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第25話Scoured
とにかく、今日は疲れた。
まだ頭が追いつかないことも多いが、風呂にはいってすぐに寝よう。
制服を脱ぎ、ふと洗面台の鏡を見る。
「ん…?なんだこれ」
上の服をすべて脱ぐと、首から鎖骨あたりにかけて内出血のような跡があった。喧嘩でできたアザ…ではない。思い出そうとすると、屋上であったことが浮かぶ。そういえば、最後のあたりでやけに唇を押し付けてきたような…。
洗面台に手をついて、鏡を覗き込みそれを意味もなく触ってみる。特に痛みはない。それよりも手首の痣のほうが痛みも傷もよく目立つ。隠すか何かしないと見ているだけでも痛々しい。
すると、さっき閉めたドアがいきなり開けられた。
「う、わっなんで入ってくるんだよ!」
「あ、キスマークバレちゃった?」
キスマーク…そう言われてようやく意味がわかった。顔が熱くなってくる。鏡に映った自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。そのとき、自分がこんなにわかりやすく赤面するのかと知ってしまいさらに恥ずかしくなる。
「や…だから、入ってくるなよ…」
「恥ずかしがるなって。男同士なんだしいいでしょ?それにちゃんとケツの中掻き出さないとお腹痛くなるらしいよ、調べた。」
「いや、なんもよくねぇし…っつーかこれ、どうするんだよ!!」
男同士だからなおさら良くない。いや、相手がお前だから良くない。小笠原に言われて、まだ自分の中に小笠原が出したものが残っているのかと思うと不快感を覚えた。
「キスマーク?いいじゃん、双木くんは俺の物っていう印。あ、制服からも見えちゃうかもね…?」
「…どうせわざとだろ」
「どうかなー?明日、俺は夏服で登校するけどどうする?今年は梅雨明け遅かったけど…明日からはもう夏の暑さだって、天気予報で言ってたよ」
「っいい…学ランで」
「だって25度だよ、いいの?あ、でも双木くんのパーカーとか明日は着れないからね、これ洗うし。まだ荷物届いてないから」
「は?同じの着るからいいって」
「ダメだよ、屋上で寝転んだりしたし汗いっぱいかいたでしょ?」
その字面だけ聞くと遊んでいたようにしか聞こえない、語弊があるだろ。
「…別にそれくらい」
「ダメ。洗うよ」
そういうと小笠原は、そこにあった洗濯機に俺が脱いだ服と自分のワイシャツなども突っ込んでいく。それを慌てて制止する。
「おい、洗うときは色ついてるものとちゃんとわけろよ!お前のワイシャツに色移りしたらどうすんだよ!あっ…違うそうじゃなくて!」
「わかったわかった。喉潰れるからあんまり大きな声ださないほうがいいよ。」
ネットに服を無造作に分けて、洗剤を入れ洗濯機を回した。いや、明日何着ていけばいいんだよ。
「洗濯機も最近は自分で回せるようになったからね!何もできないわけじゃないから!」
「いや普通だろ…」
「…明日は俺のワイシャツ貸すよ。ほら、早く風呂入っちゃおう」
「お前とは入らねえって」
すると小笠原は、俺のベルトへと手を伸ばし外そうとする。その手を、自分で脱ぐからいいと払った。ズボンを脱いでから、下着に手をかけるがどうもこいつの前では脱げない。
小笠原はいつの間にかすべて脱いでいる。体格の差を思い知らされるようでまた脱ぐのが億劫になった。
「早く脱ぎなよ。ほら」
「あ、待っ…」
あっけなく下着を下ろされたかと思うと、即座に膝の下に手を入れられ、抱き上げられた。そして足から下着を抜かれる。俗にいう〝お姫様抱っこ〟の形だった。
「はいはい、早く入りましょうね〜」
「っおい!離せ!!」
ジタバタと暴れるが全く意味がなく、そのまま浴室まで運ばれる。やっと降ろされたかとおもうと、いきなりシャワーをかけられた。
「やめっ…ろよ!」
「ちょっとは大人しくなるかなと思って。頭洗ってあげるから椅子座ってね」
「自分で洗うって…!」
「無理しないで。俺が洗うって言ってんの。口ごたえしないで。」
「っ…」
その冷たい目は、何も言わせないとでもいうように、俺の口から言葉を奪った。
椅子に座らされ、じっとしているとシャンプーをつけて俺の頭を洗い始める。
目に入ると痛いので目を瞑って終わるのを待つ。
人に頭を洗われるなんてことは本当に小さい時以来だ。この状況で気分がいいとは言えないが、少し心地よかった。
「痒いところない?」
「ん…」
「流すから目瞑ってね。このあとトリートメントするから。」
「トリートメント…?」
「えっトリートメントとかリンスしないの?それでよくあんなに髪サラサラになるね…体質?髪質?」
特に自分の髪がどうとかは考えたことがなかったが、トリートメントなどしたことが無いしブリーチをしてもそこまで髪は傷まない。小笠原の言う通りそういう髪質なのだろうか。
「せっかく綺麗なんだから、時々トリートメントしなよ。新しいの買って置いておくから。シャンプーは今まで双木くんが使ってたやつ、明日までには用意しておくから。」
「別になんでもいいけど…」
「…双木くんが俺と同じ匂いって言うのも興奮するけど、やっぱり双木くんには双木くんの匂いがあるから…俺はそれが好きだし。本当は洗濯物も分けたいところだけど面倒だからね。シャンプーとボディソープだけ…」
ここまでのこだわりは正直めちゃくちゃ気持ち悪い。別に何を使ったって匂いなんてさほど気にしないだろうに。
トリートメントとやらを流し終えると、小笠原も頭を洗い始めた。その間に自分の体を洗う。
「それ、俺にも貸して」
小笠原に泡立てたネットを渡すと、自分の体を洗ったかと思うと、俺の背中に触れてきた。
「ひっ…なんだよ、俺もう洗ったって…」
「背中、自分じゃ洗えないでしょ」
そう言って手のひらで撫でるように背中を洗う。他人の手で洗われるとくすぐったくて思わず身を捩ってしまう。
「じっとして。」
そう耳元で囁くと、明らかに背中ではなく胸のあたりに手を這わせてくる。
逃げようと思ったが時すでに遅し、腰をホールドされてしまった。
「てめぇ…っ変なことするなって」
「体洗ってるだけでしょ?」
「いっ…やだ…あっ」
指が乳首を掠めて声が漏れる。
その先端を捏ねるようにして抓られた。
刺激を与えられたそこは簡単に硬くなっていった。
「双木くん…ここ弱いよね…男でも最初からそんなに感じるもなの?」
「やっ…あっ…っ!」
そう言われたとき、頭の中にあの記憶が蘇ってくる。忌々しい、父親だったもののトラウマが。それを思い出してしまうと、体が僅かに震えた。与えられるその刺激が恐怖に近いものになる。
「…やだ…いやだ…やめて…」
「…双木くん?どうしたの?」
「いやだっ!…あっ、いやっ…」
小笠原が手を止めたにも関わらず、体の震えが止まらない。抑えようとも思ったが、脳裏にあのことが貼り付いて離れない。
椅子からずり落ちて床に打ち付けられるが、今は恐怖で立ち上がることも出来なかった。
忘れようとすればするほど鮮明に蘇る。
「双木くん…大丈夫?そんなに怖かった?」
「やだ…こわい…やめて…父ちゃ…」
すると、小笠原は目を見開いた。何かを察したような顔をして、また俺に近づいてくる。
「大丈夫だよ。俺はきみのお父さんじゃない。大丈夫だから、俺のことだけ考えて。」
「やぁっ…いや…」
小笠原は、俺を抱き起こしてぎゅっと抱きしめた。俺が暴れると、それを抑えるように更に抱きしめる力を強くする。息が上手くできなくて過呼吸になる。小笠原は抱きしめたまま、「ゆっくり息はいて」と指示を出しながら俺の呼吸が整うのを待った。
落ち着いてくると、意識がはっきりしてくる。
相手がこいつとはいえ、我を失ってしまったことに罪悪感を覚えた。
「…ごめ…俺…俺…」
「大丈夫だよ、今は何も話さなくていいから。…俺さ、自分勝手だから…双木くんが俺以外の奴のせいで苦しんでるのは悲しい。自分に怯えてる双木くんは可愛いけど、そうじゃなかったら辛い。」
確かに、内容はとても最低で自分勝手だった。でも、その優しい物言いに僅かに心が安らいだ。
「だから、今からは俺以外のこと全部忘れて」
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