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覚の章17
「次の満月の夜、ですか」
玉桂から織との婚儀のことを聞かされた詠は、指を折って婚儀までの日数を数え始める。数週間後の話だ。それまで四六時中みっちり調教されれば、織も完全に玉桂へ堕ちるだろう……そう思った。
「婚儀にて、玉桂様への愛を誓ったとき――織さまは、人間でなくなるのでしたっけ?」
「ああそうだ。人間のような短い命では、私の妻にはなれないからな。神の妻に相応しく、織自身にも神になってもらうのだ」
「そうですか。そうなったら、織さまはもう、碓氷家には戻れませんね」
人間でなくなり、家族からあぶれてゆく織を想像して、詠のなかの闇が疼く。彼の不幸が、喜ばしい。
しかし。
「どうした、詠よ。覚が不安げな顔をしているぞ」
「……えっ」
心のどこかで、織の決定的な不幸を嘆いていた。玉桂の言葉に慌てて振り向けば、侍らせていた覚が表情を曇らせている。
「……長いものですから。流石に私も、織さまに、情があったのかもしれませんね」
玉桂と結婚すれば、二度と人間たちのの輪に入れなくなるだろう。そんな、織のこれからの不幸を決定する……それを、詠の心は恐れていたらしい。
自分が腐っているとばかり思っていた詠は、そんな自分に驚いた。まだ、そんな人間らしい心が残っていたのかと。
「……大丈夫ですよ。織さまも、壊れてしまえばなんにもわからなくなるでしょう」
……だからといって、自分が何をするというのか。
理解できない、自分の心に詠はため息をついた。
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