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第63話Cigar②
職員室の扉が開くと、職員が一斉にこちらに注目する。この学校では珍しいコテコテの不良生徒。知らない教師はいないのではないだろうか。教師は、俺がいつ問題を起こすのかと気を張っているのかもしれない。
目が合った生活指導の中年数学教師は、緊張した面持ちで手招きをする。気だるげにそこまで歩いていくと、その教師は深呼吸をして俺を見据えた。
「…なんすか、話って」
『……これ、なんだかわかるか』
制服の話ではないのか?そう思っていると、教師は小さなポリ袋に入ったそれを俺の目の前に突きつける。
その中には、タバコの吸殻が入っていた。
「え…タバコ……?」
『…裏庭に落ちていたのを体育科の先生が見つけたんだ』
「それで…なんで俺が」
『お前のじゃないのか、これは』
は…?裏庭ということは、真田があのとき捨てたものだろう。とんだとばっちりを受けた。不良生徒には違いないが、俺は酒やタバコはしていない……酒は、強制的に摂取させられたが。
「いや…違う…けど」
『昼休みは屋上にいたんだろう。それを校舎から見たという生徒がいる。裏庭は丁度屋上の真下だったな…正直に話しなさい』
「確かにいたけど…それは俺のじゃない」
『見たところ今日捨てられたもののようだし、喫煙者の職員には喫煙スペースが設けられているから職員である可能性は低い……どうなんだ』
ダメだ、こいつは。こいつら教師は人を見た目で判断する。皆と違うものを異端と見なし、それを悪と教える。俺の風貌だけで、何も聞かずに判断しやがった。確かに、疑われるのはしょうがない。でも、なんの証拠もなしに一方的に決めつけてくるのが気に食わない。
「だから俺じゃねえって…!」
『お前以外にいないだろう!他に誰がやったというんだ!』
〝お前以外にいない〟酷い言われようだ。しかし、ここで真田の名前を出すべきか?あいつは隠れて吸っているようだったし、気にしているはずだ。一応真田には恩がある。
そうだ、誰かが犠牲になる前に自分が傷つくのが一番楽じゃないか。
「…………俺の、です」
『最初からそう言えばいいものを…今回は厳重注意で済ませるが、次は無いと思え。家庭環境が大変なのは分かるが、それじゃあ亡くなられたお母さんも__ 』
確かに母親が生きていたらタバコを俺が吸うなんて発狂ものだ。だが、この教師は何も知らない、何もわかっていないのによくそんなことを言えるな。
「…すみません……でした」
『わ、わかればいいんだ…期末考査は期待しているぞ』
俺のプライドは、本当に無くなってしまったのかもしれない。俺はあの頃の双木勇也じゃない。また弱い自分に戻ってしまった。
俺の処分が軽いのは、やはり家庭環境と成績のせいのようだ。皮肉なものだなと、心の中で嘲笑する。職員室内の職員は、俺が素直に謝ったことに対して少し驚いているように見えた。
職員室から出て数歩進むと、腕を誰かに掴まれる。教師かと思い振り返ると、それは上杉だった。身長の高い上杉は、近くに来ると物凄い気迫がある。無表情のようであったが、目にはなにかの力があった。
「…双木、だったか、お前」
「あ…ああ…」
「俺は上杉だ。同じクラスの」
「…知ってる」
「さっきのタバコ、本当は違うだろ」
何でこいつが知って…?ああ、あのとき真田と一緒にいたのか。しかしもう教師にはいってしまったし、今更どうしようもないのだが。
「…お前には関係ねえよ」
「俺は実際他のやつがあれを吸ってるのを見たんだ、どうして最後まで否定しなかった」
「話がややこしくなるだろ…いいんだよ別に」
「じゃあ…俺が言ってくる」
「はぁ?!なんでだよ、いらねえからそういうの」
何を考えているんだこいつは、本当にわからない。話はあれで収まったのだからいいではないか。真田を庇うというわけではないが、俺が吸っていたという方が皆納得するし、なにより処分が軽く済むんだ。
「お前が余計に罪を負う必要はないだろう…」
「罪って…大したことねえよ、厳重注意で済んだんだからもういいだろ。お前こそ余計なことすんじゃねえ」
「どうして、お前は……やはり脅されているのか?」
「脅されるって誰にだよ…」
真田か?いや、その考えに至る意味が分からない。確かに小笠原になら脅されているようなものだが…。
「…その、真田と仲のいい男がいるだろう」
「小笠原……?あいつがどうか…」
「お、お前は、あの男と…」
そこまで言うと、上杉は顔に手をやって抑える。なぜだか分からないのだが、耳まで真っ赤にして赤面している。なんなんだ本当に、逆に怖い。俺と小笠原がなんだよ、そこで止めないでくれ。
「なんなんだよお前…」
「い、いや…悪い、失礼する!」
そう言うと、律儀に頭を深く下げて足早に去っていった。いきなり話しかけてきていきなり去っていく。めちゃくちゃ気持ち悪い。図体がデカいくせしてなんなんだ。
心なしか、頭を下げる姿があのヤクザの虎次郎と重なって見えた。やはり何か関係があるのか?ここ数日で得た情報量が多すぎてイマイチ頭の中で整理できない。
とりあえず小笠原に今から帰るとメッセージだけ送り、悶々と考えながら家に帰った。
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