるのがずるい。けれどそれが決して軽いものじゃないことはいちばん俺がよく知っている。知っているから、余計に好きになる。 「どうして、くれんだよ…」 「ん、何が?」 「お前の、せい…で、俺は…」 今普通に生きているのも、誰かと食卓を囲むのも、愛されるのも、こんなに誰かを好きになって心を乱されるのも、こんな予定全くなかったというのに。 ああ、泣き虫なのも小学生で治ったはずなのに。こうも簡単に俺の感情を全部引き出してしまう。 「ん…好きだよ、俺のこと好きでいてくれてありがとう」 「あっ…おく、も…だめ、いきそ…」 「勇也、一緒に…」 不意に唇を重ねられて、ハルが俺の中で果てる。 次第にゆっくりと律動が弱まり、どろりと中に出された精が脚を伝うのがわかった。ハルの果てる瞬間に自分も達してしまったためか、ハルの肩には俺の歯形がくっきりと残っていた。 「ごめん、ゴムつけるの忘れてた」 「ふざけんな…」 「勇也だって今日はノリノリだった癖に」 たしかに今日は自分が乗り気であったというのも否めない。けれど最後はまたハルに形勢逆転されてしまった。その満足したような恋人の得意げな顔を両手で包むように掴む。 「え、なに、ごめんってば」 その口に噛み付いて、舌は入れず角度を変えて何度も舐るようにキスをする。呆気に取られたハルは動かないままでいた。 「…言わない、だけで…俺の方がお前のことずっと…」 赤くなった顔を一度腕で隠すと、その隙をついたとばかりにハルが首に吸い付いてくる。見えるところに付けるなといつも言っているのに、わざと見える位置ばかりにハルの痕が付けられていく。 「俺の方が先に好きになったんだから俺の方が好きに決まってるでしょ」 「順番とか関係ねえし」 「あは、勇也も俺のこと大好きじゃん」 「…悪いかよ」 肌同士でハルの熱を直接に感じる。離したくない、離れたくない。 「ねえ、今俺達がしてるのって悪い事だと思う?」 「…何も、悪くない」 「そうだよね、好きだからしてるんだもん。何も悪いことないよね」 強いていえば高校生にしてはませているくらいだろうか。けれどそんなの、男同士だろうが男女だろうが同じだ。男だから妊娠の心配がないのは事実だけれど、それが理由で体を重ねているのではない。 「…7月の後半に、花火大会あるって、真田が言ってた」 「ああ、この辺で毎年やってるやつ?どうしてまた急に話そらすの、照れ隠し?」 ニヤニヤと笑うハルを睨みつけて、回りくどい自分を呪いながらも小さな声で続けた。 「いき…たいから、連れてけ」 精一杯に視線を逸らして命令口調でそう言う。花火大会のことを今思い出したと言うよりは、言うなら今しかないと思ったのだ。素面というか、普段の正常な判断が出来ている状態でこんな誘い方はできない。 というか、セックスを誘うくらいだったらその前に誘えばよかったものを、俺のバカ。 「…元よりそのつもりだったけど…それは反則だろ」 ぽつりとハルが呟く。珍しく怒っているわけじゃないのに荒い喋り方だ。 「反則ってなんだよ」 「いや、こっちの話。聡志もなんで急に言うかな、いやまあ結果最高なんだけど」 「なんか…俺達の関係知ってからあいつ妙に気にかけてて」 「なるほどね…花火大会には勿論一緒に行くよ。浴衣も着ようね」 浴衣ということは、またハルの浴衣姿が見られるということか。少し胸が高鳴る。 このルックスの持ち主が、自分の恋人。浴衣を着たハルも、素直に笑うハルも、寝起きから無駄に格好いいハルも、全部自分のものだ。これで優越感に浸らないわけがない。いくら自分がハルの全てを好きだと言っても、大分顔でカバーされている部分はある。もちろん顔以外だって好きだ、ちゃんと。 「お前は行ったことあんの、祭りとか」 「無いよ、初めて。だから縁日も花火もすごく楽しみ」 子供みたいに無邪気に笑うその愛くるしい顔が好きだ。きっとハルのこんな顔は、俺しか知らない。他に見せたくなんてない。 「…お前のその顔、結構好きだわ」 「え」 ハルは驚いた顔のまま、徐々に耳だけを赤くしていく。本当に俺は、思ったことがそのまま口から流れ出てしまうようだ。 「なんだよ、いいだろこれくらい言っても」 「言葉の破壊力もそうだけど、今勇也自分がどんな顔してたか分かる?」 「そんな変な顔してたか」 「ふにゃって効果音がつきそうな感じに笑ってた」 つまりそれは間抜けな顔をしていたということだろうか。少しムッとしてハルの頬をつつく。 「お前もいつも気ぃ抜いた顔してんだろ」 「それは勇也の前だからだよ。ふわって気持ちになんの、分かる?」 「分からなくも…ない」 ハルといると自分が自分じゃないみたいだ。双木勇也は元二中の狂犬、人前で隙を見せたりはしない。けれど恋人の前でくらい、ちょっと気を抜いたっていいじゃないか。 別に俺が男を好きだって、ハルを好きだって、いいじゃないか。どうして好きになったかなんてはっきりとした理由はない。皆が俺の選択を間違っていると言ったとしても、俺はハルと生きたい。 「ハル…」 呼んだ名前に反応して、ハルがにこりと微笑む。その唇にもう一度ゆっくりとキスをした。 【第四章 temperature-完-】 第五章へ続く

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