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第31話Aphrodisiac③
小笠原が、俺の下着を引っ張り中をのぞき込む。
見られたくなくて避けようとするが、よけられるはずもなく、じっと凝視されてしまった。
「あーあ…ベトベトになっちゃったねぇ…」
「やっ…あ…見ん…なっ」
「見るなって言われると見たくなるのが人間の性じゃない?」
そう言って引っ張っていた手を離すと、パチンと音を立てて肌に当たり、体が震えた。
一度出すと、少しだけ楽になり思考が明瞭になってきた。
それと共につい先程のやり取りを思い出していく。いくら薬を使われたとはいえ、あまりにもなりふり構わない言動をしてしまった。
頭の中でも触ってほしいと思ってしまった。今思えばそんなことは、平常心なら絶対に考えないはずだ。言い逃れのできない自分の失態、痴態は己の自尊心を打ち砕く。昨日受けた恥辱が、人生で最大の屈辱だと思っていたが違ったようだった。
こいつはどこまでもやる、俺のことを貶めて楽しんでいるのだ。手首を傷つけたことを謝って優しくしたかと思えば、今度はベルトできつく拘束される。擦り傷はできないものの、傷の上から締め付けられ痛みは倍増している。先程は痛みよりも快感が先行してしまったが、その様子すら楽しそうに眺めている。
駄目だ、嫌だ、屈したくない。
このままではまた呑み込まれてしまう。
薬のせいか、まだ疼きは収まっていない。今逃げればまだなんとかなる。これ以上小笠原のあの目で見つめられてしまうと、俺はおかしくなってしまう。逃げたいのに、男にこんなことをされるのは本当に嫌で仕方が無いのに、体はいうことを聞いてくれない。
逃げようと体をうごかそうとすると、下半身にまた微弱な刺激が加えられた。
「なに?逃げようとしてる?」
「んっ…んん…も、いいから…っ」
「何がいいの?今双木くんの意思は関係ないよ。」
「…っもう、いいだろっ…離せよ」
「せっかく素直になったと思ったのにね…でも、こっちはどうかな?ほんとうに離してほしい?」
少し刺激を強めて、まだぐちょぐちょの下着の上からそれを擦る。自分の精液が潤滑剤の役割を果たして、気持ちが悪いのに気持ちがいい。
声を抑えようにも唇以外に噛み締めるものがなく、呻くように声を上げる。
徐々にそれは芯を持ち、すぐに硬くなった。
抵抗の意味をこめて睨みつけるが、小笠原は嬉しそうに微笑んでいた。
「ううっ…んっ…ん!あっ…ん…くそ…ほんと、に殺すっ…」
「何回も聞いたって、そのセリフ。もうここ硬くなってるのに睨みつけちゃって、可愛いね。顔真っ赤だし、目潤んでるよ?」
「っ!…言う、なっ…あっ、やめっ…」
「…ねぇ、俺がどうしてこんなことするかわかる?」
「ん…っそ、なの…知らなっ…」
「…双木くん、お父さんのこと怖いんでしょ?忘れさせるとかは、難しいからさ…」
「…っは…?なに、を…」
小笠原の手がピタリと止まる。
息を弾ませたまま、小笠原のことを見据える。
ぽつりぽつりと、零すようにあいつは呟きはじめた。
「恐怖でも、快感でもなんでもいいから…俺も双木くんに忘れられないくらいの記憶、植え付けたいんだよね…」
「…!そんなの…もう、充分だろ…っ」
「だめだよ…だめなんだよ!俺はこんなに好きなのに…双木くんにもっと特別に思ってほしいから…」
狂ってる。好きな相手に特別な感情を持ってもらえるならなんでもいいから、新たなトラウマを植え付けようというのか。そんなのはおかしい。どうしてお前がそこまで苦しそうにそんなことを言わなければならないのか。
小笠原に殺意はもちろんある。それでも時に許してしまいそうになるのは、俺がこいつに何かの気持ちを持っているからではないのか。わからない、何も。お前のことも俺はわからない、お前のことなんか大嫌いだ。それなのに…
俺も小笠原も、まるで心の中に二つ人格があるかのようだった。天邪鬼で、自分の心を自分でどうすればいいのか分かっていない。
「俺は、双木くんが苦しんでいる顔を見るのが好き。苦痛に顔を歪めるのが好き。俺の事をどんなに嫌っても、無理矢理犯して自分の心が満たせれば、それで良かった!なのに…」
「っ………」
小笠原は、片手で顔を覆って苦しそうな顔をする。自分勝手で、ものすごく情緒不安定な奴だ。俺もどうしていいのか分からない。呼吸はまだ乱れているし、体は疼くのに、こいつの話に何故か俺まで苦しくなる。
「どうして…笑顔を見てみたいとか、一緒にいたいとか、自分のことも好きになって欲しいとか…そうやって思うのか、わかんねぇんだよ…!愛してるかもって…昨日勢いで言ったけど、まともに愛されたこともないから普通の愛し方なんて…わからない」
「お前………あっ」
「ごめんね…俺はとにかくきみの事を…
めちゃくちゃにしてやりたい」
再び熱を持ったそれに手を添えられ、激しく責め立てられる。とにかく苦しい、何が苦しいのかももうわからない。再び迫ってきた快感の波に体が震えた。
「あっあ…!んっあぁっ、あっ…!」
「声…聞こえちゃうかもね…いいよ、もっと出して…」
「やっ、あっあぁっ!んっ…も、むりっ」
「もう出そう?」
首を横に振って強く否定する。しかし薬のせいで敏感になっているからか、本当にもう達してしまいそうだった。また出したら楽になれるという諦めの心と、もうこいつには屈したくないという心が衝突していた。
小笠原の手の動きが早くなり、射精の予兆がもうそこまで来ていた。そろそろ限界を感じる。
「はぁっ…やっあっ…んんっ…!あ、むり、やだっあっ…!」
「やっぱりもう限界かな?またパンツの中に出しちゃう?」
「いや、だっあっ…んっんん…っうっ…!」
「そろそろだね…」
ああ、またこいつの目の前で呆気なく達してしまう…そう思ったとき、小笠原はパッと手を離した。
あと少しでも刺激があれば出そうだったのに、それを急に止められたから、もどかしさと気持ちよさの余韻で腰が揺れる。
きっとまたこちらから強請るまで出させないつもりだろう。しかしこれ以上痴態を晒すわけにはいかない。屈してしまったら、受け入れてしまったら、俺も小笠原も泥沼にはまってしまう。
「イかせてほしい?」
「いや…っだ…」
首を横に振り、否定した。本当はもうキツかったし、薬の効果で更に体が熱くなっていたのでイキたくてしょうがなかった。それでもまた言いなりになって快感を貪ってはならないと、歯を食いしばって理性を保つ。
「あぁ…いいね…そうだよ、簡単に俺のものになってしまうようなつまらない人間じゃないよね…きみは」
そう言って頬を撫でられると、背筋がゾクッとした。狂気に満ちた恍惚の表情、本当に何を考えているのかわからない。でも怯んでは駄目だ。屈するものかと、小笠原を睨みつけた。
「いい顔…その顔を歪ませて、汚したらどれくらいの屈辱を味わうかな…」
「…っくそ…いい加減に…」
「手の拘束は取ってあげる。」
「は…?なんっ…で…」
小笠原が個室の端まで移動して手についたベルトを取ると、大分体の自由がきくようになった。薬が効いていれば俺は逃げないと踏んだのか?しかし抵抗はできる間にしておかなければこの機会はもう掴めない。ベルトが取られたと同時に床に落ちたズボンを広い、鍵を開けて外に出た。
「はは、俺の思う壺なんだよなぁ…」
そう聞こえたかと思うと、後ろから思い切り背中に蹴りを入れられた。予期してなかったが、咄嗟の判断で床に手をついて倒れ込んだ。かなりの威力だがこれでも手加減をしているようだった。なるべくダメージを受けないように倒れたつもりだが、背中の痛みですぐに起き上がることが出来ない。
「っく…!」
また逃げようとすると手首の上に足を置かれ、少し体重をかけられる。あまりの痛みに呻き声があがった。
「情けねぇ格好だな、双木くん?」
「いっ…!うぅっ…!やめ、ろ…!」
「力の差、わかるだろ。仲間が居ないと本領発揮できないんだもんなぁ?…悔しいか?」
「くっ…そ…!!」
仲間は買収された、この男に。俺が信頼していたあいつらはいとも簡単に俺のことを裏切ったのだ。今の状況も、その事実も、何もかもが辛い。
小笠原は足を離すと、俺の腕を掴んで無理矢理体を起こさせた。膝立ちになると、上に着ていた学ランを脱がされ、それで手首を後ろに縛った。
そして頭を掴まれ、目の前には小笠原の大きくなったそれがあった。ズボン越しでもその膨らみは明らかで、随分興奮しているようだった。
小笠原がズボンのチャックを開け、脈打つそれを俺の頬に擦るように当てた。
普通ならただ気持ち悪いと思うだけだし、本当にそう思うのだが、薬のせいかその匂いがやけにいやらしく感じてしまい、呼吸が荒くなった。
「今日は俺、自分で動かさないから。ちゃんと自分から舐めて。」
「…誰が…そんなことっ!!」
「オネダリだって可愛くできたんだからそれくらいできるでしょ?これからのために上手にできるようになってね」
さっきの事が思い出されて顔が熱くなる。全てをなかったことにしたい。
小笠原は、ポケットからスマートフォンを取り出して、何かを操作した。すると、なにやらノイズが聞こえたあと、音声が流れ始めた。
「っな…!やめろ…やめろ!!」
そこから流れてきたのは、先程の、いやらしい言葉でイかせてほしいと強請る俺の声だった。
「薬ってすごいよねぇ…それにしたって、こんな卑猥な言葉よく口にできるね?」
「それは…お前がっ…!いやだ、やめろ、流すな!!」
その嬌声を聞くと、何故かまた自分の呼吸が荒くなり、体が熱を帯びる。自分の声だとは思いたくない。まるで女のような高い声で淫らに喘ぐその声は、羞恥心を仰いだ。
「いい声で喘ぐよね、ほんとに。まぁ、これだけ聞いてもきみだとはわからないだろうけどね。どうする?これ、その辺のマニアとかにも売れそうだけど…」
「いやだ…やめろ…」
知らない誰かに聞かれるのは嫌だ。
しかしこいつに屈するのも耐え難い。
急かすように頬へぐりぐりとそれを押し付けてくる。
自分が快感を得る側なのでなければ、さっさとこいつもイかせてしまおう。その隙を見て逃げよう。
無謀でもあったが、そんなことを胸に秘めながら、意を決して小笠原のそれに顔を近づけた。
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