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第310話Redstar Lily②

「落ち着け聡志!そういう意味で言った訳では無いと言っているだろう!」 「お前までそうやって言うのかよ!皆嫌いだ!」 言い合う声だけでなく、恐らく枕か何かを投げつけたのであろう鈍い音が中から聞こえてきた。 ハルと顔を見合わせ、ため息をついてから仕方なくもう一度大きくノックをする。 「お前ら喧嘩してねぇで早く開けろ」 声を張り上げるとようやくそれが聞こえたのか中からの音はピタリと止んだ。 十数秒の沈黙の後、申し訳なさそうな表情をした真田が扉から顔を出した。 「ごめんな…そんなうるさかった?」 「隣にも迷惑だろうから喧嘩するなら静かにね?」 「いや、そもそもこんなとこで喧嘩すんなよ」 「悪かったって…俺たち二人になるとまた喧嘩しそうだからお前らも入ってきて」 中へ入ると、上杉が床に落ちた枕を拾い上げながら気まずそうにこちらへ視線を送ってくる。また何か上杉が真田に言ってしまったのだろうか。 「すまないな、二人とも…」 「今度は何があったんだよ」 「謙太が…」 「聡志が…」 お互いがそう言ったのはほぼ同時で、その瞬間真田は上杉を睨みつける。上杉の方はどこかやりづらそうにため息をついた。 「じゃあお前から先に言え、聡志」 「はあ?じゃあってなんだよ、じゃあって」 「お前らいちいち喧嘩すんな」 俺がそう言ってから先に口を開いたのは真田の方で、まるで小学生が教師に告げ口するみたいに上杉の方を指さしながら叫んだ。 「こいつが俺の夢のことバカにしてきた!」 「ちょっと待て、だから馬鹿にした訳では無いとさっきから…」 「しただろ!俺には絶対無理だって思ってんだろ!」 ふくれている真田の様子はもう小学生そのもののようであった。 「で、結局その聡志の夢ってのはなんなの」 ハルが心底面倒臭そうにそう聞くと、真田はひどく緊張していた時みたいに大きく息を吸って吐いた。 「その…政治家っていうか…そういう」 「え?」 吃りながらそう答えるが、俺もハルも固まってしまってそれ以上声が出ない。しっかりと聞こえていたにも関わらず思わず聞こえなかったかのようなリアクションを取ってしまった。 「お、お前らも俺には無理だって馬鹿にすんのかよ…いいよもう別に…!」 「まだ言ってねぇだろうが落ち着けよ」 「勇也、フォローになってない」 確かに頭ごなしになんでも否定するのは良くないのかもしれない。けれど今まで真田を見てきた身としてはその夢はあまりにも予想外であったとしか言い様がないのだ。 「わかってるよ俺だって…お前らが無理だって思うのも普通だし、俺バカだから」 「なんで急にそんなこと思ったの?そりゃいきなり言われたら謙太くんだって驚くでしょ」 「変えたいんだ…全部。自分も、この世の不条理みたいなもんもさ」 真田からこの世の不条理なんて言葉が出てくるとは思っていなかった。 きっかけは真田の父親のことだろうか。あの真田をここまで突き動かすほどの衝撃であったとしてもおかしくはない。 「けれど聡志、お前はまた何も知らず闇雲に言っているわけではあるまいな。それが如何に難しいことなのか…」 「謙太くんがそうやって言うから聡志も嫌な気持ちになるんじゃん。俺はいいと思うよ、夢なんて口に出すのは自由だし」 「貴様に気持ち云々の話をされると複雑な心持ちがするな…確かに今のは俺が悪かったのかもしれないが」 ハルの言葉は少し投げやりなようにも聞こえるけれど、決して真田の夢が実現不可能だとか否定的な意見のつもりはないのだろう。 「やってみないと分からないことだってあるよ。それには努力が付き物だけどね」 「遥人がまともな事言ってる…」 「努力が必ず報われるとは言い難いけど、まあ無駄ではないからさ。やるだけやってみなよ」 俺と上杉はついぽかんとしてしまう。一番ハルが言わなそうなことを言ったからだ。ハル自身も自分の夢があるからそうやって言いきれるのかもしれない。 「なんか、遥人に話してよかったかも…」 「なにそれ。ふつーのことでしょ?早くゲームしよ」 「なんとなく悔しい気がするのは何故なのだろう…」 「俺も分かるぞ、その気持ち…」 機嫌を直した真田がバッグからゲームを取り出し、少々気が抜けながらも俺達はそれを囲んだ。

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