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第283話Made me②

文化祭のオープニングで、引き続き今年もうちのクラスのPRはハルが担当した。 俺達の関係が校内に知れ渡っていることもあって体育館内はざわついていたが、一番悲鳴が上がったのはハルもメイド服を着るとサラッと最後に言ったときだった。 贔屓目で見なくとも学校一の美形が女装するとなれば俺との関係などさておき誰もが気になるだろう。今日は忙しくなりそうだ。 「来てあげましたよ先輩方!小笠原さんはなんて情けない格好してるんですか、ざまあみやがれ!」 「はいはいお帰りなさいませご主人様〜さっさと席について」 今日の文化祭校内発表一人目の客は朝比奈だった。その後ろに目立つオレンジ頭がひょっこりと顔を出している。 「お〜小笠原メイクまでしてるじゃん。完成度高いなぁ、一枚撮っていい?」 「いいよ、可愛く撮ってね」 調理室へ向かおうとしたところこいつらに足止めを喰らい調理器具を手にしたまま立ち止まる。 朝比奈はさっきからやけに俺のことをじろじろと見つめてきていた。 「なんだ朝比奈、早く選べよ」 「あの…双木先輩は着ないんですか、メイド服」 「あ?なんで俺が着なくちゃなんねえんだよ」 「はー…つまんな」 深くため息をつかれたから眉を寄せる。メイド服なんか着て後輩に面白がられたらたまったものではない。 「いいから早く選べ。俺は調理室行ってるから、じゃあな」 「あ、あとでお前らの花火大会の写真渡すね〜タダでいいよ」 「…花火大会の話僕の前ですんなって言っただろ」 「ごめんごめん、奢ってやるから許せって」 なんだかんだ朝比奈は滝川とも上手くいっているようで安心する。朝比奈の母からあんな話を聞いていたから滝川とも上手くいくとは思っていなかった。滝川のマイペースさと朝比奈の面倒見の良さがうまいこと噛み合ったのかもしれない。 休憩を挟みつつ調理室で料理を作って教室まで運んでいたが、うちのクラスは余程大盛況らしい。注文が次から次へと伝えられてくるけれど、聞くところによると殆どがハル目当ての客らしい。 調理は簡易的だから人手は足りているが、ホールの方は休憩がうまく回っているのだろうか。 『ねえ、誰か調理係の中でホールできる人いない?できれば男子!』 焦った様子の執事姿の女子がそう叫びながら調理室に駆け込んできた。どうやらホールのうちの一人が吹奏楽部の発表でどうしても抜けざるを得なくなってしまい、人手が足りないようだ。 『メイド服はあるんだけど女子が着るのはダメだし…けど結構細身だから着られる人限られるかも』 なるほど、吹奏楽部の彼はうちのクラスの中でも小柄な方だ。調理室をぐるりと見渡す限り数人は着られそうな者がいる。 『俺はちょっと、女装は流石に…』 『僕も接客とかはなぁ』 『双木くん!双木くんだったら着られるんじゃない?』 「はぁ?なんで俺なんだよ…俺だって女装なんか」 そこで俺はハッとする。その執事姿の女子は去年一緒に劇をやっていたメンバーのうちの一人だ。なんの役だったかまでは覚えていないが、他クラスの実行委員だったのを知っている。 『だって双木くん去年ジュリエットやって…あ、違うのごめん!』 別にジュリエットの正体を今更そこまでひた隠しにする必要はないのだが、今のはさすがに俺も困る。何が困るって、あの文化祭以来ジュリエットは謎の美少女としてこの学校で語り継がれているのだ。それでまた朝比奈のような気の毒な犠牲者が出てしまうと思うと気が気でない。 『嘘だろ、あれって双木だったのか…』 『俺は信じないぞ!けど…』 『確かに言われてみれば似てるような』 『じゃあもうこいつに頼むしかないじゃん』 「待て、何でそうなるんだよ!大体去年は会長が怪我したから仕方なく…」 勝手に話を進める外野を睨みつけると、その場にいた全員が俺に期待の眼差しを向けているのが分かった。 視線を泳がしても、皆助けてくれと言わんばかりにこちらを見つめてくる。その間も料理の注文が増加していき、ついに俺は折れてしまった。 「分かったよやりゃあいいんだろ!クソ…」 歓声に包まれ、空き教室で服を着替えてくるようにとメイド服を渡される。ウィッグは去年ジュリエットで使ったものがあるからそれを使い、軽くメイクもするらしい。 何が悲しくてまた女装なんてしなければならないのだろう。けれど皆が今困っているのは事実だし、比較的心の広いこのクラスの面子には恩がある。 あの男子が着ていた時は膝丈のスカートだったはずだ。あれくらいならまだ何とか履ける。 そう思っていたのだが、彼と俺には10センチ程の身長差があったためか俺が着ると膝上のミニスカートになってしまう。 脚は確かに細い方かもしれないが、さすがにこんな脚をさらけ出すのには勇気がいる。 「な、なあ、ちょっとこれ短すぎないか」 教室から顔だけを出しメイク担当の女子に声を掛けると、なにか思い出したように手を叩いてここで待っていろと言われた。 そわそわしたまま待っているとすぐにその女子が何かを手に持って戻ってくる。 『これ、野球部の人の衣装のセットだったんだけど筋肉キツすぎて入らなくて…誰も使ってなかったから使っていいと思う!』 その受け取ったものを見て俺は呆然としてしまう。しかしその女子の善意の心を踏みにじるわけにはいかず、渋々受け取ったそれを身につけることになるのだった。 大切な何かを失った気持ちになりながらヘアメイクを施され、女子に引きずられながら廊下に出ていった。

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