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口は災いの元
なにもないのんびりした休日。
隼人が借りてきたDVDを観ていた。美紅は美陽と実家に出かけていて二人っきりまったりとしていた。
ソファに座る俺の膝を割ってラグに座り背もたれにする隼人を抱え込む。
画面に流れるそれは以前付き合っていた奴と観に行った映画だった。そいつは映画通で色んなジャンルをよく二人で観に行った。いや、連れて行かれた。
「これ観たかったんです」
可愛い顔で恥ずかしそうに一緒に観たかったなんて言われたら観ないわけにはいかないだろう。
流石に前に付き合っていたやつと観たなんて口が裂けても言えない。
ストーリーも中盤に差し掛かり俺は睡魔に襲われ始めた。背もたれに身体を預けたのがいけなかった。
気が付いた時には背を向けていた隼人が膝に頬杖をついてこっちを向いていた。
「疲れてたのにごめんなさい。もう少し寝てて。夕飯、僕が作りますから」
焦点の合った俺に優しく微笑んで立ち上がろうとする。その手を取り身体を引き込んだ。
「どこ行く気?ここに…いて」
ソファに押し倒した隼人の手が伸びて身体を沈め間近で見つめ合う。
「どこにも行きませんよ。ここにいます」
ふふって笑う綺麗な顔とその柔らか声が耳元を擽る。ああ、隼人、君は俺の癒しだよ。
「映画…途中でごめん」
「観たこと、あったんでしょ」
「え?」
「最後はハッピーエンドだって…言って…覚えてないんですか?」
「え…いつ?」
「僕がハッピーエンドじゃなかったらどうしよう…って言ったらハッピーエンドだよって、そう言いましたよ」
頬に伸ばしてきた手が頬を抓る。
「誰かと観た映画でも最後に観るのは僕とがいいです。僕が上書きしたい」
自分で抓ったくせに優しく撫でるその指にキスをした。
「全部が上書きされてるよ。全部塗り替えられてる。隼人が全部に…」
細い指が唇を押さえる。そして
「もう言わないで…恥ずかしくて…死ぬ…」
可愛く潤んだ瞳が俺を映す。
「死なれたら困るからやめとくよ。でももう、隼人しか愛せないから。それだけは覚えておいて」
愛を囁けば隼人の意識は俺だけに向くとわかっていた確信犯な俺を許してくれ。俺だって上書きされたいんだよ。
寝言も口から出る災いの元になる。
もう、寝言も言うまい。全て隼人のモノがよそ見しているなんておかしな話だからな。
合わせた唇はまた、色香を漂わせ俺を虜に…過去なんて消してしまうんだよ。
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