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第50話Jealousy?

朝だ。窓から光が差し込んでいるのがわかる。時刻は8時過ぎ。昨日と比べると早起きだ。 痛みや気分の悪さはもうない。回復に関しては早いほうなのかもしれない。そういえば、喧嘩の傷も治るのが早かったな。 腰の痛みもほぼない。手首の傷は大分目立たなくなってきた。もしかしたらと思い胸元を見てみるが、キスマークだけはまだうっすらとのこっている。 昨日は、眠りにつくまでどうしていたか。 あまり覚えていない。思い出すのをどこかで拒んでいるのかもしれない。小笠原は、まだ寝ているだろうか。 一階に降りてリビングに入る。前まで散らばっていた荷物は少し片付いていた。しかし、キッチンを見ると悲惨だった。何も片付いていない。 ゴミ箱を見るとコンビニ弁当の残骸が入っている。ああ、そういえば昨日は晩飯を作っていなかった。 片付けをしようとキッチンに近づくと、先程は死角で見えなかったが、冷蔵庫の前に誰かいる。 息が止まった。その人物と目が合う。 「あ、あなた誰?!?!」 「あんた誰だ?!?!」 そこに居たのは、40代くらいと見られるふくよかなおばさん。どうしてこんなところに?空き巣?強盗?小笠原が連れ込んだ?いや守備範囲広すぎるだろ?! 「だ、誰よ!遥人さんのお友達?いやでもあの子が女の子以外を連れてくるなんて…」 あいつの名前を知っているということは… 考えろ、あいつの知り合いでおばさん、冷蔵庫で何かをしてる…そうか、ハウスキーパーだ 「あ、あの…もしかして、ハウスキーパーの…」 「ひっ!え、ええ…びっくりした、強盗じゃないのね〜」 ……………… 彼女はハウスキーパーの佳代子さん。この人もまた小笠原の父の知り合いらしかった。 小笠原の言う通り、定期的に冷蔵庫の中身を変えたり、掃除をしたりしているらしい。小笠原もそれなりに信頼はしているようで、この人にもこの家のカードキーを持たせているそうだ。 「いや〜それにしても驚いたわぁ〜」 「…すみません」 「いやぁいいのよ〜何にも言わない遥人さんがいけないんだから」 たしかにその通りだ。俺と佳代子さんは、小笠原が荒らしに荒らしたキッチンの片付けをしながら話していた。俺がここに住み始めた経緯を説明したら、驚いた後に納得してくれた。もちろん、襲われたことや俺たちの関係については1ミリも話していない。 「その、佳代子…さんはどれ位の頻度でここに?」 「そうねぇ、毎週日曜の朝にはこうしてリビングの片付けと食材の確認だけしてるけど…基本的には、遥人さん女の子と寝てて出てこないから。そのうちにやってるのよ」 「はぁ…そうなんすか」 「今日は女の子来てないの?珍しいわね〜いっつも違う女の子連れては皆追い払うように帰してるのに」 「…そうっすね」 そうか、そんな頻繁に来ているのか。佳代子さんの話ようだと、つい先週も来ていたということだろうか。また胸が痛くなる。何でだよ、俺には関係ないだろ。 「あなた…ええっと、双木さんはお料理とかできるの?」 「ああ、はい一応…」 「あら〜見かけによらずちゃんとしてるのね!」 「いや、そんな…」 「じゃあ、このお鍋とかは…あなたが?」 それは、前に小笠原がお粥を作った時のものだった。ちゃんと使ったものは洗えと言うべきだったか。 「それは…俺が一昨日から風邪ひいてたんで………遥人くんが飯作ってくれたんすよ」 一緒に住んでいるのに小笠原呼びはよそよそしくて変に思われるかと思い、呼んだこともないのに遥人くんと言ってしまった。 それを聞いた佳代子さんは、手に持っていた洗い途中のスプーンをシンクに落とす。 「えっ…?!は、遥人さんが料理…?!しかも他人のために…?!」 「そ、そんなに驚くことなんすか?」 「えぇ…だって…あの子がねぇ…あら〜そうなの…」 何故かひとりで驚きながらぶつぶつと呟いている。洗い物が終わったので、佳代子さんにお茶をいれて出す。 「あらっ、いいのよ〜もう帰るつもりだったのに」 「いや…いつもお疲れ様…です」 「遥人さん、変わったのねぇ。あなたのおかげかしら?」 「それは、どういう…」 「愛されてるのね、あなた」 「愛さ…っ?!」 予期していなかった言葉に顔が熱くなる。 「あなた…遥人さんのこと、好き?」 何でそんなことを聞くんだ?いや、この人は普通に友達として好きかどうか聞いているんだ、当たり前だろう。ここで嫌いと答えるのはおかしいよな… 「いや、まぁ、ふつーに…」 「…そう。好きな気持ちっていくら言っても伝わらないことがあるけど、言わないと気づいてもらえないのよ」 「え…?」 「伝えるのが遅すぎて、今もそれを後悔している友人達がいるのよ…馬鹿よねぇ。好きの形なんて人それぞれだから、誰を好きでも自分に正直になれば良かったのに」 いや、決して俺は小笠原が好きなわけではないしむしろ嫌いなのだが…まぁ、この人は俺が何をされたか知らないから無理もないか。 それにしても、妙にその〝好き〟の話が友情の話に聞こえない… 「伝え方にも、色々あるからね。遥人さんはそういうの苦手そうだから…。やだ、長く話しちゃったわね。そろそろ帰るわ」 佳代子さんは、お茶を飲み干すと玄関に向かった。俺も玄関まで見送りに着いていく。 「あの、今日はありがとう…ございました」 「いいのよ、また今度来るわ。さようなら〜」 「さよ…なら」 ドアが閉まる。よく喋る人だったな。最後に言っていたのはなんだったのだろう。俺が小笠原を好き…?それはありえない。絶対にありえない。 後ろから、階段を降りてくる音が聞こえる。振り返ると小笠原が寝癖をつけたまま降りてきていた。 「おはよ〜…あれ、誰か来てたの?」 「あぁ…佳代子さんが」 「来てたんだ〜最近会ってなかったな…」 「なんで俺のこと言っておかねえんだよ」 「え?言ってなかったんだっけ…ごめーん佳代子さん〜」 ため息をついて、リビングに戻る。大したものではないが、簡単な朝食を作って小笠原に出した。 「…てっきり、もうご飯作ってくれないかと思ってた」 「…一応、そういう契約だから…」 「ふふ…好きだよ」 「っ…うるせえ、早く食えよ」 朝食をたべながら、体調のことなどを色々と聞かれる。そして、熱を出した日の話になった。 「そういえば、勇也…あの日熱も薬も大変だったのによく一人で自分の家まで行けたね」 「あぁ…なんか、真田が送るって言って…途中まで」 小笠原の手が止まり、顔を顰める。 「真田…?って、サトシ…?」 「そう…お前と仲いいんじゃねえの?」 「…なんで聡志が勇也と帰ってんの?」 「なんでって…別に」 「聞いてんだけど」 明らかにいつもと雰囲気が違う。怒っているのか?一体何を? 「…5限の途中で保健室きて、熱計れって言われたから。そしたら、自習中だし真田も抜けて帰るって…」 「勇也のクラス…B組だよね…俺Aだから横通ったけど。普通に授業してたよ」 じゃあ、真田なりに気をつかってくれたのか。別にいいじゃないかそれくらい。俺が真田に迷惑をかけたと思っているのだろうか。それとも、小笠原とのことを話したと思っているのか? 「別に何も話してない…あいつに迷惑をかけるようなことも、何も…」 「何もされてない?」 「いや、何もされてねえけど…」 「俺以外と一緒に帰らないで」 「いや、相手男だし…」 小笠原も男だけどな。何がそんなに気にくわないのか分からない。そもそもお前の友達だろ。 「聡志は確かに仲いいけど…屋上の件で詮索入れてもらったのもあいつだし。ああ、勿論俺達が何してたかは言ってないけど。でも、あいつ妙に勇也と仲良くしたがってるから…」 保健室につれていけだのなんだの誘導したのはおまえじゃないか。でも意外だ、てっきり詮索をいれさせたりしてる奴は小笠原と繋がりの深い者だと思っていた。 「元々人懐っこい性格で、俺も接点ないのにいきなり高校入って仲良くしようって言ってきたようなやつだからね。それでも、あんまり勇也とベタベタされたら困る」 「困るって…別にお前には何も」 「嫌なんだよ、勇也が俺以外のこと見るの」 「は…?見るってそんな…」 「…ごめん。何かそういうの、胸が苦しくなるっていうか…心にもやがかかったみたいで…あ〜…嫉妬とかかっこ悪…」 嫉妬…?真田に?なんで、そんな… 「お前だって、つい最近まで女連れ込んでたくせに何言って…っ」 「え…?それって…」 「や、違う…俺は、別に嫉妬とかそういうのじゃねえし…!」 「…可愛い」 「うるせえ死ね!」 何言ってるんだ俺。そもそも小笠原もそれなら反省の色くらい見せろよ。 その時、机の上に載せていた小笠原のスマートフォンが振動した。

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