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第29話Aphrodisiac
学校へ行くが、特に昨日のことに気づいている生徒がいる訳ではなさそうだった。耳にした噂といえば、俺と小笠原が喧嘩したのではないかということくらいだ。正直、心底安心した。
教室に入ると、教室内の話し声が止まる。
俺が教室に入ってきた時はいつもこうなる、そしてすぐにまた周りは騒がしくなった。
しかし、いつもとは違いクラスの中でも少し騒がしい部類の男子生徒が、面白半分、怖いもの見たさという感じでこちらに話しかけてきた。
「双木くんって、遥人と仲いいの?」
「遥人……?あぁ、小笠原…」
「そうそう、昨日遥人が双木くんを保健室に連れていったって聞いたんだけど、どうしたの?怪我?」
あぁ、そういうことになっているのか。
しかしあいつと仲がいいと思われたくない。
「んなことどうでもいいだろ…それとあいつのことは何も知らねぇ、仲良くもねぇ」
睨みつけるようにそいつのことを見上げる。
すると引きつった表情をして後ずさった。
「あー…そうなんだ…いや、ごめんな、怒ってる?」
「……別に」
その男子生徒を、周りの同じグループの生徒が小声で「おい、真田そのへんにしとけよ」と止めようとする。そいつはサナダというらしい。クラスメイトと特に関わる気がなかったし名前も知らなかった。
女子はこのやりとりを遠くから見て内輪でなにやら盛り上がっているようだった。
「あ、でも双木くん、俺ー」
真田が話そうとしたときにホームルームの始業を知らせるチャイムが鳴った。生徒は散り散りに自分の席へと戻っていき、真田もなにか言いたげに席に座る。今気づいたが、隣の席だったようだ。
何気なく席替え毎に配られる座席表に目を通す。
隣の席は『真田 聡志』騒がしいやつ、ということで何とか認識した。入口付近の近くの、剣道部のあいつの席には『上杉 謙太』と書かれていた。
誰かと馴れ合う気がある訳では無いが一応把握しておく。
朝のホームルームが終わると、また教室内が賑やかになる。今日は移動教室もないし、自分の席から離れないでいようとうつ伏せになる。動いたところで腰が痛むのでちょうど良かった。
教室の外から聞き覚えのある声がするので耳を傾けると、やはり小笠原のものだった。
話している相手は恐らくさっきの真田だろう。
二人は知り合いだったのか。
『なぁ、遥人〜俺も、双木くんと仲良くなれると思う?』
『双木くん人見知りだからね。でも、いい子だし、具合悪そうだったらすぐに保健室行くように言ってあげて。今、調子良くないから』
そんな会話が聞こえてくる。真田の声はでかいからここまですぐ届くし、小笠原の声は聞き分けやすく、何と言っているか大抵予想がついてしまうので二人の会話は丸聞こえだった。
できればクラスメイトとは関わりたくないのだが、逆にそれを分かっていて小笠原はやっているのだろうか。
予鈴が鳴ると、また教室内の生徒は授業の準備を初めて静まっていく。今日は何事も無く、すべての授業に出られるだろうと思っていた。
……………
2限目あたりから、暑さが気になってくるようになった。学ランを脱ぎたかったが、手首の傷が他人に見えてしまうのは忍びないし、包帯をつけた所で物騒に見えるのは変わりない。それに小笠原のワイシャツはサイズが大きいので、学ランを脱ぐと少し不格好になってしまうだろう。
窓側の席は日差しが差し込んできてさらに暑い。
クーラーはなぜか集中管理のせいでついていない。暑さのせいで授業の内容もまともに聞き取れなくなってきた。
3限になると、炎天下にいるのかとおもうほど暑く感じた。暑いというよりは、体の内側から熱がこみ上げてくる感覚で、もしかしたら風邪をひいたのかもしれないと思ったが、そういうでもなさそうだ。3限が終わる頃には熱さでおかしくなりそうで、開けられた窓から吹き込む僅かな風でどうにか熱さを沈めようとした。
4限が始まると、もう授業どころでは無い。今度は熱と共に、なんとも言えないもどかしさがあった。体がビクビクと震え、顔まで熱くなってくる。4限の授業は現国であったせいか、周りの生徒は何人か眠っていた。自分も寝てしまおうかと思ったが、眠れないほどに体が疼いてくる。
必死に抑えようとしても息が荒くなってしまい、下を向いてなんとか耐えようとした。
時計を見るとまだ授業が始まって5分。あと45分も耐えなければいけない。
このときにようやく気づき始めた。あいつに、小笠原に薬を盛られたのだと。どのタイミングなのかを考えてみたが、よく思い返せば何度か昨日届いたアレの話をしていた。恐らくそれが今朝の得体の知れないドリンクに入っていたのだろう。
気づけなかった悔しさが募る。
しかしそれが媚薬だと分かると、体はさらに反応を加速させる。服が擦れるだけでも感じてしまって、俺のものは完全に勃ってしまった。勃つと余計に服が擦れやすくなる。鎮めたいが、その為には一回抜くしかない。だがこの状況で教室を抜けるわけにもいかない。誰かにこの状況を見られてしまったら…それこそ変態だと思われてしまう。ゾクゾクする感覚が背中にあった。
ズボン越しにでも分かるようになってしまったそれは、勝手に感じて先走りをすこし制服のズボンに染み込ませてしまった。
息が上がってきて、少し動くだけでも刺激となってしまう。思わず変な吐息がもれそうになる。
「っ……はぁっ…んっ」
もしかしたら隣の席には今の声が聞こえてしまったかもしれないと思い隣を見ると、思い切り真田と目が合ってしまう。何故か、その瞬間また体がビクッと跳ねる。この姿を見られたことが恥ずかしくて、思わず顔を伏せる。
こいつはきっとうるさいから、皆に言いふらしてしまう。嫌だ、好奇と嫌悪の目を向けられるのは。止んでくれない快感に耐えながら下を向き、
もういっそ殺してくれと思う。
すると、真田が急に手を挙げた。
「先生、双木くんが具合悪いから保健室行きたいみたいっす」
その言葉に驚いた。起きている生徒の注目を浴びるのは嫌だったが、ここで救われるかもしれない。
「あぁ、確かに苦しそうだね、行ってきなさい」
定年間近の現国教師がそう告げる。真田はこっそりと俺に話しかけてきた。
「顔、赤いし熱あるんじゃね?行ってこいよ。次、昼休みだし大丈夫だと思う」
「ぁ…っわ、わりぃ……」
声を出すのも辛かったが、ここで礼を言わない訳にはいかない。真田は、純粋に俺が具合が悪いと思ってくれたようだ。うるさい奴だが、悪いやつでもなさそうだな、と思った。
生徒が板書に集中している間にそそくさと教室をでる。若干前かがみになっていたが、もうそこはビクビクと脈をうち限界だった。刺激を求めている。保健室で寝ようと思ったが、ふと今朝の小笠原と真田の会話を思い出す。
そうか、あいつは全てわかっていたのか。
小笠原の策略にはのらない。保健室に行けばきっと小笠原が待ち構えている。自分でこの疼きをどうにかするため、保健室には行かず、いちばん人の来ない校舎の4階のトイレに行くことにした。
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