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第21話Bruise
思い出したくない記憶。もう忘れたはずの父親の声がする。
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「父ちゃん、お酒飲むのやめてよ」
『ん〜?どうしてだ?』
「だって、すごい臭いよ。どうして母ちゃんいる時は飲まないの?」
『お母さんはお酒が嫌いなんだよ。お父さんも、あんまり強くはないんだけどな』
「へぇー…息、臭いからかけるなよな!」
『ど〜だ〜酒くさいだろ〜』
「やめろってば〜」
『はっはっは』
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「ねぇ…父ちゃん、どうしたの?変だよ?」
『変じゃないよ…ちょっと飲みすぎただけだ』
「ねぇ、なんで掴むの、痛いよ」
『お前…母さんにそっくりだなぁ…女の子みたいな顔だ』
「違うよ、俺男だよ。…父ちゃんなんか怖いよ」
『怖くない…大丈夫…お前は黙ってればいいよ』
「やだ、やめろよ!変なとこ触らないで!」
『うるせぇ!!!俺の言うことが聞けねぇのかこのクソガキ!!!』
「いたいっ!ごめんなさい…ごめんなさい!痛い…」
『…男だってな、ずっといじってたら感じてくるんだってよ…お前も女の子みたいになるんだよ…ほら』
「あっ…!やだ、いやだぁ!」
『言うこと聞かねぇと打つぞ!』
「っ…ごめんなさい!許して…」
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『…ほら、お母さんが出かけたよ。どうするんだっけ?』
「……ねぇ、もうやめようよ…」
『何言ってるんだ。俺だって別に犯してる訳じゃねえ。ちょっと遊んでるだけだって』
「っ……」
『そうそう、いい子だ…』
「っあ…んんっ…くすぐったいよ…」
『大丈夫、すぐによくなるよ…感じてるんだろう。淫乱だな…』
「くすぐったいってば…インランってなに…っあっ待ってよ、何でそこ触ってんだよ!」
『うるせぇなぁ…精通はまだか…』
「せーつーって…な、に…それ…」
『ほら、お父さんの、おっきくなってきただろ』
「っ…嫌だよ、気持ち悪い!」
『まだ言うか!俺は父親の愛情でこうしてやってんだよ!いいか、お前が女みたいな顔して、力も弱いからこうなるんだ!悔しかったら強くなってみろ!!はやく全部脱げ!!』
「やだっ、父ちゃん!やめて!いやだ!やめてよ、誰か!!」
『あんた…なに…やってんの…?』
『お、お前どうして!出かけたんじゃ…』
『い、いや…!今すぐ勇也から離れて!!!!汚らしい!!!最低!!この、変態…!!』
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『いい?勇也は将来立派な大人になるのよ。あんな犯罪者みたいにはならないでね?大丈夫、お母さんがいっぱい働くから。私立には行かせてあげられないけど、公立でもたくさん勉強すればきっといい結果を残せるから』
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『勇也…ちょっとなによその髪型!変な子達とつるむのはやめてちょうだい。勉強こそしっかりしてたとしても、そんなんじゃダメな人間になってしまうでしょ?お願いよ、お母さんのためだと思って!』
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『高校はここに行きなさい。え?なによ…どうしてお母さんの言うことが聞けないの!!!!あの男のせい…?許せない…!ちゃんとしてよ勇也!お母さんをがっかりさせないで!』
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『酒飲むのやめろって?どの口が言ってるんだ!!不良息子の分際で!!!どうせあの男にされたことも喜んでやってたんでしょ!気持ち悪い!お前なんて生まれて来なければ良かったんだ!!…ぁ、ごめんね、勇也、違うのよ…お願い、お母さんの言う通りにして…お母さん、あなたのこと愛してるのよ…』
俺の目を見て、俺自身の存在を『愛して』欲しかったのかもしれない。
俺の存在は〝体〟や〝息子〟の役割だけを担ったオマケじゃない。生まれた意味を、誰かにずっと肯定してほしかった。
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