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第292話Acknowledge

文化祭二日目。一般公開でも女装姿を晒すことになるのは誠に遺憾であったが、今俺は全くの想定外であった騒動に巻き込まれそうになっている。 『双木勇也と小笠原遥人!いるんだろ!出てこいよ!』 他校の連中がうちの文化祭に乗り込んできてしまったのだ。しかも生憎ハルは副委員長として備品管理に駆り出されているからここには居合わせていない。 普段見慣れない数の不良生徒を見たクラスメイト達は完全に萎縮してしまっている。 これも自分のせいだと思うと申し訳なくて、腹を括ってそいつらの目の前まで歩いていった。 「小笠原遥人はここにいねぇ。用があるんだったら全員俺が相手してやるよ」 『てめぇ!……誰だよ』 それもそのはず。仁王立ちして他校生を睨みつけているものの、俺はツーサイドアップにメイド服に白ニーソという最悪の格好のままだ。 今になってそれが恥ずかしくなり、若干顔を赤らめながら俯いて返事をした。 「双木…勇也だ」 そいつらは一瞬静かになってから、全員驚愕の表情を露わにした。 『小笠原のオンナに成り下がったって、お前そういうことかよ!』 『随分似合ってるじゃねえか』 『やっぱりお前ユウコちゃんだったんだな』 大爆笑されている。無理もないがムカつくのと恥ずかしいのとでただ睨みつけるしかできなかった。 このままここで揉めていたらクラスメイトに迷惑がかかるし、一旦外にこいつらを出して全員俺が片付けるしかない。 「…小笠原が戻ってきてもこのことは言うなよ」 クラスメイトにこっそりそう伝え、不良共に向き直る。大した数じゃない、すぐにここへ来たことを後悔させてやる。 校舎裏まで来いと不良達を誘導し、メイドの後ろに着いていく不良というなんとも滑稽な集団ができあがってしまった。人の目を今更気にしている暇はないが、また変な噂をたてられたりしたら厄介だ。 「ここならいいだろ…まとめて相手してやるからかかって来い」 『随分となめられたもんだなぁ』 『この前の借りは返させてもらうぜ』 『せいぜい泣いて許しを乞え!』 この人数なら、そう思っていると後ろに気配を感じる。咄嗟に振り向けば後ろから数人が襲いかかってきていた。 反射的になんとか避けることは出来たが、人数が増えたとなるとそれが二、三人であったとしても少し厳しいものがある。 本格的に今回はまずいかもしれない。けれどこの前の借りを返すというのは俺だって同じことだ。 「後ろからなんて随分卑怯じゃねえか」 『卑怯も何もねぇよ、勝ちゃあいいんだからな』 『ユウコちゃん一人で大丈夫かぁ?』 しょうがないが一人で戦うしかない。多少怪我はするかもしれないがハルにバレるのだけが不安だ。多分怒る。いや、確実に怒る。 『一斉に行くぞ!』 それを合図に本当に一斉に襲いかかってくる。まずい、これは流石の俺でも全て避けきれない。 なんとか三人ほど交わした所で、また後ろから狙われてしまった。 間に合わないと思ったその時、後ろのそいつの顔に缶コーヒーがぶち当たった。 勿論俺が投げた訳では無い。誰かいるのだろうか。 振り返り、俺がそいつの名前を呼ぶ前に周りの何人かが先に反応をした。 『あ、朝比奈泰生…!』 『誰だ?』 『ほら、小笠原の後継だよ…』 そんな話題がちらほらと聞こえてくる。なるほど、こいつの名前はそれなりに知られているらしい。 『ど、どうして朝比奈さんが…』 その中でどうも動揺しているらしい二人組がいる。俺の知っている三人とはまた違った学校だ。どこかで見たことがあると思っていたが、どうやらショッピングモールで会ったあの二人のようだ。 そのときジュリエットの写真を見せられて問い詰められたのを思い出し冷や汗をかく。 「なにやってんだよ、お前らこんなとこで…」 『なんで朝比奈さんが双木勇也の肩持つんですか!やっぱりまた小笠原に…』 「断じて違う!僕はただ」 そう言って朝比奈が俺の方を見ると、その二人組も俺のことを見つめた。そして何か閃いたように目をカッと見開く。嫌な予感がする。 『お、お前…双木勇也…まさか、ジュリエット?!』 そいつがそう言うと周りもざわつき始める。何故揃いも揃って皆ジュリエットの存在を知っているのか。 『あの写真の…けど、確かに顔が』 『まじかよ…いやまぁ、可愛いけどよ』 『嘘だろ…男?』 「うるせぇ…てめぇら人の顔ジロジロ見てんじゃねえよ!」 そいつらに蹴りかかって何人かに当たるが、それを何故か朝比奈に止められる。 「なにすんだよ朝比奈、邪魔すんな!」 「馬鹿ですか!スカートでそんな足上げたら見えるでしょうが!!」 「男の下着見たってなんもねぇだろ!」 『なんだ…朝比奈泰生は双木にご乱心かぁ?』 『ずるいよなぁ、ユウコちゃん独り占めしようなんて』 『俺達もジュリエットと遊びたいから、一年坊主は指くわえて見とけよ』 手首を掴まれ振りほどこうとすると、親指で優しく手を撫でられる。その気持ち悪さに、俺はさっきまで感じていなかったはずの恐怖を感じ始めてしまった。

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