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第22話Gentleness

嫌な記憶に蝕まれる。忘れたかったこと。最近はもうなくなったと思っていたのに。気持ち悪くて、吐き気がする。そういえば中学の時も思い出してしまった日は調子が悪くて、仲間に迷惑をかけていたようなきがする。いつになったら消えてくれるのだろう、いつになったら考えなくて済むのだろう。周りに仲間がいてもいなくても、どこか孤独を感じてしまうのはこの記憶のせいなのかもしれない。 「…くん、双木くん?」 やけに近くで自分の前を呼ぶ声がする。 次第に意識がはっきりしてきた。外気に触れている感覚があるからまだ屋上にいるのだろうか。 でもそれにしては硬い床の感覚がない。 瞼を開けると、ぼやけていてよく分からなかった。何度か瞬きすると至近距離に小笠原の顔があるのがわかる。 「う、わっ!お前まだいたのかよ!」 「うわびっくりした〜急に大きな声出さないでよ」 身じろぐと、バランスが崩れそうになって抱きとめられる。そのときようやく気がついた。胡座をかいて座っている小笠原の上に自分がいて、抱きかかえられていたことに。 外は少し暗くなっていた。グラウンドからの掛け声やブラスバンドの音が聞こえてくるから、放課後になっていたのだろう。 「…俺、いつの間に…」 「ひとりで帰れるもん!って双木くんが意地張って帰ろうとしたら、そのまま腰が抜けちゃって気失ってたみたいだよ。保健室行こうかどうかも迷ったけど、双木くんが俺のこと離してくれないから…」 「ぜってぇそんな言い方してねぇ…!」 「怒んなってば。双木くんのこと起こそうと思ったら、しがみついて離さなくなったのは本当だよ」 にやにやしながらそう言ってくるが、本当なのかもしれない。だとしたら死ぬほど情けない。絶対に殺すと言い放った相手にしがみついてそのまま気を失ったのか。 「今…時間…」 「んー、倒れた時に6限終わって…2時間くらい経ったから、そろそろ6時近いんじゃない?」 「6時…そんなに…」 「あ、そうそう。その間に、色々確認取らせてみたけど大丈夫そうだったよ」 スマートフォンの画面を見ながらそういうので、何のことかわからず首を傾げる。 「あ…?何がだよ」 「双木くんのクラスの。見られたかもって言ってたでしょ。まぁ俺は別に見られてても構わなかったんだけど…該当する席の生徒に何人か詮索をいれたけど、特に知ってる様子では無かったって。無口な奴だったみたいだし、言いふらす感じもないみたい。よかったね?双木くんが淫乱だってバレなくて」 「そう…か…」 いちいち嫌味を言ってくるのが気に障るが、安心して体の力がふっと抜けた。本当によかった。いや、今日起きたことに感じてはなにひとつとして良くないのだが。 それにしても、一体誰に連絡を取っているんだ? この学校には小笠原の舎弟がいるということだろうか。 「…安心した?……あの、俺的にはくっつけて嬉しいからいいんだけど、ちょっと足痺れてきたから…」 「え、あ、や、わりぃ…」 はっとして小笠原の上から退き、立ち上がろうとするが、またすぐに腰が抜けて抱きかかえられる。恥ずかしくて押しのけようとするが離す兆しはない。どちらにせよ、一人で立つのもままならないのだが。喧嘩をしていた頃は足を折ったときも引きずって歩くことができたというのに、あんなことをされて腰が立たないのが悔しくてたまらなかった。 「無理しないで…まだ痛いでしょ。ごめんね、男相手だと加減が分からなくてさ。でも、弱ってる双木くんが見れてラッキーかも」 「いい…もう、帰る」 「肩貸すから、俺のせいだし…ほら」 「いいって…」 「家まで徒歩なんだから、流石に無理あるって。近いからって無理して歩けなくなったらどうすんの。」 「いや、なんでお前俺の家知ってるんだよ…」 「いや、引越しするときに一応確かめておかないとなって思って…」 「引越し…?誰が」 「え、双木くんだけど」 話についていけない。何を言っているんだこいつは。 「おい、どういう事だよ。なんの話してるんだお前」 「あ、言ってなかったか。ごめんごめん。双木くんの家、そろそろ限界でしょ?アパートの…」 「いや、だからなんでてめぇが知ってんだよ!」 「あ…そうだ、準備始めたって連絡があったから荷造りとかもうしてるかもな…うん。やっぱり今日のうちに来てもらおう」 「話を聞け!っくそ…」 本当にこいつには調子を狂わされる。 話の筋が全く見えない。何をどうしたら俺が引っ越すことになるんだ。…しかし、母親と住んでいた今のアパートで暮らしていくには経済的に苦しいのは確かだった。なんでそれをこいつが知っているのかは知らないが。 「ってことで双木くん、今日はうちに来て」 「いやどういう事だよ」 「え〜説明するのめんどくさいんだけど。俺の家着いてからでいいでしょ?すぐ近くだし」 「は?お前…五中出身ならこの辺りじゃねえだろ」 「一人暮らししてんの。もうめんどくさいからとりあえず行くよ」 そう言って膝の下に手を入れて抱きあげようとするので、それを必死に拒否する。 仕方が無いので肩を借りて、屋上から降りていった。この先どうなるのか全く検討もつかない…

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