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第40話Kindness②

勢いで説教じみたことを言ってしまったが、小笠原はどう思っているだろうか。またいうことを聞けと脅されるだろうか、それとももう俺のことを諦めるだろうか。今の表情からは何も読み取れなくて、少し怖い。 「…ほんと、きみは見かけによらず優しいんだね。きみの仲間があれだけ慕ってたのもわかる気がするよ…」 「別に…優しくなんか」 「本当の意味で俺のものになってくれる可能性があるってことでいいの?」 「それは…わかんねぇけど…」 すると、小笠原はバッと両手を広げた。 それが何を意味しているのかわからず、ただただ唖然とする。 「これで許せとは言わないけど、好きなだけ俺のこと殴って。避けないから。」 「はぁ…?」 「いいから!早く!」 確かに殴りたい気持ちは山々だが、こう言われるとちょっと引いてしまう。 しかしせっかく殴れるのなら…拳を握りしめて、あまり力は出ないが、思い切り小笠原の顔を殴りつける。 本当に小笠原は避けなかった。殴られた頬を抑えている。 「っ…いや、いいんだけど…いいんだけどそんな全力で殴る…?!」 「お前が殴れって言ったんだろうが」 「好きなだけ殴れとは言ったけどちょっと、これで何発もいかれたら…せめて顔以外で…」 「…いい、今の一発に全部込めた」 「ほんとに…?」 「お前の顔それ以上殴ったらお前のいい所ひとつも無くなるだろ」 「えっ、すっごい酷くない?」 「ただ、これからまた変なことするようであれば容赦なく殴る」 やっと小笠原を殴ることができて少し心がスっとした。本当にこれで許した訳では無い。まだこいつの人格や、男から好意を向けられるという違和感については思うところがある。どんなに酷いことをされても、後で優しくされるとどうも調子が狂う。人に優しくされることに慣れていないからかもしれない。 「あの、ごめん…努めるけど…勇也を見て欲情した場合はどうすればいいですか」 「知らねえよ!ひとりで抜けばいいだろ」 「もし抑えられなかったらまた殴っていいから…ね?」 「抑えろよ!!」 「…でも、動画はまだ俺の手にあるし、勇也はもうどこにも行く宛ないよね?」 「それは…っ」 何でいきなりいちばん痛いところをついてくるのか。その話を持ち出されたら何も言えないことを分かっているくせに。 「極力脅したりはしないけど…勇也にこれ以上嫌われない程度にはこっちもやらせてもらうから」 「脅した時点でアウトだろ…ていうか動画消せよ」 「端末からは消したけどパソコンにはまだ入ってるよ。拡散はしなくても俺の宝物として残しておきたいし…」 「尚更消せよ!」 気色悪い。どうしてまた形勢逆転された?いや、そもそも最初からこいつには逆らえない条件がいくつもあったのだが。まさかまた今から何かされるのではないかと、身構える。 「流石に病人に手出したりはしないって。今はゆっくり休んで。何かしてほしいことない?」 「…服、着替える。」 「あ、そっか。あそこのダンボールに入ってるよ。とってくるね」 さっきまでの空気はどこへいったのやら、平然と会話が進んでいく。小笠原は、ダンボールの一つを開けると、そのまま固まった。 「…おい」 「何この服…全部クソだっさいんだけど」 「別に…服なんて着られればなんでもいいだろ」 「これとかセンス中学生だし!他のも地味すぎ!ていうか数少なっ!…え、寝るとき何着てるの?」 「うるせぇな!…そもそも私服着る機会なんてねぇし、寝る時もTシャツとハーパンありゃ充分だろ…」 「ありえない…!!せっかく綺麗な顔なのに…」 なにやらぶつぶつ呟きながら、小笠原はダンボールを部屋の外に運び出した。 慌てて寝巻きと下着を要求するとそれだけベッドに投げつけられる。 「はい、さっさと着替えて寝て!」 俺の服はどうするつもりだろうか、小笠原は呆れているようだった。 よくわからないが少し馬鹿にされた気がしてイラつく。 着替えている間も、小笠原に見られていて着替えづらい。ズボンに手をかけたとき、見られたくなくて小笠原に話しかけた。 「…おい」 「なに?着替えないの?」 「いや…あんまり…見んなよ」 「なんで…ああ、ノーパンだから?」 「ってめぇ…誰のせいだと…!」 「汚したのは勇也でしょ?」 「それは……っ」 何も言い返せなくなり、小笠原に背を向けて素早く着替える。俺が脱いだ服は、小笠原が回収した。着替え終わり、俺は再びベッドに横になる。ようやく休むことができそうだ。 「じゃあ、夕飯の支度するまで寝てていいから。お風呂は?」 「…あとで」 「わかった。じゃあ待ってて。」 俺が目を閉じても、まだ小笠原の気配がする。 気にせず眠ろうとしたが、何かを話しているようだった。自然と聞き耳をたててしまう。 「ごめんね…俺、頑張るから。勇也って呼ぶの、二人きりのときだけにするね。好きだよ…」 そう言いながら俺の髪をかきあげて頭を撫でる。 何かを抑えているのか、ベッドのシーツをぎゅっと握っていた。 「もうねちゃった…?またあとでね、おやすみ」 そう言って額にキスを落とし、部屋を出ていく音が聞こえた。 「起きてるっつーの…」 寝た振りをしていたので気恥しさがあり、誰もいないのに顔が熱くなるのを隠すように、腕で顔を覆った。この熱さは、風邪のせいか、薬のせいか、それとも…

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