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第72話As a result②
小笠原がダンボールを手に持って部屋に戻ってきた。なんだか前よりも箱が大きい気がするが気のせいだろうか。
「お待たせ。今日中に全部使えるかどうかは分からないけど…どれ使いたい?」
「…どれも使いたくねえよ」
「せっかく選ばせてあげてるのに…じゃあ俺が5個選ぶけどいいの?」
そう言ってダンボールを床に置くと、中からえげつない形をしたディルドのようなものを取り出して俺に見せる。あんなものを使われたら…考えるだけで背筋が寒くなる。
「いや、いい…わかった、自分で選ぶ…」
「ん、どうぞ」
差し出されたダンボールの中を恐る恐る覗いてみる。中のものを手に取って一つ一つ見比べてみるが、どれも初めて見るものだった。なるべく小さいものがいい…
「…これ」
「うん、いいんじゃない?他は?」
まず一つ目は細い棒のようなものにした。これなら別に大丈夫な気がする。あと4つ…これも小さめだ、変な形をしているが分からないのでとりあえずこれでいいだろう。これはなんだ、輪っか…?何に使うのだろうか…3つ目はこれでいいか。
「あと2つかな…決まりそう?」
「…これと、これ…」
もうひとつ最初のと同じくらい細いシリコン製のものがあったのでそれを選ぶ。先に指が入るくらいのリングがあるが、使い道はよくわからない。最後は、そんなに大きくはないのだが玉のようなものが連なった形をした棒?のようなものにした。一応マシなものを選んだつもりだが、どうやって使うつもりなのだろう。
「…はは、すごいマニアックなラインナップだね」
「え…そうなのか?」
「いや、いいと思うよ」
マニアックと言われて少し不安になる。でも、太いものを使うのは怖いし、形が変でも小さいものの方が刺激が少ない気がする。小笠原が俺をビビらせようとしているだけかもしれない。
薬を使われるわけでなければ大丈夫だ、何も考えければ…大丈夫。
「これ、いつ…」
「夜ご飯食べて、お風呂入って落ち着いたらかな…一緒にお風呂入ろうね」
ああ、そういえばそんな口約束もしていた…今になって、やってしまったと思う。そのときは負ける気なんて1ミリも無かったから焦る。挑発されるとすぐに乗ってしまう自分の性分を呪った。
今日の夜のことを不安に思いながら過ごしていた。時間の流れが早く感じる。気づけばもう夕食の時間が近い。憂鬱ながら支度をして夕飯を作ったはいいが、全く食べる気にもならない。
「あれ、勇也もう食べないの?」
「…もういい」
「もしかして具合悪い?なら無理しなくても…」
「俺は男だ…約束は守る」
「そ、そう…」
深呼吸をして立ち上がり、食べ残したものをまとめてラップをし、冷蔵庫にしまった。
小笠原が食べ終わるまで、ソファに座って待つ。その間も、このあとどうなるのかとずっと考えていた。
逃げたい。でもこういう条件でのんでしまったのは自分だ。受け入れるしか無いのか…ちょっと耐えればすぐ終わるだろう。小笠原を調子に乗らせなければ大丈夫だ。
「ごちそうさま…もう少ししたらお風呂入ろっか。」
「…ああ」
「あ、今日どこ使おうかな…うーん…ちょっと来てもらってもいい?」
よく分からずについて行く。2階へ上がると、俺たちの部屋の向かいにある部屋のドアに手をかけた。そういえば、この家にはまだいくつか入ったことのない部屋がある。今までこれといって興味はなかったが、どんな部屋があるのだろう。
「…寝室?」
「ん〜まぁ、うん」
小笠原は曖昧な返事をする。そこの部屋は、広さはさほどないが、大きなキングサイズのベッドがあった。ベッドはシンプルで、ヘッドの部分は柵のようになっている。照明は暗く、室内はぼんやりとしていた。
ああ、〝そういうこと〟に使っていた部屋なのか。確かに、小笠原の自室のベッドは二人はいると狭い。女だとどうかは知らないが。
「俺、自分が寝るベッド汚されたくないし、ほかの人寝かせたくないからさ」
「それで…わざわざ?」
「まぁ、勇也は別に嫌じゃなかったんだけど、何でだろうね。ここのベッドはシーツ毎回買い換えてるし、それなりに綺麗だよ。枕カバーもね。女の子って匂い強いから…」
「…お前、匂い好きって」
「それは勇也の匂いね、好きなんだから当たり前じゃん。勇也のは落ち着くし、香水のきつい匂いもしないし…」
「…そういう、ものなのか?」
「そういうものだよ」
それに関してはいまいちよくわからない。小笠原の匂いがどうとかは、気にしたこともなかった。
というか、今日はここでするのか…妙に緊張する。無理やり屋上やトイレや車のなかでされるのとは違う。
そういうことをするとわかった上でしなければならないのだ。半ば無理やりでもあるが、こちらも一応承認したことになっている。あんな約束しなければ…今更悔やんでも仕方ない、腹を括ろう。
「ここで…するのか」
「うん、いやだった?」
「…床よりはマシ」
「そう…よかった」
扉を閉める時、部屋からかすかに甘ったるい香りがした気がした。先週まで女がここにいたからだろうか、それにしてもこんなに匂いが残るはずはないはずなのに。自分の鼻がとてもいいのは知っていたが、ここまでくると厄介だなと思う。
気にしなければなんてことないのに、一度意識するとそれが離れて消えない。胸のあたりが痛い、緊張からだろうか。小笠原と〝そういうこと〟をすること自体嫌だったが、女の痕跡が残るあの部屋はもっと嫌だった。
「そろそろ、お風呂入る?」
「…ほんとに、一緒に…?」
「この前も入ったし大丈夫でしょ。ちゃんと中洗って準備しなきゃいけないしね」
「え、あ…準備?」
「うん、そりゃ中にもの入れるんだし綺麗にしなきゃ」
「じ、自分でやる…!」
「えー我儘言わないでよ…いや、でも勇也が自分で準備してきてくれるのもなかなか良いな…」
できるだけひとりでいる時間を作りたい。期待を込めて小笠原の方を見る。考えるように首を捻っている。
「…うん、じゃあ俺先に入ってからそこの部屋で待ってるから、準備できたら来て。よくよく考えたら一緒にお風呂入ってそのまま襲っちゃう気がするし」
「…わかった」
そうだ、一緒に風呂に入るとその心配があったんだ。しかし、自分一人で準備するというのもなかなか精神的に堪えるな。弱音を吐いていられない、なるべくゆっくり風呂に入ろう。
そして小笠原が風呂を出たあと、俺は浴室の中でひとり、シャワーとにらめっこをしていた。
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