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千歳の章2
***
月の世界から帰ってきて、数日。ようやく動く気力を取り戻した織は、久々に外に出ることにした。
「なんか、ここ。懐かしいな」
「……うん、」
――鈴懸と、一緒に、だ。
ほんの少しだけ欠けた、更待月。虫の鳴く、星の瞬きの聞こえる刻。体に障らぬよう、日が暮れてから外に出ることにした織であったが、これが偶然にも懐かしい記憶を思い起こさせる。
庭の木の上に昇って、鈴懸と口づけをし損ねた、あの記憶だ。
あの時のように、二人は木の上に昇って、静かに月を眺めていた。織はまだ気だるさの残る体を、鈴懸に預けて。
「――織」
「……、……はい」
鈴懸は織の腰に手を回し、静かな声を発する。夜の闇に溶けいるようなその声は、耳触りがよく、織はその心地よさにほう、と溜息をつく。
「……俺、おまえのことが好きだ」
「……俺、も……貴方のことが、……好きです」
とく、とく、と自らの心臓の音がやけに響く、静寂。肌に染み込む涼しい風が、火照る体を少しだけ冷ましてくれる。
「……まだ、ちゃんと言ってなかったな。……織。俺の恋人になってくれないか」
織の睫毛が、震えた。月明かりがつくりだす睫毛の影が、音もなく揺れる。
織は朱に染まった頬を鈴懸に擦り付けて、きゅっ……、と鈴懸の腕にしがみつき。ぴんと張り詰めた緊張をほぐすように目を閉じて。吐息と共に、答えた。
「……はい。俺を、貴方の恋人にしてください……」
――二人が、見つめ合う。鈴懸の手が、織の頬を撫でる。
二人の影が、重なった。草木を撫ぜる夜風が、抜けてゆく――
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