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通り道
会社からの帰り道、ホームセンター並みの大きな園芸専門店がある。
この道をもう何年も通っているのに気がついたのは最近だ。花に興味がないってのもあるが、俺には縁のないところだと思っていた。
今日は思いのほか早く帰れたので家路を急ぐ。もしかしたら隼人を拾って帰れるかもと期待していた。偶然時間が重なって同じ家に帰る。そんな喜びも同居のスパイスなんじゃないかと顔が緩む。
驚いて顔を緩ませる隼人の顔が見たい。幸せを感じる瞬間を思い描きアクセルを踏んだ。
園を過ぎスピードを落とす。隼人の気配を探すように歩道に意識を向けた。
車内の時計ではもう園を出ているはず。駅までの道で隼人に会いたい。あの嬉しそうに俺を見て笑う顔が見たい。
視界に園芸専門店が入り、入口に見知った姿を見つける。
隼人…?
隼人は物に執着しない。というか物を増やさない。今流行りのミニマリストを地でいくスマートな人だと思う。稼いだ金を何に使うんだろうかと疑いたくなるくらいだ。
花を覗き込むその横顔に釘づけになる。
愛おしいそうに手を伸ばし、花びらに触れやんわりと微笑んでいる。周りを見渡し何かを選ぶ仕草に引かれ駐車場に乗り入れた。
隼人を追い、店の入り口へと急ぐ。少し中を見ている後ろ姿を見つけそっと近寄った。
花が好きだったのか…嬉しそうに眺めているその顔に癒される。愛している人の喜ぶ顔を見るのは幸せだ。何が欲しいんだろう。花なんて買ってきたことなんてないのに…ふとよぎった疑問に隼人の性格を重ねる。
…俺に気を遣ってるんじゃないのか?
同棲といっても元は俺の家だ。物を増やさないのは性格でも、好きな事を我慢しているんじゃないかと不安がよぎる。
隼人の性格なら…あり得る事だ。
「何をお探しですか?」
近寄った後ろ姿に声をかけて見た。
びっくりした表情で振り返り、俺の顔を見て花が咲いたように微笑む。
「どうしたんですか?!」
胸を押さえる仕草に微笑み返す。そりゃそうだろうな、こんな所に俺がいるとは思わないだろう。
「通りがかって隼人が見えたからな。仕事、お疲れ様」
「お疲れ様です…ほんとびっくりした…」
「花が欲しいのか?」
視線を落として花を見て、左右に首を振った。
「僕はすぐ枯らしちゃうから可哀想だし…こうやって見てると癒されるんですよね。だからよくこうやって癒されにくるんですよ。お店の人にしたら冷やかしの客だけど」
買って枯らして可哀想にと後悔した過去があるから買わずに見て癒される。隼人らしい。花にかける愛情と哀れむ感情に少し妬けたことは隠しておく。
「買えばいい。枯れない…そうだな観葉植物でも。部屋が潤うんじゃないのか。うん、そうしよう」
腕を引き、店内に入っていく。
「琥太郎さん、買わなくてもいい、いいです!」
「いいじゃないか、一緒に選んだ植物を置こう。二人で選んだ物を増やしていかないか?」
「でも…枯らしてしまったら…」
「隼人と共有するものが増えて俺は嬉しいよ。枯れないように二人で育てよう」
じっと見つめるその目がゆらり揺れた。それが何を意味するのかなんとなくわかるだけに微笑んで見せる。
「ありがとうございます…嬉しい…」
店内を歩き回り、隼人が足を止め食い入るように見つめたその植物。詳しくない俺はプレートに書かれた説明書きを読んだ。
「可愛い葉っぱですよね」
手のひらのような形の葉に手を添えて同じようにプレートを覗き込む。
「育てやすそうだな、手入れもさほどいらないらしい。これにするか?」
嬉しいそうに手のひらに乗せた葉を愛おしいそうに眺める。その顔を見れるなら安いものだと絆されてしまう。
後部座席にそっと乗せ、車は自宅へと向かう。何度も振り返りそれを見つめて嬉しそうに微笑でいる。
「ありがとうございます。大切に育てます」
「一緒にな」
伸ばしてきた隼人の手を握りしめる。何気なく通り過ぎる道でも、こんな発見があって喜んで貰えるサプライズに、手の温もりを感じながら我が家へと急いだ。
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