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第66話Busy

今日は期末試験一日目。数学もあるから気を抜いていられない。朝はいつもより早めに、途中まで小笠原と一緒に学校へ向かった。学校付近になるとうちの生徒が増えてくるので、小笠原を追い抜かして先に学校へ着いた。 テスト当日はクラスの人間皆が朝から焦って勉強をしている。珍しく真田も既に席についていて、「おはよ」と挨拶をされる。軽く一瞥して席につく。 真田に関しては、タバコのことがあるからなんとなく気になってしまう。罪を被ったことはそこまで気にしていないが、こいつもなかなか本性がわからない。 「双木、首…どうした?」 「は?なにが…」 「なんか噛まれたみたいな…犬飼ってんの?」 「あ…いや、これは…」 まずい、隠してくるのを忘れた。犬を飼っていると肯定したらそれはそれで面倒なことになりそうだ。 「もしかして…喧嘩とか?」 「あぁ、まぁ、喧嘩みたいなもんか…」 「今どきのヤンキーって首に噛み付いたりするの?やばいな…」 「そういうわけじゃ…」 なんだかあらぬ誤解を生んでしまった。 首に噛みつけるならもっとマシな攻撃の仕方があると思うが… 「あ、喧嘩って遥人と?」 「ちが…もういいだろ、放っておけよ」 周りにいた生徒がヒソヒソと話し始めたのでこちらの話を切り上げる。真田に話しかけられると周りから注目されてしまうのでそれは避けたい。 その後も一方的に話しかけられるが、無視を決め込んだ。 ……………… 今日のテストはそれなりに好調だ。数Iは少し難しかったが8割は確実にとれているはずだ。化学は小笠原に教えてもらったのですんなり解けた。倫理はあまり力を入れていないので6割以上取れればいい方だろう。 学校を出て交差点まで行くと、小笠原が待っていた。そういえばここで待ち合わせると言っていたなと今思い出した。 「…あ、来た」 「…待ってたのか」 「そう言ったでしょ、この前」 「近いんだからいいだろ…」 俺が歩を進めると、小笠原も歩き始める。歩幅をわざわざこちらに合わせているようだった。無言で歩いていると、小笠原から話しかけてくる。 「テスト、どうだった?」 「…普通」 「俺、今回満点いけたかも」 「…本気で言ってんのか?」 もしそれが本当だとしたら大変まずい。条件に入っているのは数Iだけだから、まだ大丈夫だろうか。そもそも勉強など全くしていなかったくせにどうして自信満々なんだ、むかつく。 「苦手な科目でもなかったしね〜」 「そうかよ…」 「でも数学だけなら勇也が勝ってる可能性もあるしね、わかんないよ」 本当にそうならいいのだが、ここまで小笠原が自信満々となると不安だ。小笠原が苦手だという国語で巻き返そう。英語は恐らく小笠原の方ができるだろうから俺もミスはできない。 家に帰って、昼飯を作る。食べたあとは勉強しなくてはならない。やはり夜も遅くまでやった方がいいだろうか…いや、記憶が定着しなくなるからやめておこう。食べながら何気なくリビングを見渡すと、最初に来たときとは違ってだいぶ片付いている。 「…ちゃんと片付けたんだな」 「リビングのこと?うん、結構頑張ったんだよ」 何も出来なかった先週と比べたらだいぶ成長した。飯を作っているあいだに箸などを準備するようになったし、何も言わなくても自分の弁当箱を洗っている。人とは変わるものだ。セクハラは未だに止まないのだが。 「…このまま保てよ」 「わかってるって。ねえ、俺頑張ったでしょ?偉い?」 「は?別にこれくらい普通…」 小笠原は、期待しているような目でこちらを見る。肯定してほしいということなのか。 「まぁ…お前にしては、頑張ったんじゃないか…」 「勇也に褒めてもらえて嬉しい。勇也も家事やってくれてありがとう、偉いね」 そう言って少し身を乗り出し、俺の頭を優しく撫でる。鬱陶しいが、あまり嫌な感じはしなかった。偉い…か、確かに、自分が頑張ったことを人に認めて褒めてもらうのは嬉しい。小笠原もそうして欲しかったのかもしれない。 俺の頭を撫でていた小笠原の手を取って、どうしたらいいか分からないのでとりあえず軽く握る。 「お、お前も……偉いと…おも…う」 なんだか小っ恥ずかしい。小笠原はどうしてこんなセリフをさらっと言えてしまうのだろうか。これで合っているのかわからず少し俯く。顔に熱が集まってくるようだ。 「え……勃った」 「っはぁ?!ふざけんな!前言撤回する!!」 「だって…勇也が急に可愛いことするから!」 「うるせえ、さっきのこと全部忘れろド変態!!」 「無理だよ!あ、待ってちょっと抱きしめていい?」 「先に飯食え!!」 お互いわけも分からず叫びあって、結局席について食事を続ける。こいつと暮らし始めてから毎日騒がしい。前まではずっと一人だったのに…なんだか不思議というか、違和感がある。 「…なんか、勇也が来てから毎日楽しい」 「…騒がしいの間違いだろ」 「今までずっと一人だったから…周りに人はいたけど、それでもなんか孤独だったんだよね。あ〜痛いなぁこういうこと言うの」 小笠原の言っていることは、よく分かる。楽しいかと聞かれたらすぐには頷けないが、賑やかだ。一人の時は辛いことも全て常に背負っていなければならなかった。思い出しては、その度に死んでしまいたくなるんだ。 でも、こうやって騒がしくしているあいだは自然と忘れてしまう。人と関わることが、俺を変えている。一人じゃないというだけで、知らないうちに救われる部分があったのかもしれない。 いつもは憎いと思うだけだが、今は、今だけはこの騒がしさを有難いと思おう。もちろんこの気持ちは、小笠原には秘密だ。

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