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第62話Cigar

今日もいつも通り弁当を作っていつも通り朝食をとった。いつも通りといっても、この暮らしを初めてまだ1週間と経っていないのだが、もう慣れてきてしまっているような気がする。 学校では、テスト前日だからか勉強をしている生徒が教室内にちらほらと見えた。俺が最近ずっと勉強していることや。小笠原と一緒にいたこと、真田がやたらと話しかけてくることを噂する生徒も何人か見受けられたが、真田のように飄々と俺に声をかける生徒はいなかった。 話しかけられたからといって俺は誰彼構わず殴り掛かるわけではないが、そういうイメージがあるのだろう。もう喧嘩はしていないが、この見てくれではしょうがない。他人と関わりたくない俺にとっては好都合だった。 相変わらず隣の席の真田は時々話しかけてくるが、小笠原と違って無視しても喋り続けるので厄介だ。この席は目立たないから好きだったが、真田が鬱陶しいので早く席替えをして欲しかった。 昼休みには、真田が教室を出ていったのを確認してから屋上へ向かう。踊り場にいるとまた真田が来るかもしれないと思ったので、屋上にでて扉を閉める。屋上にくると、小笠原と初めて話したあの日を思い出して気分があまり良くない。忘れたいのにどうも頭から離れない。 端の方に行って柵から下を見下ろす。こちら側からは裏庭が見えた。たしか剣道場があり、そこの影になっているうえに狭いため、あまり人を見たことがない。 しかし、今日は誰かがいる。少し明るめの茶髪…真田だ。あんなところで、一人で何をしているのだろうか。真田は周りをキョロキョロと確認したあと、剣道場の裏口の段差に腰をかけた。そしてポケットから何かを取り出して口の辺りへ運んでいく。 タバコだ 口元から煙が上がっているのがわかる。中学では吸っているやつが周りに何人もいたし、決して珍しいものではない。しかし、この学校で、しかも真田が吸っているということに驚いた。 呆気に取られて見ていると、剣道場の裏口から誰かがでてくる。それは男子生徒のようで、背が高く、剣道着を身にまとっていた。あの日屋上から降りて教室に行ったとき、よろけた俺を支えようとしてくれたあいつだ。剣道部で背が高い、無口の…名前はなんだったか。 この前確かめた座席表を思い浮かべる。たしか、上杉…『上杉謙太』だ。 そういえば、小笠原のところの病院と繋がっているという虎次郎も『上杉』という名前だった気がする。いや…まさかな、たまたま同じ名前だっただけだろう。 上杉が真田に何か言っている。タバコのことだろうか?それにしては少し怒りすぎというか、凄い剣幕だ。耳をすませて会話を盗み聞きしてみる。 「真田____お前の____どういうことだ!」 「俺に聞くな____上杉の__だって____」 途切れ途切れにしか聞こえないが、口論しているようだった。真田はヘラヘラしているものの、いつものような明るさは感じられない。上杉も、あんなに喋っているところを初めて見た。そもそも、二人は知り合いだったのか?クラスでは関わっているところを見たことがない。 「そこまで____する必要が__」 「お前には_____俺は___双木も」 「___彼は____ない___」 今、自分の名前が出た気がする。一体あいつらはなんの話をしているのか、検討もつかない。しばらく言い合いをした後に、真田がタバコを捨てて踏み潰し去っていった。上杉のほうはまだ何か言いたげだったが、外履きを履いていなかったため追いかけなかったようだ。 一体二人はどういった関係なのだろう。まあ、俺にはあまり関係ないか。 昼食をとって勉強に専念する。今日は誰も屋上に来ることは無かった。 ……………… HRが終わり、今日も早く帰ろうと席を立ち上がると、教師が俺の方にやって来る。 『…双木、あとで職員室に来なさい。生活指導の先生からお話があるそうだ』 「はぁ……?」 面倒だ、どうせ服装を正せだのピアスを外せだの言われるのだろう。夏服になったからだろうか、わざわざ言われても直す気などないのに。少し迷ったが、小笠原にメッセージだけ送信して職員室に向かうことにした。まだスマートフォンには慣れなくて打つのが遅い。 『職員室 呼び出し 』 『何したの?』 『わからん』 『待ってようかと言いたいところだけど、まだ女の子から追われてるからすぐに帰るね、ごめんね。帰るときは教えて、他の誰かと帰ったらだめだからね!』 『わかった』 小笠原の返信は早い。どうしてそんなに早く打てるのだろう。そもそも言葉がそんなにすぐ出てこない。 スマートフォンをポケットにしまい、教室をあとにした。職員室前まで行くと、先程見た剣道部の上杉も用があったのか、中に入っていくのが見えた。いつの間に道着に着替えたのだろうか。 一応ノックをしてから職員室の扉を開けた。

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