今の俺達に約束なんてなに一つない。そう出来ない。 俺には美紅という子供がいて、義理の妹と一緒に育ててはいるが紛れもなく俺の子供だ。 義妹と関係を持ったのかと言われればそんなことは一度もない。義妹は体内受精をし俺の子供産んだ。 それは義母が望んだ父の血を引く子供が欲しいと、その願いを叶えたくて俺に縋ってきたことから始まった。 今となれば美陽似の可愛い美紅は俺の宝物だ。生まれてきてくれて感謝している。 そして美紅のおかげで隼人に会えたんだ。美紅は俺達のキューピッドなんだから。 楽しそうに並んで食事の準備をしている隼人は何も聞かない。本当は気になって仕方がない事案なのに、俺だけを信じて側にいてくれる。 何でも言って欲しい。言葉にして欲しくて無理矢理言わせる事もある。溜め込んでいないか、思い悩んでいないかと、隼人の表情をいつも伺っている。 「どうしたんですか？」 視線が合えば嬉しそうに尋ねてくるのに、肝心なところは口にしない。それが切なくてしかたがないんだ。 「隼人、愛してる」 頬から耳まで紅く染めて「僕もです」と返してくれる。 「隼人…辛くはないか？」 「辛いことなんて何もないです。どうしたんですか？」 「いや、何でも言って欲しいだけ」 キョトンとした顔がクスッと笑顔になる。 「高嶺さんは僕が何も言わず溜め込んでると思ってるみたいですけど、僕はちゃんと言ってますよ。こうやって一緒に料理をしたいとか…一緒に眠りたいとか…ちゃんと言ってますよ」 「恨み言でもいいんだ。隼人の胸にあるものを全部聞きたい」 こんなわがまま言って困らせることぐらいわかってる。それでも隼人の全部知りたいんだよ。 「僕の思っていることなんて聞いたらビックリ仰天、本末転倒です。また追々…話せたら話します。でも…高嶺さんのことしか考えていませんよ。ずっと高嶺さんのことばかり。幸せだと思うことに尾ひれはひれがついてるだけですから」 ビックリ仰天…本末転倒？？それに尾ひれはひれ？？ それはどう意味だろうか。 俺がビックリするような、しかも根底を覆す？それに尾ひれ… 固まった俺を不安そうに見上げる隼人は何やら含みのある顔で微笑んだ。 「ふ、深く考えないで。恥ずかしいから」 こんな表情は初めて見る。どうやらあまり踏み込まない方がいいのかもしれない。 「約束して。思ってることを少しずつ言葉にするって。俺が安心したいんだ」 「約束します…恥ずかしいけど。高嶺さんが安心するなら」 なんだか、会話が噛み合ってない気もするが… なんの約束さえしてやれない俺の側にいてくれるなら、そんなちっぽけな約束事でさえ二人の秘め事のようで俺は嬉しかった。