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第71話As a result

テスト返し中の教室は騒がしい。一番初めに返ってきたのは数Iだった。平均点はかなり低めの43点。やはり今回は問題を難しく作りすぎたらしい。テスト返却を行っているのは、タバコのことで俺を叱責したあの教師だ。 『今回は平均点が非常に低かった。このクラスの最高点は…89点』 教室中がざわめく。この平均点なら赤点をとった生徒もいるだろうから、この点数を取れるのは随分希なことだ。その後、真田が大きな声を出して教師に質問する。 「先生、今回最低点何点っすか?」 『真田…そんなに知りたいのなら、お前から返してやろう』 「えっ…」 そう言って教師が真田の方へと歩み寄ってくる。テストの用紙の中から真田のものを引き抜いて、机の上に置いた。 『中間も散々だったな、夏休みは補習だ』 「うそ、8点…?!」 真田のテスト用紙には、大きく8という数字が丸で囲まれて書かれている。あの丸は赤点を表すものらしい。周りの生徒はどっと盛り上がった。そして、教師は再びテストの束からもう一つ用紙を抜き出して、今度は俺の机の上に置く。 『真田も、勉強に関しては隣の席のやつを見習うんだな』 やたらと〝勉強に関しては〟という点を強調する。俺の方を見やった目は、少し小馬鹿にしたようであった。 「双木、最高点じゃん!すげえ〜」 今度は、また違ったざわめきが教室に広がっていった。それもそのはずだ、不良生徒が高得点を取るなど誰も予想していなかったのだから。 中間考査の成績もそれなりに良かったが、うちの学校は個人順位は出るものの貼り出されることはないので、他の生徒は知らなくて当然だった。 ……………… その後金曜まで、順調にテストが返ってくる。今回は三日間で四日分のテストすべてが返却された。教師の方はそれで随分時間がなかったようだ。 小笠原と競っていた3教科、正しくは数学2教科、英語2教科、国語総合の5教科の点数はすべて8割は取れている。そのお陰で返却毎に真田が騒いでうるさかったが、なかなかの点数ではないだろうか。 小笠原とは、すべて返却されてからお互いに1教科ずつ公表していくことになっている。今、まさにそれをしようとしているところだ。小笠原が俺の部屋に入ってきて、答案を伏せて机の上に置いた。 「テスト返ってくるまで長かったー。よし、どれから点数言っていく?」 「英国数の順で…」 「おっけー、じゃあコミュ英からね。せーのっ」 コミュニケーション英語は平均60ほど、俺の点数は88点。正直もう少し取れたような気もしていたが…小笠原はどうだろうか。一斉に答案を机の上に出す。 「っ…くそ」 「俺は98点…10点差だね」 初っ端からおかしいだろ。98点ということは、1問ミス…まぁ、英語で勝てる気はしなかったが。 「次、英語表現…」 「はい、せーの」 「90点…!」 「90〜あれ、同点だ」 よし、なんとか同点に漕ぎ着けた。実際の点数差はまだ10点のままだが…国語でなんとかするしかない。 「次国語かぁ〜国語と数A同じ日だったから気持ち的に萎えて全然できなかったんだけど」 「いいから早くしろ」 「…じゃあいくよ〜せーの…」 「95」 「78…ほら〜絶対負けるじゃん」 やはり小笠原は国語が苦手だ。ここまでで点数差は7点俺が勝っている。このまま数学で勝てれば俺が勝つのではないだろうか。 「次、数A」 「あ〜無理〜…せーの」 「92」 「93…」 「…何が全然できなかっただよ…勝ってんじゃねえか」 「あれ?意外と取ってたね…部分点のおかげかな」 これで点数差は6点…でもまだ俺の方が勝っている。最後の数Iは平均点が低いから、勝率は高い。うちのクラスでは俺の89点が最高だ…いける気がする。 「最後…いくぞ」 「緊張する〜…せーの!」 「89………え?」 机の上に出された小笠原の答案を見て、目を疑う。待ってくれ、つまり、それは… 「100点。学年最高点だったよ、当たり前だけどね」 「…は?それじゃあ…」 「うん、俺の勝ち。勇也の負け」 「そんな…ほんとに、100点なんて…」 何度小笠原の答案を見ても、やはり書かれているのは100の文字。バツは一つもついていない。俺が、負けた?点数差は…5点、俺が負けている。 「国語のときは焦ったな〜でも良かった、100点取っておいて」 「嘘だろ…なんで、こんな」 「できればもっと点数差つけたかったけど、国語はきびしいね」 「ほ、ほかの教科は…」 3教科の勝負は負けでいいとしても、全教科合わせたらどうなるのだろうか。といっても、他の教科だと俺はそこまで高得点はとっていないが。 「ほか…?生物と倫理と地理は90点台で…保健と化学は満点だったかな。家庭科は20点…」 どう足掻いても勝てない。保健と化学が満点なのも気持ち悪い。家庭科に関しては…なんとも言えないが。全教科で競っていたら、点数差がさらに開いていたかもしれない。大人しく負けを認めるしかないのか。 「……わかった、俺の負けだ」 「本気で落ち込んでるね…そんなに俺に触れてほしくないの?」 「いや、単純に…勉強してないお前に負けたのが悔しい…」 何気なく小笠原に触れてほしくないことを否定してしまった。いやまぁ、間違ってはいないからいいのだが。 「…まぁ、約束通り決行かな?今すぐにって訳じゃないから安心して。流石に夜まで待つよ。」 「夜って…結局今日中じゃねえか」 「まぁまぁ、とりあえず、5点差だから5個だよね…勇也に選ばせてあげるよ。勇也が使ってほしいやつ選んでね。ちょっと持ってくるから待ってて」 そう言って、小笠原は隣の自室へ向かう。気分は最悪だ。あの中から…5個も…。いや、ここは5個で済んだことをありがたく思おう。10個などシャレにならない。 妙に不安でそわそわしながら、小笠原が部屋に戻ってくるのを待っていた。

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