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第312話Colon

真田達と合流してから、あまり人気の無い方へ向かって浜辺を歩いていく。 クラスメイトがダイビングや水上のアスレチックで遊ぶことに勤しんでいる横を通り過ぎて行くのは少々気が重かった。 「おっ、小さいカニがいる」 「聡志、迂闊に触るなよ」 「分かってるって…だってこれ食えないだろ」 「食えるか食えないかの問題じゃねえだろ…」 ハルと真田は随分はしゃいでいるようで、白い砂浜の上に放置されていた小さなバケツとスコップを使って何かを作り始めた。 「まるで子守りでもしているみたいだな」 「奇遇だな、俺も同じこと考えてた」 二人が砂の城を作り終え、その後上杉を砂に埋め始めた。特にすることもなかったから俺も加勢して上杉の上に砂を盛っていく。 「謙太くん図体でかいから埋めがいがあるね」 「褒められた気がしないな」 「もっと巨乳にしようぜ!」 「聡志、下品なことを言うな…というか、かなり暑いのだが」 そりゃあこの沖縄の炎天下の中砂に埋められれば暑いのは当たり前だ。それでもこの様子はあまりにもおかしくてつい笑ってしまう。 「上杉汗かきすぎだろ」 「これだけ暑ければ仕方が無いだろう…そろそろやめにしないか」 折角海に来たというのに海水浴を楽しむわけでもなく小さな子供のように皆して砂遊びに勤しんだ。 「そろそろ海はいろうぜ」 「聡志溺れないでね」 「なんで俺が泳げないって知ってんだよ」 「いやだって浮き輪持参してるし…」 海に足を入れたハルと真田に手招きされ、仕方なく俺も海に入っていく。 少し泳いでみて初めて海水がこんなに塩っぱいものなのだと知った。 この暑い中冷たい水に浸かると気持ちがいい。純粋にこんな風に修学旅行を楽しめているのが夢みたいだった。 「海水鼻に入った!いてぇ」 「俺もなんか…耳が」 「勇也大丈夫?見せて」 「え?俺の心配は?」 耳の中にハルの指が入ってきて思わず肩が跳ねる。ハルは知らん振りをしながら妖艶に微笑んでいたものだから、きっとわざとだったのだろう。 「お前達…いちゃつくのは一向に構わないのだがまず俺をここから出してくれないか」 少し離れた浜辺の方を振り返ると、砂に埋められたままの上杉が汗を流しながらそう訴えていた。 どうやら俺達は遊びに夢中になって上杉の存在を忘れていたらしい。 「悪い、完全に忘れてた」 「なんだよ自力で出てくればよかったのに」 「出てこられなかったから言っているのだろう…」 上杉を引っ張り出してまた浅瀬で駄弁っていると、そのうち集合時間となり皆集められた。 修学旅行の三日間は長いと思っていたけれど、思いの外楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうらしい。 「ねえ勇也…今夜、いい?」 「は?何、言って…」 帰りのバスの中。ハルがそう耳元で囁いて俺の肩に頭を載せたまま寝てしまった。そのせいで俺はホテルに着くまで一睡もできず、僅かに日に焼けてしまった肩を擦りながら悶々と一人考えるのだった。 別に嫌とかそういうわけじゃないし、そういうことが起こる可能性もゼロでないと分かっていた。けれど行為に至る直前に言われるよりもその前々から予告される方がずっと恥ずかしい。 心の準備など出来ないまま、ホテルの部屋で二人きりになってしまう。いい加減慣れていいはずなのに俺はまた緊張で胸が張り裂けそうになった。

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