42 / 336
第42話Kindness④
小笠原に連れられて下に降りる。脱衣所まで行くが小笠原が出ていく気配はない。
「…もう、入るから」
「うん、わかってるよ」
そう言うと、小笠原は自身が着ていた服を脱ぎ始めた。
「い、いやなんでお前が…!」
「え?だって…一緒に入るでしょ?」
「なんでだよ、ひとりでいい」
「だってまた勇也のナカ洗わなきゃいけないし…」
「…じ、自分で、やる…」
「病人なんだから大人しく洗われなよ」
「あっくそ…離せ!」
小笠原に無理矢理服を脱がされる。今は力が入らないので抵抗ができない。額の冷えピタは剥がされ、小笠原も服を脱いで、入る準備は万端だった。
服を脱いだ小笠原の肩を見ると、歯形がいくつも付いているのがわかる。
「あ…肩の、それ…悪かった…」
「ん?これ?いいよ、俺はこういうの嬉しい。勇也にマーキングされたみたいで」
「っ…なんだよそれ」
自分がマーキングした。と言われると恥ずかしい。口ごもっていると、体を抱えられて浴室に入れられた。入るやいなや、俺を椅子に座らせてシャワーを浴びせる。いきなりお湯をかけられて目を瞑ると、そのまま頭を洗われた。
「自分で、やるから…いいって…!」
「いいんだよ、病人はじっとしてて」
「…っくそ」
「…俺に触られるのは嫌?」
「…少し」
「え…めっちゃショック…」
昼に自分がした仕打ちを考えろと言いたくなったが、口を噤む。小笠原に触られると怖いのはもちろんそうだが…体が反応してしまうのが嫌だった。
一度黙ると小笠原は黙々と俺の髪の毛を洗い、泡を流され、リンスをつけられる。
その間に小笠原も髪と体を手早く洗っていた。
すべて流し終えた後で、小笠原が再び喋りだした。
「薬…まだ、効いてる?」
「…すこし」
「こっちきて、もたれかかって力抜いて」
言われた通りに小笠原にもたれかかり力を抜いた。首に手を回すよう促されて首に抱きつく。
このあとあそこを洗うのだと思うと妙に体が緊張した。
「じゃあ、やるよ」
その言葉を合図に、石鹸を潤滑油代わりに指がそこへ侵入してくる。薬がやはり効いているから、思わず声が出てしまう。高熱で力が入らないと口が開きっぱなしになる。恥ずかしかったが、自分ではどうにも出来なかった。
「んっん…あっ」
「…ごめんね、もうちょっと」
小笠原が指を抜くと、中からドロったしたものが出てくる。それで終わりかと思ったが、また小笠原は中に指を入れた。
「あっ…やっあん…」
「まだだよ…我慢してね」
しかしその指は明らかに俺の感じてしまういいところを刺激しはじめる。声が次第に大きくなっていく。
「そこっ…あっあっんん…!ちがっ」
「気持ちいい?」
「あっなん、でっ」
声が大きく反響する。風呂場では声が響きやすい。それが嫌で、でも逃げられなくて、無意識に小笠原の首を何度も甘噛みする。
「っ…まだ、辛いでしょ?」
「あっ…も、わかんな…」
指を増やされ、体が強ばったかと思うと気持ちよさで力が抜ける。少しばかり抵抗の意を込めて小笠原の背中を叩くが、力がはいらない。快感が強くなると今度は手足に力が入る。何かを掴みたくて、小笠原の背中を引っ掻いてしまう。
ぐちゅぐちゅと厭らしい水音と嬌声とが混ざりあって響き渡る。
「ごめん…っ抑えられなくて」
「い、やだ…っ抑えろよ、ばかっ!」
「キスしたい、していい?」
「だ…めっ…」
風邪が移ってしまうから、頑なにキスを拒む。いや、勿論そうじゃなくても嫌…なはずだが。
キスは諦めたのか、小笠原も俺の方に顔をのせるようにした。すると、耳に何か温かいものが入ってくる。そのぬるりとした感触はおそらく舌だろう。歯を立てないように優しく耳を噛まれると、なんとも言えない感覚に襲われた。
「…やっぱり耳弱いね」
「うる…さ、やめっ…んっ」
小笠原の肩にかけていた腕を離し、胸を押して退けるようにした。しかし上半身をホールドされて、下にはまだ指が入っている。
耳から離れたと思うと、今度は首元になんども唇を押し付けた。少し痛みがあったので、またキスマークを付けているのだとわかる。
「ごめん、俺…いつもはキスマークなんて付けないんだけど…勇也相手だとどうしても、人に見えるところに付けたくなっちゃって…」
〝 いつも〟という言葉になにかひっかかりがあるが、首に付けられてしまうと隠しようがないので必死に抵抗する。
すると下に入っている指の動きが加速して腰に力が入らなくなる。
「あっやだ、も、やめ…そこっ、むり…!」
「でも、ちゃんと掻き出さないと…」
「ちが…あっだって、も、でてる…っん」
「…じゃあもう洗うよ?」
「自分で、やるから…っいい」
入っていた指が一気に引き抜かれ腰が震えた。浴場の床に座り込むと、片脚を掴まれて上げられる。その屈辱的な姿勢を変えようともがくが、掴まれているため動けない。そのまま中にシャワーを入れられて洗われた。その間もずっとさっきの快感の余韻が消えてくれずに、小さく肩を震わせていた。
「じゃあ、続きしようか」
そう言ってまた抱きしめてきた小笠原の頭を、肘で思い切り攻撃する。小笠原が怯んだうちに逃げ出して浴室から出た。
小笠原は頭を抑えながら追ってくる。
「お前…ほんとに、いい加減に…」
「ごめんほんとごめん。そういう気分になっちゃったから…」
「だからひとりで入るっつったのに…死ね」
「続きは…?」
「ねぇよ!!」
正直、自分もまだ達していなかったので体が疼いて辛かった。でもここで怯んではいけない。
小笠原を無視しながら自分で体を拭いて服を着る。ふらふらと歩きながら部屋へ向かおうとした。
「髪、乾かさないと風邪ひいちゃ…」
「いいんだよもうひいてるから!!」
反抗期の息子かのようにイライラしながら叫ぶ。
そのまま二階へ上がり、自分の部屋に入って鍵を閉めた。外からは小笠原の謝る声が聞こえてくるが、何も答えず電気を消してベッドに入った。しばらくすると声は止み、静かになる。
さっきまで寝ていたからか、なかなか寝付けない。それに、体の疼きが気になってしまう。明日になれば収まる。そう思って、びしゃびしゃの髪のまま無理矢理に眠った。
ともだちにシェアしよう!