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千歳の章3
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「ほう、折り入って妾に相談だと。どうしたのだ、織」
よく晴れた昼間のことだった。織の体調も回復し、平凡が訪れようとしていた、そんな頃。織は人目を盗んで白百合にある相談を持ちかけていた。
「なに? 鈴懸と閨事ができない? ははあ、霊障のせいか」
晴れて鈴懸と恋人になった織。それはそれは天にも昇るような気持ちであったが、ひとつの悩みがあった。
それは、鈴懸に抱かれることに、抵抗を覚えてしまうということ。散々玉桂に調教された織の体は、他の男を拒んでしまうようになっていた。月の世界の黄金の間では、半分正気を失っていたからそれがなかったものの、こうして意識のはっきりしているときはそうもいかない。鈴懸に触れられそうになると、体が勝手に鈴懸を拒んでしまう。心の中では鈴懸に抱かれたくて仕方のなかった織にとって、それは重い悩みとなっていた。
白百合によれば、それは「霊障」によるものだという。玉桂の妖力が織の体に染み付いてしまったため、他の妖力が入り込んでくるのを体が拒むようになってしまったらしい。
「そ、それを治す方法は……!?」
「なんだ、そんなに鈴懸といやらしいことがしたいか」
「なっ、……それは語弊があります……! く、口付けをされてはその先もしたいと思ってしまうのは、当然でしょう……!」
「口付けだけで十分ではないか」
「そっ、……そんな、……」
困ったように眉をへの字に曲げる織をみて、白百合はにたにたと笑っている。その顔を見れば一目瞭然。白百合は、霊障を祓う方法を知っている。
「そうだなぁ、素直に言えば教えてやってもいいぞ?」
「な、なにを……?」
「はっきりと言うがよい。なぜ、そんなに霊障を解消したいのだ?」
「……っ、」
白百合の言及に、織はかあーっと顔を赤らめる。
元々織は、卑猥なことは苦手なのだ。正気の時に、そういったことを発言することなど、できない。……けれど。言わなければ、鈴懸と……。
「す、鈴懸さまに……その、っ……だ、だ、だ、抱かれ、たい……からです、」
「もう一声」
「すっ……鈴懸さまといやらしいことがしたいからです……!」
「もっと正直に」
「鈴懸さまに! めちゃくちゃにされたいからです……!」
もう、やけになって。織は思いの丈をぶちまける。顔を真っ赤にして、それはもう恥ずかしそうに。
白百合はそんな織を見て、にやぁ……といやらしく笑う。満足気に、狐のごとく瞳を三日月型に細めると、一言。
「――ということらしいぞ? 鈴懸」
――ここにはいないはずの男の名を呼んだ。
織がさっと顔を青ざめさせて白百合が呼びかけた方を見れば――
「すっ……鈴懸っ!?」
そこに、織に負けじと顔を赤くした鈴懸が立っている――間違いなく、彼は聞いたのだろう。織が、鈴懸に対して思っていることを。それを悟った織はこの世のお割りとでもいうようにわなわなと震えだしたが、白百合はそんな織の様子など気にもとめず、つらつらと言う。
「……さて、霊障を祓う方法だったか。ここから少し離れたところにある、神帰 の泉に行くといい。そこで体を清めれば、霊障はとれるだろう」
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