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第7話Roof④
押し倒されたかと思うと、そのまま小笠原が俺の上に馬乗りになる。
殴り合いでこのような体勢になった事はあったが、明らかにそれとは違う雰囲気を醸し出していた。
本能的にこれはまずいと感じ、必死に逃げようとしたがピクリとも動かない。
この状況で何も出来ないのはプライドが許さなかった。
今まで誰にも負けたことがない、そのはずなのに、一人の男に圧倒的な力の差を見せつけられてしまったのだ。
「はぁ…やっぱり、手首にアザ出来ちゃったね。痛い?痛いよね?でもこんな怪我なんとでもないかな?」
「うっ…くそ…離せ…!!」
恍惚の表情を浮かべ、アザの上から指で圧力をかけてくる。痛みがじわじわと伝わってきて、その痛みに顔を歪めた。
「ずっとその顔が見たかった。白い肌にアザが映えて綺麗だね…」
その瞬間、背筋が凍った。こいつは、普通じゃない。
そして、アザに唇を押し当てて、ねっとりと舐められる。
「ひっ…気持ちわりぃことしてんじゃねえよ!!やめろ!!ぶっ殺すぞ!!」
「ぶっ殺すだって…おもしろいね。じゃあやってみろよ。お前にそんなこと出来ないけどな」
クラスで見せていた笑顔とは全く違う、笑っているのに冷たいその異様な気迫。
「おめでとう双木くん、今日で処女卒業だね?」
「は……?処女?何言ってんだ、お前、まさか、やめろよ、おい!!」
血の気が引いていくのが明確にわかった。
流石に身の危険を感じて隙をついて小笠原の下から抜け出す。
が、すぐに髪の毛を掴まれ、また馬乗りされてしまう。
「ってぇ…やめろ!!離せよ!!!」
「うるせえな、いいの?今授業中、みんなに聞こえるんだけど」
舌打ちすると、髪の毛を引っ張る力を強めて無理やり顔を近づかされる。
そして次の瞬間、唇が触れ合ったかと思うと、すぐにあいつの舌が唇を割って侵入してきた。
「んっ…んん!!!!っはぁ、や、めろ!!」
息をするのに精一杯だったし、この体制は腹筋が死ぬほど辛い。
なによりも男の舌が入り込んできたのが不快以外の何ものでもなかった。それでも髪を掴んだまま、強引にその行為を続けてくる。
「ん…んぅ…!!はぁ…っ…ん」
「ん…大人しくなってきたね、もしかしてキスするのも初めてだったかな?」
〝キス〟というその行為の名前を言われたことで、途端に羞恥がこみ上げてくる。
確かに言われたとおり、誰ともキスなんてしたこと無かった。
よりによって男としてしまったのだ。あいつの舌が上顎や歯列をゆっくりとなぞり、口内をかき回してくるのは気持ち悪さしかなかったはずなのに、迂闊にも気持ちよくなってきてしまったのは自尊心をひどく傷つけられた。
「顔、赤いけど酸欠?それとも気持ちよかったのかな?どっちにしても可愛いね。めちゃくちゃにしてやりたいよ」
「ふざ、けんな…死ね!!」
「口が悪いなぁ…あー、ちょっと抑えるの面倒だから、縛らせてもらうよ」
そう言いながら、何故持っているのかわからないがポケットから紐のようなものを取り出すと、俺の両手首と屋上の柵を結びつけてしまった。
これで両腕の自由がきかなくなる。
逃げる術を失ったも同然だった。
「楽しいのは、まだまだこれからでしょ?」
嫌味ったらしく、にっこり微笑んだ。
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