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第257話Before Summer④
テストは明日から。いくら勉強していたからと言って万全とは言えない。殆ど朝比奈に付きっきりで教えていたから、この三日間出来なかった分をなんとか少しでも取り戻さなければ。
勉強するという理由で今日は珍しく自室にいるが、ハルはもう寝てしまっただろうか。さっきまで風呂に入っていたけれど、流石にもう出ているだろう。
物理のテキストを開いて計算を始める。いくら理系教科の方が得意とはいえ、数学も理科系も複雑な応用になってくるとなかなか厳しいものがある。
「ん…なんでここ計算合わねえんだ?」
「そこはこの公式をちょっと変えて…」
「なるほど…っていつからいたんだお前!」
ハルが気配を消すのなんて久しぶりだ。そもそも最近は常に一緒にいたせいもあるかもしれないが。
ハルは勉強机に向かう俺の首に後ろから抱きついて耳元で喋る。
「ごめんね、また構ってあげられなくて。どこか分からないとこある?」
「別に、そんなんじゃねえし…」
「今計算戸惑ってたくせに。いいよ、日付変わるくらいまでなら付き合うし」
ハルだって真田に教えるのであまり自分の時間を取れていないはずなのに、なぜこうも余裕なのだろう。ハルが全く勉強をしていない訳でないことはよく分かっている。授業は真面目に受けてずっと先の予習もこなしているし、努力をしてるのを知ってる。
真田みたいに素直に教えを乞うこともしていないのに、どうしてこうも優しくしてくれるのだろう。優しいハルは、ずるい。
「ねえ、俺やりたいことあるんだけどいい?」
「やりたいこと?」
「今から一問ずつ演習問題解いて、間違えたらなんかエロいことしよう」
「…アホじゃねえのお前」
どこぞのエロ漫画読んできたんだよ。呆れてため息をつくが、ハルは横から俺のことを覗き込んで目を潤ませる。
「ねえ、お願い…ダメ?」
「…好きにしろよもう」
「やったー!じゃあどんどん解いていって」
駄目だ、ハルに甘すぎる。可愛いって言ったってこいつももう高校二年生だ。いい加減このお願いというのをやめさせなければ。
「…全然間違えないね」
「さっきお前が教えてくれたからな。多分全部解ける」
別に何かされるのが嫌なわけじゃない。普通に解けてしまうだけだ。このままだと本当に全問正解してしまう。
してしまうってなんだ、何をがっかりしているのだろう俺は。
最後の問題まで来た。これは難しいから解けないかもしれない。いや、さっきハルが言っていたのを応用すれば…解けてしまう。
「その感じだと解けそうだね」
「…おう」
この問題が終わったら終わり。何がそんなに不満なのか自分でも分からないけれど、分母の数をわざと間違えて書いた。ハルがそれに気づくかどうか、心臓が変にうるさい。
「あ…それ、違う。なんで急に分母変わったの、間違え方おもしろ…あ、そういうこと?」
「うるせえ。はやくしろ」
「答えはここの分母が2で…」
「そうじゃねえ」
至近距離にあるハルの顔を振り返る。耳に唇が触れてしまいそうな距離で、声を振り絞った。
「え…ろい、こと…するんだろ」
「…明日寝坊しても勇也のせいだからね」
正直最近の俺はどうかしてる。やけくそになっているのかと言われたらそうではないが、あえて言うのであれば夏のせいだろうか。
恋人としてハルに触れられる喜びをしってしまったから。
ハルの指が耳の淵を撫でて、その指がさらに耳の中まで入ってくる。
「耳…や、めろ」
「好きでしょ?」
耳全体を包み込むようにしてから親指でなぞられ、擦られるたびに腰が跳ねる。ただ耳を触られているだけなのに、どうしてこんな風になってしまうのだろう。
「んっ…!」
耳の中にハルの舌が入り込んでくる。耳の形を確かめるように舌を這わせては舐るのを繰り返した。ハルの吐息とその水音が耳に直で響いて、我慢出来ずにハルの腕を掴んでしまった。
「も…いい、いやだ…」
「耳舐めただけなのにこんなになっちゃうんだ?」
「う、るさ…焦らすな、あほ」
座ったままもどかしいのを誤魔化すように両膝を擦り合わせる。それなのにハルは意地悪く脚に手を這わせて撫で、内腿を擽るように触ってきた。
「ん…っん、やめ…」
「やめてほしいの?」
「わかってる、くせに…」
ああ、明日は期末考査なのに。平日だから勿論8時ごろには学校に着いていなければならない。それなのに止められないのは何故だろう。
そのまま膝下に腕を差し込まれて抱き抱えられ、余裕が無いのか俺の部屋のベッドへと運ばれる。
お互い少しだけ、あと少しだけと口にしながら結局最後まで抱かれてハルの腕の中で果ててしまった。反省はしている。
次の日遅刻ギリギリで学校に着いたのは言うまでもない。俺とハルが一緒に遅れて学校に来るものだから多少の注目を集めてしまうのは仕方がないが、あらぬ噂をすぐに立てられてしまうのはハルが首元に付けまくった痕のせいだと、後になってから俺は気づくのだった。
テストは次の週になってようやく終わり、その後はテスト返却や掃除、終業式の時間に充てられた。
真田と朝比奈は赤点回避、しかも真田は数学で78点を取ることが出来た。平均点以上の点数を取れたのが嬉しいらしく、さんざん自慢しに回っている。
終業式の終わった放課後朝比奈から連絡が入り、一年の教室に来て欲しいとの事で一度ハルを昇降口に待たせた。なんの呼び出しかと思っていたけれど、教室に着いてようやく俺は朝比奈のご褒美の話を思い出したのだった。
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