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第59話Mean
家に入った瞬間、小笠原になにかされまいと全力で自室へ走る。
「あ、ちょっとどこ行くの勇也!!」
部屋に入って鍵を閉める。まだ息はあがっていて、下半身も張り詰めてつらい。
小笠原がガンガンと扉を強く叩くのがわかる。
「ねえ、逃げることなくない?何もしないから出ておいでよ」
「どの口が言ってるんだよ!!誰かにバレたらどうするつもりだったんだ!」
「別にどうもしないよ。大丈夫だったでしょ?」
「大丈夫じゃねぇよ!!」
どうして…こんなに。勃ってしまったそこが辛くて、早く抜いてしまいたかった。どうしてあんなことをしたのだろう。やはり真田とのことを怒っている?でも、俺にはどうしようもなかったじゃないか。…自分は女といくつも関係をもっていたくせに。
「ね〜出てきなよ。出てくるまで待ってるからさ」
小笠原が部屋に入ってくる前に、バレないようにさっさと抜いてから風呂に入って勉強しよう。そうだ、あいつに構ってる暇など今の俺にはない。今日は他教科も持って帰ってきたし、活用しなくては。
小笠原が扉を叩くのをやめたので、ベッドに座ってズボンと下着を少しだけ脱ぐ。悔しいし恥ずかしいしまた小笠原に殺意が湧くが、やはりこれは収まりそうにない。
少し触ってみると、そのあとも手が止まらない。自分はこんなに感じやすかったか?薬も酒も使ってない、熱もないのに体が熱い。普段も自慰なんてほとんどしたことがなかったのに、どうして…
「んっ…ん…くそっ…なんで、あっ……はぁ…」
さっきまで限界だったそこは、すぐに射精まで追いつめられる。早く出してしまいたい、手の動きも加速する。早く、早く。一心に手を動かす。
「あ…あっ…はぁっ…んんっ」
もう、出る。そう思った時、なにか後ろに気配がある気がして振り向く。見ると、ドアが開けられ小笠原が後ろに立っている。しかしすぐに手が止まらず、最悪なことにこのタイミングで出でしまう。
「あっ…んっいやっ…見んな、死ねっ!!」
慌ててティッシュで吐き出したものを受け止める。すぐに下着とズボンを履いて小笠原を見るが、嫌なくらい笑っている。出した後はいくらか冷静になっているので、余計に恥ずかしくて顔が熱くなる。
「そんなに我慢してたの…?」
「元はと言えばお前が…!ふざけんなよ、ほんとに…っ」
「ごめんね?でも、一人でしてる勇也も可愛かったよ」
「…最悪…死ね」
「言ってくれれば手伝ったのに」
そう言ってベッドに手をついて身を乗り出してくる。後ずさり、小笠原の顔を手で押さえて押し返した。
「や…めろ!」
「ねぇ、続きしよ」
「しねぇよ…!風呂入って勉強する、から…」
「いいじゃんちょっとくらい…」
「よくねぇ!…お前がテストで勝ったら好きなだけすればいいだろ、それまでこういうことは…」
言ってから、しまったと思った。何勝手に自分に不利な条件を増やしてるんだ。余計に負けられなくなってしまった。小笠原は、キョトンとしたあと、ゆっくり俺から離れて口角を上げた。
「…へぇ、そうだね、じゃあそうしようか。テストが返ってくるまで何もできないのは寂しいけど…終わったあといくらでもしていいんだよね?」
「っ…ああ、絶対負けねぇし、別に…」
「楽しみ〜早くテスト終わらないかな〜」
小笠原は完全に自分が勝つ前提で話している。
腹が立つ、絶対に負けるものか。実際、今のところ小笠原は試験勉強をしていない。しようという意志も見せなかった。
………………
結局、その後風呂に入った小笠原はすぐに寝たようだ。俺は昨日と同じくらいの時間までは勉強してベッドに入った。
眠るまでの間、少し真田の事が頭をよぎった。
旧姓を知っているということは同じ小学校で間違いないようだ。しかし俺は、本当に真田のことを知らない。クラス数か多く、関わりのない生徒も多かった。でも、そうしたら何故真田が俺のことを知っているのだろう。どちらかというと、地味で気弱で、むしろ目立たないタイプだったのに。
それで仲良くなりたいと思うのもわからないし、今の俺だったら尚更だ。
真田と小笠原の仲がいいのも関係しているのか?しかし、どうやら中学が同じというわけでもないようだし、クラスも違えばいつも一緒にいるというわけでもないようだ。
小笠原曰く、真田から仲良くなろうと近寄ってきたらしい。真田はアホだから、無理にいい人を演じることもあまりしないと言っていた。
単純に、人と関わることが好きな奴なんだろうか。俺にはその考えが全く理解できない。たしかに、真田のように明るい性格だったら誰もでも打ち解けて仲良くなれるだろう。
俺なんかが仲良くなっていいのか。面倒くさいが良い奴には違いない。極力関わらずに、どうにかならないものか。
それにしても真田はかなり鈍感なようだった。そのお陰で机の下のことはバレなくて済んだが、機嫌の悪い小笠原を逆なでするような事を言いそうでハラハラする。危害が及ぶのはこっちなんだぞ、空気を読んでくれ。
明日は小笠原にも真田にも気をつけて過ごそう、深くため息をついて、瞼を閉じた。
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