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第270話My sweet

俺の軽率な行動がまたハルのどこかに火をつけてしまったらしく、抱えられたまま部屋のベッドへ直行された。 「お前…まさかまだ…」 「だって俺まだ一回しか出てないもん」 「もうやだ、疲れた。髪乾かして寝る…」 赤ん坊、もといいつものハルみたいに俺がそう愚図ると、仕方なさそうにドライヤーを手に取って俺の髪の毛を乾かし始めた。 「勇也が愚図るなんて珍しい」 「愚図ってない」 「俺的にはもう少しイチャイチャしたいんだけど」 「…しろよ、勝手に」 髪を乾かし終わってハルがこちらに寄ってくるよりも前に、その手に持っていたドライヤーを取り上げてスイッチを押した。 「えーいいよ俺は自然乾燥で。もうほぼ乾いてるし」 「お前なぁ…いつもは俺にうるさく言うくせに」 「早くイチャイチャしようよ」 「うるせえ、俺がやりたいからやってんだよ」 ハルのふわふわした髪の毛を乾かしていく。犬の世話をしているみたいな気持ちだ。ハルの方が背が高いから、ベッドに座ったハルを立ったまま乾かしていると段々足腰がもたなくなってきた。 「…終わった」 「早くない?どうせやるならちゃんと乾かしてよ、せっかく気持ちよかったのに」 「疲れたんだよ」 「ああ、さっきあれだけ動いたしね…いたいいたいなんで抓るの」 ベッドに寝転がり、ハルの服の裾をきゅっと引っ張る。キスをしながら覆いかぶさってきて、次第に手の指を絡め合わせていった。 嬉しそうに見えない尻尾を振りながら、ハルは俺の首元に顔を埋めてキスを繰り返す。 「…んっ、ふ…くすぐってえ」 「勇也いい匂いする」 「お前と同じ匂いだろ…あ、お前またあの香水つけただろ」 「バレた?やっぱり鼻いいよね、勇也」 この匂いを嗅ぐと情事中のことを思い出して顔が熱くなる。恥ずかしくてハルの脚に自分の脚を絡めると、何かを察したように顔を近づけてきた。 「誘ってんの?」 「ちがう…けど」 「けど?」 「した、い…キス」 目を合わさずにそう言えば、小さく音を立てて一回だけ唇が重なる。 それだけでは勿論足りるはずがなくて、小さく口を開けて舌を出した。 「ん…」 「ダメだ、可愛さがキャパオーバーしてる…」 「はぁ?…んっ…んう…」 舌が入り込んで、上顎を優しくなぞる。最初の頃から俺はハルとキスするのが嫌いじゃなかった。ハルのことを嫌いだと思っていたときでさえ、このキスは心地よかったのだ。 だから、ハルのことを好きな今こんなキスをされたら恐ろしいくらいに気持ちが良くなってしまう。 「んっ…はぁ…はる…んぅ」 「もっと名前、呼んでほしい」 「はる…はる、す、き…」 「…ようやく聞けた。もっと好きって言ってよ」 そんなん心の中で何回も言い飽きてるんだよバカ。と、心の中でまた悪態をつく。好きと口に出して言うのは体力と精神力を使うんだ。そう簡単に言ってやるものか。 「もう、言わね…ばーか」 「あ、バカって言ったな〜。そういう子にはくすぐりの刑だ」 ハルの手が脇腹を擽って上半身がピクリと跳ねる。笑い転げながら声を抑えてハルのことを足で蹴飛ばした。 「んっ…ふっ、やめろ、ばか、ばーか…ははっ、やめろって、やだ」 「…妙に色っぽいんだよなぁ」 「なに、が…?あっ、そこ、よわ…い、からっ」 ハルの手を思わず押さえるが、片手を押さえるので精一杯で、もう片方の手が容赦なく体の上で蠢いていく。 「勇也、脇綺麗だよね…脱毛でもしてんの」 「ひゃあっ…ん、して、な…や、そこ…む、り…あっんん…ふぅっ…息、できな」 「やっぱり体毛うっすい…逆にいやらしいな、なんか」 夏は寝巻きとしてタンクトップを着ていたからか脇がガラ空きで、そこをハルに舌で舐められ体が僅かに快感を受け取ってしまう。 「なめ、んな…そこ、きたな…あっ」 「さっき洗ったんだから綺麗だよ。勇也がそんな服着てるのが悪い」 「なん、れ…おれの、せい…んっ、やだ…あっ?!待っ、そこ、ちが」 タンクトップを引っ張って、ハルの舌が胸の先端を刺激するように舐め始めた。それには堪らず必死に抵抗してハルの頭を掴むがビクともしない。 「やっあっ…はる…やめ、ろばか!」 バカと言ったのに反応したのか、今度は口に含んで吸い付き始めた。 男なのに乳首を弄られただけでイッてしまうほどそこが敏感だというのに、こう何度もそこばかり責められたら余計敏感になってしまう。 「や、めろって、ばかはる…!」 枕で頭を叩いてようやくハルを引き剥がす。それでも反省の色なんて見せず頬擦りしながら犬みたく唸った。 「またバカって言った…」 「お前が変なことするからだろ」 「もっといい子いい子されたい」 「はぁ?なんだよそれ」 抱きついて胸元に顔を埋めてくるハルが撫でろと言わんばかりに上目遣いにチラチラとこちらを見つめるので、仕方なくその頭を撫でてやった。 「…いい子だな、ハル」 「これやばい、ハマりそう」 「今日だけだかんな」 「毎日やってよ。社会人になってもこうやって毎日勇也によしよしされたい」 どれだけ先の話をしてるんだと思わず吹き出す。それでも、未来の話をされるのは嫌いじゃない。それだけ先をハルは俺と見てくれているのだ。 「気が向いたら…な」 「もう、いつもそればっかり」 「毎日してたらお前も飽きるだろ」 「勇也に飽きる日なんて来るわけないじゃん」 そうであってほしい。俺はともかく、ハルの周りにはたくさんの人がいる。その中から俺を選んでずっと一緒にいてくれているという事実がどれだけ幸せなことか。 前の話を振り返る訳では無いけれど、いつ新しいジュリエットが現れたっておかしくないのだ。できることならハルを鳥籠に閉じ込めて、自分だけが餌をやって身の回りの世話をして、足に糸を繋ぎ俺のところから離れないようにしたい。 なんて、こんな考え方まるでハルみたいだ。自分はそんなに重い方ではないと思っていたが、ずっと一緒にいると似てくるのかもしれない。 独占欲がないなんて言えるはずない。ハルが他の人を見ていたら嫌だ。俺だけを愛してくれないと嫌だ。 「勇也…ちょっと、よしよしタイムが長すぎると流石に照れる」 「あー悪い、無意識だった。つーかよしよしタイムってなんだよ」 「じゃあ今度は俺が勇也のことよしよししてあげよっか?」 「いいって別に…聞く気ねえだろお前」 立ち位置が入れ替わり、ハルが俺の頭をひたすらに優しく撫でくり回す。確かに悪いものではい。ハルの大きな手から伝わるこの温もりが好きだ。 大きな瞳も、甘い吐息も、愛を囁く唇も、全部俺のものだ。 愛していると、いつかハルに正面から伝えたい。

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