「――……っ、」 　鈴懸が、織の体を起こす。絶頂に達してしまってくたりとしたその体は、鈴懸に支えられてなんとか座位を保持できている程度。自分の力ではもはや動くこともできず、織は鈴懸の腕のなかでひくんひくんと小さく震えていた。 「すずかけさま……」 「ほら……体の隅々に俺のことを上書きしてやる」 「あっ……」 　鈴懸は片腕で織を抱きながら、もう片方の手で丁寧に全身を撫でていった。ゆっくり、ゆっくりと。つま先から太股まで。腹から背中。胸と脇。じっくり、じっくりと織の肌に触れていき……そして、耳元で「愛している」と囁き続けた。 　吐息混じりの、湿度の高い「愛している」。織は囁かれるたびに、甘い声をあげて体をひくつかせる。瞼を伏せ、長い睫毛の先に付着した涙の雫をふるわせて。そして、唇からなまめかしい吐息を吐き出し、熱を逃がす。 「あ……ぁ……」 「織……綺麗だ。好きだ。愛してる、織……」 「あッ……、……ッ、……ん、く……」 　勃ちあがり、白い太股の間にゆらゆらと揺れている織のもの。もう、先走りがとろとろと流れ出ていて、織の股間はびしょびしょだ。鈴懸の手が滑るたびにひくんっ、とそれはひくついて、目の毒といっても過言ではないくらいにいやらしい。 「だめ、……すずかけさま……もう、……」 「ん、……イクのか？　いいぞ、思いっきりイっても」 「は、ぁっ……、……おかしく、なっちゃ……だめっ……あ、……」 　鈴懸がぐっと織に顔を近づける。ちろ、と唇を舐めてやれば、織がふうっと目を開いて、とろんとした目で鈴懸を見つめ返してきた。 　体をなで続けながら、唇を触れあわせる。口づけをする、というわけではなく、ただ触れあわせた。「愛している」と言ってみたり、ちゅ、と唇を奪ったり、ちょっと舐めてやったり。そうして甘い甘い空気が二人を包めば、織はもうされるがまま。は、は、と短い感覚で呼吸をしながら蕩けた声をあげ、鈴懸の愛撫を受けていた。 「織……」 「すずかけさま……」 　抵抗も、徐々になくなってゆく。甘ったるく緩やかな快楽が、織の心を縛り付けるものをほどいていったのだろう。織はもう、鈴懸に触れられたくてたまらないというように、甘えるようなまなざしで鈴懸を見つめている。 「もっとして」を言えない、織。そんな織の気持ちを汲んで、鈴懸は目を細めた。頬に手をそえて、しっかりと唇を重ねる。 「ん――……」 　鈴懸が、ゆっくりと織の口の中に舌をいれてゆく。舌を絡め取られて、織は鼻から抜けるような高い声を漏らした。びく、びく、と体をふるわせて顔を蕩けさせている。 「んん、……ん――……」 　口づけをされ、舌をいれられただけでとろとろになってしまった織。 　可愛い。可愛い。なによりも可愛い。 　自分のキスで蕩けてしまっている織がとにかく可愛くて、鈴懸は思わず興奮してしまう。ぐっと舌で織の口内をかき回し、舌を愛撫し、激しい口付けをしてしまった。 　……すると。 「……っ、……、……ッ、！」 　織が腰をビクンッと跳ねさせ、そして、ちょろろろろろ……と潮を吹いてしまう。鈴懸が目をあけて織の顔を覗き見てみれば、織はとろん……と可愛らしく表情を蕩けさせ、気持ちよくてたまらないとでもいうように頬を染め……「幸せ」と言う声が聞こえてくるような、そんな顔をしていた。そんな、甘ったるい表情で。織が潮吹きなんてものをしてしまったものだから、鈴懸はさらに興奮してしまって、それはまるで獣のように織の唇を貪った。 「織、……織っ……」 「あっ……、ん……、ん……」 　織を押し倒し、覆い被さり、食べてしまうような勢いで口付けをする。 　鈴懸の、熱い熱い、劣情を汲んだ瞳。それに射抜かれて、織は頭が真っ白になってしまっていた。竜神の、あまりにも美しい彼に、ここまで求められて心臓を射抜かれぬ者など存在しないだろう。まして、織にとって鈴懸は恋い焦がれ想い続け、何度も枕を濡らした男。そんな彼に熱い求愛を受け、織はもう……天にも昇るような、そんな気持ちだった。彼の口づけに体が歓びに歓んでしまうのは、仕方のないことだった。 　大げさなくらいに大量の潮を吹き、下半身の力が抜けて勝手に脚が開いてゆく。腰がガクンガクンと震え、無意識に覆い被さる鈴懸の体にアソコをすり付けてしまう。そんな、あまりにも淫らな織のイキ姿。口付けだけでここまでイかせることができたということに、鈴懸は満足した。 「あ……」 　ゆっくり、体を起こす。 　鈴懸に見下ろされている織は、もう……完全に、鈴懸のものになっていた。熱に浮かれた瞳で鈴懸を見つめ、頬を真っ赤にし、「好きにして」と言っているように体をくったりとさせている。鈴懸がそっと織の肌を胸から下腹部に手を滑らせれば、織はひくひくと体をふるわせて、立ち上がったものの先っぽから透明な雫をつるりとこぼしてくれた。 「玉桂に抱かれるより、気持ちいいだろ？」 「はい……口づけだけで、からだが、……もう、こんなに……」 「なあ、まだ、言えるか？　玉桂に穢されたなんて、今のおまえが。おまえは、俺のものだよ。違うか」 「……っ」 　いやらしい、柔肌を。鈴懸の視線が撫ぜる。織はもう、とろとろになって、鈴懸の視線だけで感じてしまって。ぴくっ、ぴくっ、と体をふるわせて、物欲しそうに鈴懸を見上げた。 「鈴懸、さま……、……鈴懸、……鈴懸、……」 　ゆっくり、織が、自分の脚を抱き抱える。腕に膝の裏をかけて大きく開脚し、鈴懸にむかって自らの孔を見せつける。そして、指をつかって孔をくぱぁ……と開くと、蕩けた瞳で鈴懸を見つめ返した。 「鈴懸のものにして……」 　からからからから、かざぐるまが廻る。 　織が「玉桂に穢された」という後ろめたさよりも「鈴懸と一緒になりたい」という想いが勝った瞬間だった。「鈴懸に愛されたい」と心から願った瞬間だった。 「――愛してる、織」 　鈴懸が織を抱き寄せ、そしてその孔に熱いものをあてがう。先端をいりぐちにぴたりとあててやれば、織が熱っぽい瞳でソコを凝視してきた。お互いの「ひとつになりたい」という想いがあふれんばかりに高まっていき、鈴懸は一気に、最奥に突き上げる。 「あぁっ――……！」 　その瞬間、織の体はガクンと力がぬけ、ぷしゃーっ、と激しく潮吹きをした。鈴懸は織の潮が体にかかるのも気にせずに、その体を抱き寄せる。 　いれた瞬間に、イった織の体。もう、彼は自分のものだと、鈴懸は自らの熱を刻みつけるようにして激しく織の腰を突き上げた。ズンッ！　ズンッ！　と思い切り奥を突き上げれば、織は甲高い声をあげ、潮を吹きながらイキまくる。 「ぁひっ、あっ、すずかけっ、あっ、すずかけ、っ、すずかけっ」 「もっと、もっと俺の名前、よべ、……織……」 「すずかけっ……すずかけっ……」 もう、下腹部は織の吹き出した潮でびしょびしょだ。肉がぶつかるぱんぱんという音とともに、潮のはじけるぴしゃぴしゃという音が鳴る。 「はぁ、……織、……おまえは、誰のものだ、……」 「すずかけのっ、……ものっ……」 「誰と一緒にいたい、」 「すずかけと、……いっしょに、……いたいっ……」 鈴懸の抽挿は激しさを増してゆく。織は鈴懸に突き上げられイクたびに玉桂によって乱された哀しみが薄らいでいくような、そんな感覚に見舞われた。自分の体が、鈴懸のものになってゆく感覚をじわじわと感じ取っていた。 「すずかけっ……すずかけ、……俺、……」 重なる視線。弾けた熱視線。吐息が交われば織はとろんと目を蕩けさせて、アソコをきゅんきゅんと締め付ける。蓄積される快楽と共に、織は鈴懸への想いを体の中で膨らませていた。 「すきっ……鈴懸のこと、……好きっ……すき……！」 そして、その想いを、口にする。 その瞬間。織は体を硬直させ、のけぞらせ――今までで一番に激しい潮吹きをした。「あぁ――……」とどうしようもなくなっているような声をあげながら。認めた恋心が、織の体になによりの幸福を与えていた。 なかも、キツく締まった。だから――鈴懸の絶頂も、織を後追いするように訪れる。潮を吹きながらとろとろになっている織に、精をそそぎ込んだ。 「すずかけ、……」 かく、かく、と絶頂の余韻に浮かされながら、織は鈴懸に抱かれつぶやく。その瞳はしっかりと鈴懸を見つめていて……もう、そこに哀しみは湛えていない。 鈴懸はもう一度織に口づけをする。そうすれば、織は幸せそうに目を閉じて……涙を流した。